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第五章 永遠の探求者編
14.積年の災害
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魔物を退けたアルパイン達は、逃げたヴァーミリオンと数匹の魔物を追っていた。
広い通路を抜けた先に、広大な大部屋が広がっているのを目の当たりにする。
「なんだァ? この空間はよォ……」
「エーテルの痕跡はここで途絶えています。つまり、この部屋のどこかに、外へと出る方法が隠されているはずです……!」
ヅッチの言葉を聞いたアルパイン達は、大部屋の中をくまなく観察する。すると、ほんのりと赤いエーテルの溢れる空間の中に、一際強いエーテルの存在を見つける。
「見つけたぞォ! そろそろ観念したらどうだァ!?」
「おやおや、あの様子ではまともに動けないと思いましたが、想定よりも随分と早く追いつかれてしまいましたねぇ」
「ボク達は十分に回復しています。これ以上の戦いに意味は無いと思うのですが、違いますか?」
ヴァーミリオン達を発見し、アルパイン達はすぐさま取り囲む。
そして彼の持つ赤のエーテルコアと、研究所からの出方を聞き出そうとする。
「なるほど、確かにこれでは分が悪い。……それで、私に何を求めると言うのです?」
「てめぇの持ってるエーテルコアを渡せ」
「おやおやそれは難しい相談ですねぇ。コアなら君も持っているではありませんか。私のコアを受け取って、いったい何に使うのです?」
「用途は色々とありますが……今の目的は一つ。この場所から出るために使います」
この場所から出るために使う。ヅッチの言葉に、ヴァーミリオンはピクリと眉を動かした。
「それは残念です。このコアを受け取っても、君達はここから出られませんよ?」
「いいえ、ボクには見えています。あなたの周りにいる魔物ルミナスケイルが、黄の国ナルギットの領土からどうやって連れて来られたか」
「見えている……とは?」
「……この空間から現れた魔物のエーテルの痕跡、そして大量に使われた赤のエーテルの残滓、さらにナルギット領土の黄のエーテルまで溢れている! 膨大な赤のエーテルを使用するなんて、コアを鍵とする強大な魔術が使われたのは明白なんです!!」
ヅッチは自らのエーテル感知に優れた特性を活かして、その場の痕跡から何が行われていたかを推察する。だが、ヴァーミリオンは笑っていた。
「これは面白い、いい目をしていますねぇ。……しかしながら、君達ではその魔術は使えないのですよ」
「だったらよォ、てめぇが使ってくれても良いんだぜ?」
アルパインの一言と共に、他の三人も攻撃の体勢を取る。それは紛れもなく脅しであり、威圧でもあった。
万全な状態のアルパイン達四人を前に、ヴァーミリオン側は生き残った魔物ルミナスケイルが数匹。一転して窮地だが、それでもヴァーミリオンは笑う。そう、この状況は、彼自身が望んで作り上げたものだったのだから。
「おやおや、そこまで言うのであればお見せしましょう。エーテルコアよ、記憶を紡ぎなさい」
ヴァーミリオンの胸元にある首輪から、真っ赤な光が放たれる。
瞬間、アルパイン達はこれまでに覚えた事のない恐怖を感じ、異様なほど身震いした。
ゾォォォと、血の気が引いていくのが体内から伝わる。
その恐怖の正体を知るのは、真っ赤なエーテルの光がその身を襲った後であった。
眼前には洞窟の中であった事を忘れるほどの赤いエーテルの光が溢れ、真っ赤な炎が覆い尽くす。
「さぁ『溶岩の帝竜』よ、侵入者を焼き尽くせ────」
「ぼっ、ボルカノだとォ……!?」
アルパイン達は瞬時に身を寄せ合い、それぞれの魔術を掛け合わせて炎に耐える。
だが岩腕も、竜巻も、複合された魔術も、空間魔術の強化を受けてなお、壁にすらならない。
身を焦がれ、爆炎に吹き飛ばされ、アルパイン達は一瞬にして満身創痍に陥る。
そして必死に見上げた先は、絶望であった。
「なん……ですか……あれ」
僅かに残っていたルミナスケイル達はもういない。魔物達が守っていたはずの長毛の猫は、広大な洞窟の天にも届く高さまで移動していた。ヴァーミリオンの乗る先には、大部屋ですら窮屈に感じるほどの巨大な、竜の姿がそこにあった。
