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第四章 風の連理編
20.気まぐれ者達の恩返し
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腕相撲対決で一悶着起こしたシキ達は、逃げるように露店通りから離れていた。
「うむ、露店通りから追い出されてしまった」
「追い出されてしまった。じゃないですよシキさん! あからさまな挑発に乗らないでください」
「…………」
意気消沈しているが、コア探しはまだまだ終わっていない。引き続きコアのありそうな場所を探して、シキ達は別の露店街を歩いていく。すると何やら、露店の一つに見覚えのある顔が並んでいた。
「む、向こうにいるのは確かルックとか言ったか?」
「入国時の……彼もエーテル結晶を取り扱っているようですし、聞き込みも兼ねて訪ねてみましょうか」
入国時、魔術をかけられ商品を買わされそうになるという珍事に巻き込まれたシキ一行。
しかしその実態は糸目の商人ルックの相方である、招き猫カムカムの仕業であった。
仕組みが分かれば対策も立てやすい。
ネオンに注意をさせながら、三人はルックとカムカムが待ち受ける露店へと足を運ぶ。
「おや? あなた方は確か……」
「ある物を探していてな。エーテルコアとやらに聞き覚えは無いか?」
ルックの露店は移動型店舗よりもっと簡易な敷物であり、その上に結晶の入った箱が数個並んだ、設置も撤収も一瞬で終わる駆け出しの商人らしい簡素なものであった。
一見して売り物の中にはコアは見受けられなかったが、シキの問いに対しルックは自信満々に答える。
「もちろんありますよ! 先日ナルギットの国庫から売り出されたという至高のエーテル結晶ですよね!」
「そうだそれだ! それがどこに売っているか知らないか?」
「さあ……アレはアレ自体を売ったというよりも、流通しているという話を流して、売買の活性化を狙ったものだと思います。なのでどこに売っているかは知っていても、誰も話さないと思いますよ」
「……確かに、その手であれば分からないな」
コアが流れたと知れば、所有物に自らの価値を見出す貴族から強力な武具が欲しい冒険者まで、様々な理由で求めてナルギットへとやって来るであろう。
しかしそのほぼ全てが本物の見分け方は分からず、偽物を手にする可能性は高い。さらに滞在中や他の物資の補給にもと、人が集まるだけで国内に金が流れる。
コア一つの流れであらゆるものを売り込もうとする、商業大国らしいやり方だとシキは感じ取った。
一方のエリーゼはと言うと、今までの話を聞いて商売人の身内らしい疑問を浮かべていた。
「ルックさんは、売り物をコアだとは言わないのですね」
「はい……? 僕が取り扱っている物は直接採掘したものなので、どうあがいても国庫から出た物とは言えません。仮に偽れたとしてもそんな売り方ではお客様に信頼して頂けないですし、僕はやらないですよ」
「何と眩しい……! 隣のヤツは心が痛まないのか!?」
ルックの真面目な姿勢に、一行は心を打たれる。
それと同時に、魔術を使って客を集めているルックの相棒カムカムに対し、蔑みの目線を送ってしまう。
どうしてここまで真摯に取り組むルックへ、あくどい手を使ってまで手助けをしているのか。
エリーゼは並んだ良質な商品を見ながら、何か理由があるのかとその入手方法を伺った。
「ちなみにですが、ルックさんの採掘方法はお伺いしても?」
「ええもちろん。僕は土を柔らかくする魔術を扱えますので、まずはありそうな場所を探して広範囲に発動。魔術の行き届かなかった箇所は何かが埋まっていますので、そこへ出力を集中させて再度発動し採掘しております。なので僕の扱う商品はどれも高品質な天然物ですよ!」
ルックの言う通り、彼の売り物は自然から直接採掘した正真正銘の天然物だ。
偽る必要性が無いほど、その価値もエーテルも高品質は間違いないであろう。
採掘方法と聞いてシキはコア探しの参考になるかもと考えるも、その手法を知ると活用は難しいと感じ取る。
「コア探しには……向かないか。せめて色でも分かれば捜索も捗るのだが」
「それでしたら、ほぼ確実に黄色だと思いますよ」
「どうしてそう言い切れる?」
