この世界には『私』が眠っている。〜記憶喪失で魔術の使えない男は、一言も喋らない少女と共に『魔力』を取り戻す旅に出る〜

夜葉@佳作受賞

文字の大きさ
155 / 169
第五章 永遠の探求者編

05.迷える来客

しおりを挟む
 シキ達が扉の奥に進んでから、しばらく経った後。
 静まり返った洞穴の片隅で、その少女は気を失っていた。

「……きろ。おい、起きろって」

 ボーっとする意識の中に、力強い声がこだまする。
 馴染みのある声を聞いて、朦朧としていた感覚が少しずつ回復していく。

 どうして眠っていたのか。直前にやっていた事と言えば確か――。

(あれ、ボク達はコアを追いかけて……)

「おい起きろヅッチ。いつまで寝てる気だよォ!」

「はっ、アルパインさん! おはようございます。そうだ、カンパネラさんを探さないと」

 アルパインの筋肉質な腕に抱かれながら、ヅッチは見知らぬ場所で目を覚ます。
 シャルトルーズの店から飛び出した仲間を追いかけて、黄の国ナルギットを駆けた記憶が蘇る。

「あらヅッちゃんおはよう~。何か探しに行くのかしら? 私もお手伝いするわっ」

「そうでした。カンパネラさんには追いついて、そのあと確か……」

 一際エーテル感知に優れた目を持つヅッチにとって、はぐれた仲間を探す事は造作もない。だが問題はその後であった。
 街中で放たれた植物の魔術を前に困惑しながらも、するりするりと身をこなし中心へ近づくカンパネラと、そんな彼女を必死に追いかける仲間達。

 やっとの事でカンパネラに追いつくと、彼女の目指した先から膨大なエーテルが溢れ出す。
 黄のエーテルコアが放つ光を浴びて、目が覚めたら四人とも別の空間に飛ばされていたのだ。

「うう、そうです。強烈なエーテルの光を浴びて目が眩んでしまったのでした。それで、ここはどこなのです?」

「んなもん分かんねえよォ」

「相当危険な場所。ってのは確かネ……」

 薄暗い洞穴の影から誰かが近づいて来て、それが仲間のスリービーと分かった時少し安堵した。
 だが彼女の言葉を聞き、ヅッチはすぐに緊張感を取り戻す。

「向こうの連中はどうだったよォ?」

「追ってた例のコア持ち達が去った後、別の人物が扉の向こうから来たノ。そのままぐったりとした彼らを連れて、扉の中に戻っていったヨ」

 どうやら自分が気を失っている間に、何かあったらしいと察する。薄暗い洞穴の、さらに岩陰になるような場所へ留まっている状況から見るに、自分達は何かから隠れていたのだろうか。

 遅れを取った負い目と自分抜きで話が進んでいた疎外感からヅッチは必死で状況を知ろうとするが、彼女があれこれ考えている内に事態は目まぐるしく進んでいく。

「もう誰も居ないのでしたら、隠れなくても大丈夫かしら~。さて、あの扉の向こうに行けば、コアが手に入るのね。あぁ、こんなにワクワクする時は~楽しみの~~~」

「カンパネラさんストーップ!!」

 例によって、カンパネラは一人飛び出し扉を開けようとしていた。

 未だアルパインの腕の中に包まれていたヅッチは反射的に起き上がる。カンパネラの空間魔術は強力だが、本人が勢いで無自覚に発動するため、周囲への影響が分からず危険なのだ。
 本人のエーテル消費が大きい事も含めて、状況が掴めていないままの使用は絶対に阻止せねば。

 カンパネラを追って扉の前まで走るヅッチを見て、アルパインとスリービーは安心した。
 他三人に比べて長く気を失っていたヅッチであったが、あの様子であれば心配は無さそうだ。

 巨大な扉の前で押し問答する二人に遅れてアルパインとスリービーも合流し、今後の目的について相談する。

「このまま洞穴に居たって仕方ねーだろォし、このまま扉の奥に進むよな?」

「コアを求めて~私達はどこまでも~~~」

「それに、ここに居たって仕方ないものネ」

「コアもですが、出口も見つけないとダメです」

 三人はアルパインの提案に同意する。このまま留まっていても何も変わらない。
 待つだけでは意味がないと知ったから、四人は世界中を巡っているのだ。

 意を決しアルパインは巨大な扉へと力を入れる。しかし、扉はビクともしなかった。

「どうしたノ?」

「どんだけ押しても、開かねーんだよォ」

「アルちゃんったら。扉を開ける前にちゃんと叩いてって、シャルトルーズさんにいつも言われてるじゃないっ」

「んぁ? そーいやそうだったな。でも叩くもんなんて、どこにも付いてねーぞ」

「こんな場所へある扉に、付いている訳が無いです」

 普段から勢い良く扉を開けては、シャルトルーズに小言を言われているアルパイン。
 シャルトルーズの店では来客の目的を知るために、装飾の金具を叩いて、決まった合図をしてから入るよう伝えている。もっとも彼の店では、防犯用の結界魔術と連動しているから。という理由もあった。

 当然アルパインも、合図を送ったら開けて貰えるような場所でない事は肌で感じている。だからカンパネラの発言からは、案だけを頂く事にするのであった。

「ったく不親切だな。このデカさなら普通に叩いても聞こえねーだろォし、だったらよォ。……不揃い巨人のアンバラちゃん右ストレートォォォ!!」

 開かないなら、壊してしまえばいいじゃない。
 細かい事は、起こった後に考えればいいじゃない。

 アルパインの右目のコアから緑のエーテルが溢れ出し、彼女の右腕を頑強で巨大な岩の腕へと変化させる。
 慌てて止めに入るヅッチとスリービーよりも先に、けたたましい轟音が、赤く光を放つ洞穴へと響渡るのであった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...