「火口に住むとされる超大型の魔物……人が手出ししちゃいけない代物ヨ」
「上の連中が必死になって探してたのを覚えてるぜェ……。アレはアタシの『不揃い巨人』と同じ、『積年の災害』の一匹。よーするにバケモン中のバケモンだよォ」
そんなものがどうして急に。そうヅッチは言いかけて、ふとヴァーミリオンの直前の言葉を思い出す。
エーテルコアによってその災害は現れたのだ。どことも知らぬ場所から、このエーテルが混濁する空間に。
「やられ……ました」
そこでやっと、ヅッチは自分が突き止めたのではなく、ヴァーミリオンの手のひらの上で踊らされていたと悟る。得意げに仲間達へ希望を示していたはずの少女は、全くの真逆の結果を受け入れられず、涙を堪え塞ぎ込む。だが、絶望する暇すら災害は許さない。
「スフェーンの研究も少しは役に立ちますねぇ。ではお次は……溶岩帝竜の火球」
「まずいヨ……ッ! ビュン×3ッッッ!!」
「お前らスリービーに掴まれェ!! いや──違ぇだろ、不揃い巨人ァ!!」
ヴァーミリオンの声に呼応し、ボルカノは両手の間に巨大な火球を作り上げる。先ほどの炎よりもさらに赤いエーテルを凝縮した熱の塊を前に、命の危機を感じたスリービーが咄嗟に仲間達を逃がそうとした。
アルパインもすぐさま意を汲み、スリービーに掴まるようヅッチとカンパネラに声をかける。だがヅッチは塞ぎ込み、カンパネラも気を失っているようであった。迫り来る災害を改めて肌に感じ、アルパインは自分に出来ることは何か。右目の代わりとなってその身に宿るエーテルコアに、その内に眠る記憶に問いかける。
「バケモンはてめぇだけじゃねぇぞォ!! 必殺、不揃い巨人の左フィストォォォ!!」
目前へと迫り来る火球に対し、アルパインは四肢から繰り出される最後の一つを放つ。
それは他三つのどれよりも巨大で強大で、全身全霊の乗った岩の左腕であった。
洞窟を覆うほどの巨体なボルカノから放たれた火球に、負けず劣らずなほど巨大な左腕の握り拳が相打つ。火球と巨岩は轟音を上げてぶつかり、爆散した。
「アルパイン!? なにやってるノー!!」
「アルパインさん……? アルパインさん!!」
スリービーは塞ぎ込んでいたヅッチと気を失っていたカンパネラを竜巻で無理やり引き寄せ、火球から逃げようとしていた。そしてすぐに掴まって来ると思っていたアルパインの奇行に驚き、その捨て身の魔術を見て震えた声で呼びかけた。爆発の音とスリービーの鬼気迫る声に、塞ぎ込んでいたヅッチも正気を取り戻す。
砂煙に覆われ飛び散る火の粉と岩の破片の中、アルパインが吹き飛ばされ転がっているのを、その目で捉え大声で叫ぶ。しかし返ってきたのは、思いもよらぬ言葉であった。
「二人を連れて行けェ、スリービー!!」
「馬鹿な事言ってるんじゃないノ! 今すぐアルパインもとっ捕まえて……」
「バケモンの相手はバケモンにしかできねぇだろォが!! 邪魔するんじゃねェ!!」
「スリービーさん煙の手前にアルパインさんが!! スリービーさん……!?」
ヅッチはすぐにアルパインの場所を伝える。だがスリービーの動きがおかしい。竜巻は砂煙の中ではなく、それを背にするように放たれていた。向かった先は大部屋に数ある内の一つ、アルパイン達が通った入口であった。
「アルパインがああ言ってるノ!! ウチらが相手にならないのはもう知ってるよネ!?」
「そうは言ってもアルパインさんを置いて逃げるなんて、そんな事出来ないです!!」
アルパインを信用しているから従う。アルパインを心配しているから置いていけない。
二人の思いは交差していた。しかし、逃げた先にて、新たなる脅威と交差する。
「そう!! 逃げるなんて出来ませんわ!! 遅くなって申し訳ありません、ヴァーミリオン様!!」
アルパインに蹴飛ばされ戦線離脱していたミネルバが、ついに追いつき加勢する。
「あらあらヴァーミリオン様ったら、本気ですのね……!! ではワタクシも応えませんと……欲深き双武器!!」
「通り抜けられないノ!? それだけじゃない、防御すら……ッ!?」
「怒りの~~~カンパネラ~~~!! 大切な仲間達をこんな目に、怒り心頭だわ!!」