「基本的に自国の色を所持していますし、仮に他国のコアを手に入れても、国家間の取引が一番安定していると思います。それに勝手に売ったらそれこそ国際問題に発展しかねないでしょう。もし手に入れていたとしても、秘密裡に売るか使用するかと」
エーテルコアの色と同じ色を主とする、大国の存在。赤のコアを扱うグラナートに紫のダーダネラや橙のエルフ達と、どの国も同じ色のコアを主力としているのは明白であった。
それに加え各国の情勢や力関係なども考慮すると、ルックの言っている話は間違いなく真実であると推察出来る。
記憶喪失であったシキも、少しずつこの世界について理解を深めているつもりであった。
だが特定の国に属している訳でもなければ、大国に入ったのも今回が初であったため、国家間の問題についてはまだまだ理解が及んでいなかったと痛感する。
「確かに……他の色ならわざわざ大々的に話を流さないな」
「え、シキさん知らずに探していたのですか……?」
「知っていたのなら先に教えてくれないか!?」
「はぁ……シキさんはそういう人でしたね。忘れておりました」
エリーゼに呆れられながらも、シキに彼女を責める事は出来ない。目の前の問題ばかりに気を取られ大きな視野を持っていなかったのは、シキの性格から来る課題であったからだ。
赤の国の人物と敵対する以上、各国の情勢についても理解を深めなければとシキは改めて自省する。
小さく拳を握るシキの隣で、一通り話を聞いたエリーゼが商品の一つである結晶に手を伸ばす。
そしてルックの売り物や採掘方法、隣で悪さする相棒の存在などを鑑みて、今彼に起きている問題の一つを
お礼にと言って紐解いて見せた。
「ではお礼ではないですが、魔道具屋の孫として一つルックさんに助言を」
「はい? なんでしょう?」
「質の良い天然結晶を取り扱っているのでしたら、消耗品需要の多い国の出入口ではなく、長期需要のある職人や住民の多い商店街を中心に活動すると良いかも知れません。でしたら無理に売り込む必要もありませんし」
「ミャーウ……?」
隣で耳を傾けていたカムカムが、エリーゼの軽口に思わず鳴き声を上げて反応した。
同じように話の内容を理解したルックも、エリーゼの的確な助言に頷く。
「なるほど長期需要ですか。僕自身も冒険者なためか視界が狭まっていたようです。ありがとうございます!」
「いえいえ、それでは私達はコア探しへと戻ります。黄のコア探しに」
「う、うむ。そうだな。では邪魔をしたな。ネオン、お前ももう行くぞ」
「…………」
念を押すような色の情報に、エリーゼの祖母譲りの気の強い性格を再認識させられるシキ。
あまり彼女の機嫌を損ねてはならないと、ネオンも早く着いて来るようにと声をかける。
いつの間にかカムカムの正面に立ち、その気まぐれな様子をジッと見つめていたネオン。
良く動物に好かれるネオンも、この気難しい猫に対しては負けていたようだ。
シキの呼びかけに応じ、ネオンはカムカムの前から離れる。
手を振り三人を見送るルック。そんな彼と三人を交互に見つめるカムカム。
三人の姿が見えなくなる直前に、カムカムは不意に前脚を伸ばし手招きを始める。
「ミャウ!」
「あら………あらら?」
「どうしたエリーゼ、買い忘れでもあったか?」
「いえ……競売についてルックさんに聞かないと」
「競売?」
ふらふらと巻き戻るように後ろへ歩くエリーゼに、不思議に思いながらも着いて行くシキとネオン。
エリーゼはルックの前に戻るや否や、競売とやらについて問いかける。
「あっそうでした……競売の関係者なら何か知っているかも知れません!」
「なんだ? まだ何か知っているのか?」
エリーゼ達に問われ、ルックは思い出したかのように語り出す。
商業大国で商売をする者達に伝わる、とある噂話について。
「あくまで商人の間で流れている噂話なのですが、国庫から売りに出す際は、国有数の商人を呼び出して競売をさせ取引しているらしいです。なのでコアの買い手はその中に居る可能性が高いかと!」
「国有数の商人か……感謝する!」
「いえいえ、では良い旅を!」
最後の最後に伝えられた、新たなる情報。
国有数の商人と聞き、シキはある人物の顔が浮かんでいた。
改めて三人を見送るルックは満足げに手を振りながら、隣でそっぽを向く相方へと語り掛けていた。
「エリーゼさんのおかげで、忘れていた大切な情報を伝えられました。でも急にどうしたのでしょう? 知っていたのなら真っ先に聞いてもいいですのに。ねぇカムカム」
