堕ちた双子

ゆきみまんじゅう

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新たなる幕開け

静かな眠りは、終わりと始まりの序章

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中年の男に痴漢されてから数日が経った。

家路に着き、自分の部屋に入った俺は、机の前に座り、思い耽ていた。

もちろん、痴漢の事でだ。

あれから俺は、電車に乗る時間を毎日ずらしていた。

それでも俺は、来る日も来る日も痴漢され続けた。

しかも、毎回別の男だった。

まあ、俺が馬鹿みたいに、毎日同じ定位置に乗っていたのも悪いのかもしれない。

それでも、普通はこんなに被害に遭うはずはない。

つまり、あいつらは、今まで俺が痴漢されていたのを見ていて、欲情していたのだろう。

そして、あいつがいなくなったことを好機だと思い、俺を襲ったのだろう。

とても信じられない事だが、そうとしか思えなかった。

つまり、俺はあの電車に乗る限り、痴漢に遭い続けるのだ。

考えてもゾッとする話だが、何故か痴漢されるのを想像していると、身体が熱くなってしまう。

「……くっ………んんっ…。」

そして、気がつけば自分で、シャツの下から乳首を弄っていた。

自分が痴漢されているのを想像して、自慰をするなんて、おかしな事だとは思う。

でももう、この衝動を止める手段は思い浮かばない。

それどころか、更なる刺激を求めて、自然と身体が、バイブを隠しているクローゼットの方へと向かっていった。

そして、クローゼットを開こうとした時だった。

突然、部屋の扉をノックする音が聞こえ、俺は慌ててクローゼットの扉から手を離した。

「兄さん、ちょっといい?」

「あっ……ああ。」

俺が扉を開くと、そこには、2人分のオレンジジュースと、クッキーをトレーを持っている、海斗の姿があった。

「……どうしたんだよ、そんな物持って。」

にこやかに笑う海斗を見て、俺は驚き戸惑った。

実は、あの日の朝以来、俺は罪悪感から、海斗と距離を置いていた。

海斗の方も、あれからあまり話しかけてこなくなり、笑顔を見るのも久しぶりな気がした。

「あのさ、この間の事、謝りたいなって思って……。それで、クッキーを焼いてみたんだ。遥華が作り方を教えてくれたんだよ。」
「謝るって………何を?」

元はと言えば、俺が嘘をついているのがいけないというのに、何で海斗が謝るのか、俺には理解できなかった。

「僕、あの時、兄さんを嘘つきだって言ったでしょう。……あの時は、自分でもどうかしてたと思う。だから、ずっと謝りたかった。」

それは違う。
謝るなら、俺の方だ。

それなのに、謝ることができない。

謝ったところで、今の絶望的な状況と、確実におかしくなっている自分自身が、変わることがないのだから。

「………そうか。」

何と答えようかと思ったが、結局何も思い浮かばず、一言しか言えなかった。

「……まあ、ここで立ちっぱなしもあれだろ?入れよ。」

とりあえず俺は、海斗を部屋に招き入れて、適当に床に座った。

そして、海斗から手渡されたオレンジジュースを、一口飲んだ。

「ねえ、兄さん。これも食べてよ。」

正直、食欲なんて全くなかったが、断るわけにもいかず、海斗から差し出されたクッキーも口にした。

「どう、美味しい?」

海斗が目を輝かせながら、俺の顔を覗き込んできた。

「あっ…ああ……。」

息がかかるほどの距離まで、顔を寄せてきた海斗に少し驚いて、思わず顎を引いてしまった。

「本当?良かったー。」

笑顔で喜ぶ姿は、いつもの海斗だ。

それなのに、どこか不自然に感じてしまう。

喜んでいるようで、目が笑っていない気がしてならなかった。

そんな目を見るのが耐えきれず、俺は目線を下にずらした。

やっぱり、謝った方がいいだろうか。
例えそれが、口から出まかせだとしても。

「───ッ⁉︎」

俺が考え事をしていた時だった。

急に海斗が、俺に抱きついてきたのだ。

あまりに唐突な出来事に、俺は言葉が出ず、ただじっとしていた。

「…………兄さん。もうどこにも行かないで。」
「えっ……?」

突然の言葉に、俺は困惑した。

どういう意味で言ったのか分からず、海斗の考えが読めなかった。

「もう、外に出て行かないでほしい。僕のために、危ない事なんて、しなくていいから。」
「なっ…何言ってんだよ……。」

海斗が、さらに強く抱きしめてくる。

身体が締め付けられるほどに。

「な……なあ、落ち着けよ。俺は別に、危ない事なんて、してないからさ。」

俺がそう言った瞬間、海斗が力を緩めた。

そしてゆっくり、顔を上げ、唇が触れそうなほどの距離まで顔を寄せてきた。

その瞳は、驚くほど冷たく感じた。

「………やっぱり、兄さんは嘘つきだね。電車の中で、あんなことをされているくせに。」

その言葉を聞いた瞬間、背筋が凍りついた。

「な………んで、それを……?」

すると海斗は、口角を上げて笑って見せた。

それでも、目は全く笑っていなかった。

「ああ、でも兄さんは、まんざらでも無さそうだったから、嘘じゃないのかな。」

海斗は、俺の質問には答えず、大袈裟に明るい声で話を続けた。

俺はというと、海斗に見られていたという事実を知り、動揺と羞恥に駆られ、声も出なくなっていた。

「それでもやっぱり、ひどいなあって思う。僕を守るためって言ってたのに、本当は自分が気持ちよくなりたいだけだったんだもの。でも、安心してよ。僕は兄さんよりも、ずっと悪い事をしてるからさ。」

不気味な笑みを浮かべたまま、海斗の唇が、俺の唇へと迫ってくる。

「やっ…やめっっ!!」

焦った俺は、海斗を突き飛ばすと、慌てて立ちあがろうとした。

だがその瞬間、突然意識が朦朧とし出した。

「……やっと、薬が効き出したみたいだね。」
「まさか……さっきの…ジュース………か?」

何とか言葉を返したものの、急激な眠気に逆らえず、俺はその場に横たわった。

「兄さんは、誰にも渡さないから。」

それが、薄れゆく意識の中、最後に聞いた海斗の声だった。
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