「欲深き双武器の斬撃がかき消された……どうしてですの!?」
不意に目覚めたカンパネラは、怒りの感情を竜巻の中で発散していた。
地団太にも見えるその踊りは空間へと作用し、敵意を持つ相手のエーテルを不安定にする。
その対象はミネルバだけではない。背後に立つヴァーミリオンとボルカノですら、例外にはならない。
「逃がしませんよ、溶岩帝竜の息吹……!!」
「ビュン×3ーーーっ!! 間一髪ネ!!」
「おやおや、避けられるなど……。火力が足りない、訳ではない。であれば、避けれぬなら問題無い! 薙ぎ払え、溶岩帝竜の尻尾ッッッ!!」
エーテルが不安定となり、分散した息吹を寸前のところでスリービーは逃げ延びる。だが通ってきた通路の先では依然としてミネルバが、後方からは地面をうねるように太く強靭な尾が迫り、壁を抉りながら襲い掛かってくる。
「守る……? いや逃げるノ!? 逃げるってどこに!?」
「……大丈夫です。スリービーさん竜巻を一つに収束してください!! 進路はボクが示します、魔術調律:ザババガバドバ!!」
仲間達の危機を前に、これ以上はとヅッチは覚悟を決める。エーテルの感知に優れたその目を用いて、攻撃も、逃げ道も、さらに数多ある通路から逃げるべき通路も見定める。そしてヅッチは無数に髪へ付けたヘアピン型の魔道具を輝かせ、それぞれが司る十数の魔動体を同時に操ってみせる。
「その動き、ヅッチまさかお前はよォ……!!」
「置いて逃げてなんて、させないです!!」
ヅッチはスリービーの竜巻を動力に、魔術で描いた導線を辿る。轟いた息吹の火の粉をかわし、前方で待ち受けていたミネルバの追撃を避け、壁を削る尾の動きを見極める。そして、砂煙の中からアルパインを連れ出した。
当然ヴァーミリオンも一筋縄ではいかない。ボルカノは避けられた尾を再度振り被り、ヅッチが避けた先へ狙いを定めたように叩きつける。
大部屋は半壊し、ヅッチ達の姿が見えないほど瓦礫と砂煙が再び覆う。しかし────。
「全く、小癪な手を……」
ヅッチ達は地面を這うように動き、地下へと繋がる通路に逃げ込む。そしてその上をなぞるようにボルカノの尾は襲い掛かっていた。そう、逃げ込んだ通路の入り口は、ボルカノの攻撃によって崩壊し、塞がっていたのだ。
広い通路を抜けた先に、広大な大部屋が広がっているのを目の当たりにする。
「なんだァ? この空間はよォ……」
「エーテルの痕跡はここで途絶えています。つまり、この部屋のどこかに、外へと出る方法が隠されているはずです……!」
ヅッチの言葉を聞いたアルパイン達は、大部屋の中をくまなく観察する。すると、ほんのりと赤いエーテルの溢れる空間の中に、一際強いエーテルの存在を見つける。
「見つけたぞォ! そろそろ観念したらどうだァ!?」
「おやおや、あの様子ではまともに動けないと思いましたが、想定よりも随分と早く追いつかれてしまいましたねぇ」
「ボク達は十分に回復しています。これ以上の戦いに意味は無いと思うのですが、違いますか?」
ヴァーミリオン達を発見し、アルパイン達はすぐさま取り囲む。
そして彼の持つ赤のエーテルコアと、研究所からの出方を聞き出そうとする。
「なるほど、確かにこれでは分が悪い。……それで、私に何を求めると言うのです?」
「てめぇの持ってるエーテルコアを渡せ」
「おやおやそれは難しい相談ですねぇ。コアなら君も持っているではありませんか。私のコアを受け取って、いったい何に使うのです?」
「用途は色々とありますが……今の目的は一つ。この場所から出るために使います」
この場所から出るために使う。ヅッチの言葉に、ヴァーミリオンはピクリと眉を動かした。
「それは残念です。このコアを受け取っても、君達はここから出られませんよ?」
「いいえ、ボクには見えています。あなたの周りにいる魔物ルミナスケイルが、黄の国ナルギットの領土からどうやって連れて来られたか」
「見えている……とは?」
「……この空間から現れた魔物のエーテルの痕跡、そして大量に使われた赤のエーテルの残滓、さらにナルギット領土の黄のエーテルまで溢れている! 膨大な赤のエーテルを使用するなんて、コアを鍵とする強大な魔術が使われたのは明白なんです!!」