「……ミャーウ」
それは誰を想っての行動だったのか。
気難しい三毛猫の心境は、他の何者にも分からないのであった。
「うむ、露店通りから追い出されてしまった」
「追い出されてしまった。じゃないですよシキさん! あからさまな挑発に乗らないでください」
「…………」
意気消沈しているが、コア探しはまだまだ終わっていない。引き続きコアのありそうな場所を探して、シキ達は別の露店街を歩いていく。すると何やら、露店の一つに見覚えのある顔が並んでいた。
「む、向こうにいるのは確かルックとか言ったか?」
「入国時の……彼もエーテル結晶を取り扱っているようですし、聞き込みも兼ねて訪ねてみましょうか」
入国時、魔術をかけられ商品を買わされそうになるという珍事に巻き込まれたシキ一行。
しかしその実態は糸目の商人ルックの相方である、招き猫カムカムの仕業であった。
仕組みが分かれば対策も立てやすい。
ネオンに注意をさせながら、三人はルックとカムカムが待ち受ける露店へと足を運ぶ。
「おや? あなた方は確か……」
「ある物を探していてな。エーテルコアとやらに聞き覚えは無いか?」
ルックの露店は移動型店舗よりもっと簡易な敷物であり、その上に結晶の入った箱が数個並んだ、設置も撤収も一瞬で終わる駆け出しの商人らしい簡素なものであった。
一見して売り物の中にはコアは見受けられなかったが、シキの問いに対しルックは自信満々に答える。
「もちろんありますよ! 先日ナルギットの国庫から売り出されたという至高のエーテル結晶ですよね!」
「そうだそれだ! それがどこに売っているか知らないか?」
「さあ……アレはアレ自体を売ったというよりも、流通しているという話を流して、売買の活性化を狙ったものだと思います。なのでどこに売っているかは知っていても、誰も話さないと思いますよ」
「……確かに、その手であれば分からないな」
コアが流れたと知れば、所有物に自らの価値を見出す貴族から強力な武具が欲しい冒険者まで、様々な理由で求めてナルギットへとやって来るであろう。
しかしそのほぼ全てが本物の見分け方は分からず、偽物を手にする可能性は高い。さらに滞在中や他の物資の補給にもと、人が集まるだけで国内に金が流れる。
コア一つの流れであらゆるものを売り込もうとする、商業大国らしいやり方だとシキは感じ取った。
一方のエリーゼはと言うと、今までの話を聞いて商売人の身内らしい疑問を浮かべていた。
「ルックさんは、売り物をコアだとは言わないのですね」
「はい……? 僕が取り扱っている物は直接採掘したものなので、どうあがいても国庫から出た物とは言えません。仮に偽れたとしてもそんな売り方ではお客様に信頼して頂けないですし、僕はやらないですよ」
「何と眩しい……! 隣のヤツは心が痛まないのか!?」
ルックの真面目な姿勢に、一行は心を打たれる。
それと同時に、魔術を使って客を集めているルックの相棒カムカムに対し、蔑みの目線を送ってしまう。
どうしてここまで真摯に取り組むルックへ、あくどい手を使ってまで手助けをしているのか。
エリーゼは並んだ良質な商品を見ながら、何か理由があるのかとその入手方法を伺った。
「ちなみにですが、ルックさんの採掘方法はお伺いしても?」
「ええもちろん。僕は土を柔らかくする魔術を扱えますので、まずはありそうな場所を探して広範囲に発動。魔術の行き届かなかった箇所は何かが埋まっていますので、そこへ出力を集中させて再度発動し採掘しております。なので僕の扱う商品はどれも高品質な天然物ですよ!」
ルックの言う通り、彼の売り物は自然から直接採掘した正真正銘の天然物だ。
偽る必要性が無いほど、その価値もエーテルも高品質は間違いないであろう。
採掘方法と聞いてシキはコア探しの参考になるかもと考えるも、その手法を知ると活用は難しいと感じ取る。
「コア探しには……向かないか。せめて色でも分かれば捜索も捗るのだが」
「それでしたら、ほぼ確実に黄色だと思いますよ」
「どうしてそう言い切れる?」
「基本的に自国の色を所持していますし、仮に他国のコアを手に入れても、国家間の取引が一番安定していると思います。それに勝手に売ったらそれこそ国際問題に発展しかねないでしょう。もし手に入れていたとしても、秘密裡に売るか使用するかと」