ヅッチは自らのエーテル感知に優れた特性を活かして、その場の痕跡から何が行われていたかを推察する。だが、ヴァーミリオンは笑っていた。
「これは面白い、いい目をしていますねぇ。……しかしながら、君達ではその魔術は使えないのですよ」
「だったらよォ、てめぇが使ってくれても良いんだぜ?」
アルパインの一言と共に、他の三人も攻撃の体勢を取る。それは紛れもなく脅しであり、威圧でもあった。
万全な状態のアルパイン達四人を前に、ヴァーミリオン側は生き残った魔物ルミナスケイルが数匹。一転して窮地だが、それでもヴァーミリオンは笑う。そう、この状況は、彼自身が望んで作り上げたものだったのだから。
「おやおや、そこまで言うのであればお見せしましょう。エーテルコアよ、記憶を紡ぎなさい」
ヴァーミリオンの胸元にある首輪から、真っ赤な光が放たれる。
瞬間、アルパイン達はこれまでに覚えた事のない恐怖を感じ、異様なほど身震いした。
ゾォォォと、血の気が引いていくのが体内から伝わる。
その恐怖の正体を知るのは、真っ赤なエーテルの光がその身を襲った後であった。
眼前には洞窟の中であった事を忘れるほどの赤いエーテルの光が溢れ、真っ赤な炎が覆い尽くす。
「さぁ『溶岩の帝竜』よ、侵入者を焼き尽くせ────」
「ぼっ、ボルカノだとォ……!?」
アルパイン達は瞬時に身を寄せ合い、それぞれの魔術を掛け合わせて炎に耐える。
だが岩腕も、竜巻も、複合された魔術も、空間魔術の強化を受けてなお、壁にすらならない。
身を焦がれ、爆炎に吹き飛ばされ、アルパイン達は一瞬にして満身創痍に陥る。
そして必死に見上げた先は、絶望であった。
「なん……ですか……あれ」
僅かに残っていたルミナスケイル達はもういない。魔物達が守っていたはずの長毛の猫は、広大な洞窟の天にも届く高さまで移動していた。ヴァーミリオンの乗る先には、大部屋ですら窮屈に感じるほどの巨大な、竜の姿がそこにあった。
「火口に住むとされる超大型の魔物……人が手出ししちゃいけない代物ヨ」
「上の連中が必死になって探してたのを覚えてるぜェ……。アレはアタシの『不揃い巨人』と同じ、『積年の災害』の一匹。よーするにバケモン中のバケモンだよォ」
そんなものがどうして急に。そうヅッチは言いかけて、ふとヴァーミリオンの直前の言葉を思い出す。
エーテルコアによってその災害は現れたのだ。どことも知らぬ場所から、このエーテルが混濁する空間に。
「やられ……ました」
そこでやっと、ヅッチは自分が突き止めたのではなく、ヴァーミリオンの手のひらの上で踊らされていたと悟る。得意げに仲間達へ希望を示していたはずの少女は、全くの真逆の結果を受け入れられず、涙を堪え塞ぎ込む。だが、絶望する暇すら災害は許さない。
「スフェーンの研究も少しは役に立ちますねぇ。ではお次は……溶岩帝竜の火球」
「まずいヨ……ッ! ビュン×3ッッッ!!」
「お前らスリービーに掴まれェ!! いや──違ぇだろ、不揃い巨人ァ!!」
ヴァーミリオンの声に呼応し、ボルカノは両手の間に巨大な火球を作り上げる。先ほどの炎よりもさらに赤いエーテルを凝縮した熱の塊を前に、命の危機を感じたスリービーが咄嗟に仲間達を逃がそうとした。
アルパインもすぐさま意を汲み、スリービーに掴まるようヅッチとカンパネラに声をかける。だがヅッチは塞ぎ込み、カンパネラも気を失っているようであった。迫り来る災害を改めて肌に感じ、アルパインは自分に出来ることは何か。右目の代わりとなってその身に宿るエーテルコアに、その内に眠る記憶に問いかける。
「バケモンはてめぇだけじゃねぇぞォ!! 必殺、不揃い巨人の左フィストォォォ!!」
目前へと迫り来る火球に対し、アルパインは四肢から繰り出される最後の一つを放つ。
それは他三つのどれよりも巨大で強大で、全身全霊の乗った岩の左腕であった。
洞窟を覆うほどの巨体なボルカノから放たれた火球に、負けず劣らずなほど巨大な左腕の握り拳が相打つ。火球と巨岩は轟音を上げてぶつかり、爆散した。
「アルパイン!? なにやってるノー!!」
「アルパインさん……? アルパインさん!!」