エーテルコアの色と同じ色を主とする、大国の存在。赤のコアを扱うグラナートに紫のダーダネラや橙のエルフ達と、どの国も同じ色のコアを主力としているのは明白であった。
それに加え各国の情勢や力関係なども考慮すると、ルックの言っている話は間違いなく真実であると推察出来る。
記憶喪失であったシキも、少しずつこの世界について理解を深めているつもりであった。
だが特定の国に属している訳でもなければ、大国に入ったのも今回が初であったため、国家間の問題についてはまだまだ理解が及んでいなかったと痛感する。
「確かに……他の色ならわざわざ大々的に話を流さないな」
「え、シキさん知らずに探していたのですか……?」
「知っていたのなら先に教えてくれないか!?」
「はぁ……シキさんはそういう人でしたね。忘れておりました」
エリーゼに呆れられながらも、シキに彼女を責める事は出来ない。目の前の問題ばかりに気を取られ大きな視野を持っていなかったのは、シキの性格から来る課題であったからだ。
赤の国の人物と敵対する以上、各国の情勢についても理解を深めなければとシキは改めて自省する。
小さく拳を握るシキの隣で、一通り話を聞いたエリーゼが商品の一つである結晶に手を伸ばす。
そしてルックの売り物や採掘方法、隣で悪さする相棒の存在などを鑑みて、今彼に起きている問題の一つを
お礼にと言って紐解いて見せた。
「ではお礼ではないですが、魔道具屋の孫として一つルックさんに助言を」
「はい? なんでしょう?」
「質の良い天然結晶を取り扱っているのでしたら、消耗品需要の多い国の出入口ではなく、長期需要のある職人や住民の多い商店街を中心に活動すると良いかも知れません。でしたら無理に売り込む必要もありませんし」
「ミャーウ……?」
隣で耳を傾けていたカムカムが、エリーゼの軽口に思わず鳴き声を上げて反応した。
同じように話の内容を理解したルックも、エリーゼの的確な助言に頷く。
「なるほど長期需要ですか。僕自身も冒険者なためか視界が狭まっていたようです。ありがとうございます!」
「いえいえ、それでは私達はコア探しへと戻ります。黄のコア探しに」
「う、うむ。そうだな。では邪魔をしたな。ネオン、お前ももう行くぞ」
「…………」
念を押すような色の情報に、エリーゼの祖母譲りの気の強い性格を再認識させられるシキ。
あまり彼女の機嫌を損ねてはならないと、ネオンも早く着いて来るようにと声をかける。
いつの間にかカムカムの正面に立ち、その気まぐれな様子をジッと見つめていたネオン。
良く動物に好かれるネオンも、この気難しい猫に対しては負けていたようだ。
シキの呼びかけに応じ、ネオンはカムカムの前から離れる。
手を振り三人を見送るルック。そんな彼と三人を交互に見つめるカムカム。
三人の姿が見えなくなる直前に、カムカムは不意に前脚を伸ばし手招きを始める。
「ミャウ!」
「あら………あらら?」
「どうしたエリーゼ、買い忘れでもあったか?」
「いえ……競売についてルックさんに聞かないと」
「競売?」
ふらふらと巻き戻るように後ろへ歩くエリーゼに、不思議に思いながらも着いて行くシキとネオン。
エリーゼはルックの前に戻るや否や、競売とやらについて問いかける。
「あっそうでした……競売の関係者なら何か知っているかも知れません!」
「なんだ? まだ何か知っているのか?」
エリーゼ達に問われ、ルックは思い出したかのように語り出す。
商業大国で商売をする者達に伝わる、とある噂話について。
「あくまで商人の間で流れている噂話なのですが、国庫から売りに出す際は、国有数の商人を呼び出して競売をさせ取引しているらしいです。なのでコアの買い手はその中に居る可能性が高いかと!」
「国有数の商人か……感謝する!」
「いえいえ、では良い旅を!」
最後の最後に伝えられた、新たなる情報。
国有数の商人と聞き、シキはある人物の顔が浮かんでいた。
改めて三人を見送るルックは満足げに手を振りながら、隣でそっぽを向く相方へと語り掛けていた。
「エリーゼさんのおかげで、忘れていた大切な情報を伝えられました。でも急にどうしたのでしょう? 知っていたのなら真っ先に聞いてもいいですのに。ねぇカムカム」
「……ミャーウ」
それは誰を想っての行動だったのか。
気難しい三毛猫の心境は、他の何者にも分からないのであった。
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