スリービーは塞ぎ込んでいたヅッチと気を失っていたカンパネラを竜巻で無理やり引き寄せ、火球から逃げようとしていた。そしてすぐに掴まって来ると思っていたアルパインの奇行に驚き、その捨て身の魔術を見て震えた声で呼びかけた。爆発の音とスリービーの鬼気迫る声に、塞ぎ込んでいたヅッチも正気を取り戻す。
砂煙に覆われ飛び散る火の粉と岩の破片の中、アルパインが吹き飛ばされ転がっているのを、その目で捉え大声で叫ぶ。しかし返ってきたのは、思いもよらぬ言葉であった。
「二人を連れて行けェ、スリービー!!」
「馬鹿な事言ってるんじゃないノ! 今すぐアルパインもとっ捕まえて……」
「バケモンの相手はバケモンにしかできねぇだろォが!! 邪魔するんじゃねェ!!」
「スリービーさん煙の手前にアルパインさんが!! スリービーさん……!?」
ヅッチはすぐにアルパインの場所を伝える。だがスリービーの動きがおかしい。竜巻は砂煙の中ではなく、それを背にするように放たれていた。向かった先は大部屋に数ある内の一つ、アルパイン達が通った入口であった。
「アルパインがああ言ってるノ!! ウチらが相手にならないのはもう知ってるよネ!?」
「そうは言ってもアルパインさんを置いて逃げるなんて、そんな事出来ないです!!」
アルパインを信用しているから従う。アルパインを心配しているから置いていけない。
二人の思いは交差していた。しかし、逃げた先にて、新たなる脅威と交差する。
「そう!! 逃げるなんて出来ませんわ!! 遅くなって申し訳ありません、ヴァーミリオン様!!」
アルパインに蹴飛ばされ戦線離脱していたミネルバが、ついに追いつき加勢する。
「あらあらヴァーミリオン様ったら、本気ですのね……!! ではワタクシも応えませんと……欲深き双武器!!」
「通り抜けられないノ!? それだけじゃない、防御すら……ッ!?」
「怒りの~~~カンパネラ~~~!! 大切な仲間達をこんな目に、怒り心頭だわ!!」
「欲深き双武器の斬撃がかき消された……どうしてですの!?」
不意に目覚めたカンパネラは、怒りの感情を竜巻の中で発散していた。
地団太にも見えるその踊りは空間へと作用し、敵意を持つ相手のエーテルを不安定にする。
その対象はミネルバだけではない。背後に立つヴァーミリオンとボルカノですら、例外にはならない。
「逃がしませんよ、溶岩帝竜の息吹……!!」
「ビュン×3ーーーっ!! 間一髪ネ!!」
「おやおや、避けられるなど……。火力が足りない、訳ではない。であれば、避けれぬなら問題無い! 薙ぎ払え、溶岩帝竜の尻尾ッッッ!!」
エーテルが不安定となり、分散した息吹を寸前のところでスリービーは逃げ延びる。だが通ってきた通路の先では依然としてミネルバが、後方からは地面をうねるように太く強靭な尾が迫り、壁を抉りながら襲い掛かってくる。
「守る……? いや逃げるノ!? 逃げるってどこに!?」
「……大丈夫です。スリービーさん竜巻を一つに収束してください!! 進路はボクが示します、魔術調律:ザババガバドバ!!」
仲間達の危機を前に、これ以上はとヅッチは覚悟を決める。エーテルの感知に優れたその目を用いて、攻撃も、逃げ道も、さらに数多ある通路から逃げるべき通路も見定める。そしてヅッチは無数に髪へ付けたヘアピン型の魔道具を輝かせ、それぞれが司る十数の魔動体を同時に操ってみせる。
「その動き、ヅッチまさかお前はよォ……!!」
「置いて逃げてなんて、させないです!!」
ヅッチはスリービーの竜巻を動力に、魔術で描いた導線を辿る。轟いた息吹の火の粉をかわし、前方で待ち受けていたミネルバの追撃を避け、壁を削る尾の動きを見極める。そして、砂煙の中からアルパインを連れ出した。
当然ヴァーミリオンも一筋縄ではいかない。ボルカノは避けられた尾を再度振り被り、ヅッチが避けた先へ狙いを定めたように叩きつける。
大部屋は半壊し、ヅッチ達の姿が見えないほど瓦礫と砂煙が再び覆う。しかし────。
「全く、小癪な手を……」
ヅッチ達は地面を這うように動き、地下へと繋がる通路に逃げ込む。そしてその上をなぞるようにボルカノの尾は襲い掛かっていた。そう、逃げ込んだ通路の入り口は、ボルカノの攻撃によって崩壊し、塞がっていたのだ。
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