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弟
傷口
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次の日の朝、僕は普段通り学校に行った。
本当は、勉強どころではなかったが、かといって家には居づらかったので、外に出た方がマシだった。
教室に入ると、純が心配そうに声をかけてきた。
どうやら僕がやつれているように見えたらしい。
それもそうだろう。
昨日は兄さんの事で悩み続けたせいで、あまり寝られなかったのだから。
「………ごめん、今日は、そっとしておいて。」
純の気遣いはとても嬉しかったが、今はそれも心苦しくて、僕は拒絶してしまった。
純は、それ以上は何も言わず、自分の席へと戻っていった。
そうして午前中の間、僕たちは何も話さなかった。
昼休みになり、僕は1人で屋上に向かった。
そこに誰もいない事を確認すると、フェンスまで向かい、座った。
そしてポケットから、隠し持っていたカッターを取り出し、手のひらを切った。
「っ……痛…。」
これはいわゆる、リストカットというものだ。
これをすると、辛さを紛らせることができるらしい。
確かに、少しだけだが、心が落ち着いたような気がした。
「………兄さん、僕はどうすればいい?」
まず最初に思いついたのは、警察に自首する事だった。
捕まって、今までの事が明るみになったら、僕は間違いなく死刑になるだろう。
それは別に、構わない。
けれども僕が死んだところで、兄さんへの罪滅ぼしにはならない。
壊れた兄さんを、ひとりぼっちにさせるなんて、どうしてもできなかった。
せめて、兄さんの今の状況を、どうにか改善するまでは、死ぬわけにはいかなかった。
「海斗っ!何をしているんだ⁉︎」
「あっ………。」
聞き慣れた声がする方に顔を向けると、やはりそこには、血相を変えた純がいた。
純はこちらに駆け寄ると、僕からカッターを取り上げた。
「何で、こんな事を……。」
「えっ……?あっ、あはは。何で、だろう?」
いつもなら、上手い嘘の一つや二つは思いつくのに、今は全然頭が回らず、笑って誤魔化すしかなかった。
そんな僕に対してこれ以上問いただす事もなく、純はポケットから取り出した絆創膏を僕の切り傷に手早く貼った。
「幸い傷は浅いようだ。これなら、保健室に行く必要もないだろう。」
「あ……ありがとう。」
純の言い方は、他の人たちには秘密にしておくという意味に思えて、少し感謝した。
「なあ海斗。兄さんの事、もしくは七瀬さんの事で、他にも悩みがあるんじゃないのか?」
まるで純は、僕の心を見透かしているようだった。
このまま、全てを打ち明けられたら、どんなに心が楽になるだろう。
けれどもそれは、決してできなかった。
「………あるよ。でも今は、まだ言えない。けど、いつかは話すから、今は何も聞かないで。」
すると純は、黙って頷いてくれた。
だから僕も、安心して笑みを浮かべた。
本当は、勉強どころではなかったが、かといって家には居づらかったので、外に出た方がマシだった。
教室に入ると、純が心配そうに声をかけてきた。
どうやら僕がやつれているように見えたらしい。
それもそうだろう。
昨日は兄さんの事で悩み続けたせいで、あまり寝られなかったのだから。
「………ごめん、今日は、そっとしておいて。」
純の気遣いはとても嬉しかったが、今はそれも心苦しくて、僕は拒絶してしまった。
純は、それ以上は何も言わず、自分の席へと戻っていった。
そうして午前中の間、僕たちは何も話さなかった。
昼休みになり、僕は1人で屋上に向かった。
そこに誰もいない事を確認すると、フェンスまで向かい、座った。
そしてポケットから、隠し持っていたカッターを取り出し、手のひらを切った。
「っ……痛…。」
これはいわゆる、リストカットというものだ。
これをすると、辛さを紛らせることができるらしい。
確かに、少しだけだが、心が落ち着いたような気がした。
「………兄さん、僕はどうすればいい?」
まず最初に思いついたのは、警察に自首する事だった。
捕まって、今までの事が明るみになったら、僕は間違いなく死刑になるだろう。
それは別に、構わない。
けれども僕が死んだところで、兄さんへの罪滅ぼしにはならない。
壊れた兄さんを、ひとりぼっちにさせるなんて、どうしてもできなかった。
せめて、兄さんの今の状況を、どうにか改善するまでは、死ぬわけにはいかなかった。
「海斗っ!何をしているんだ⁉︎」
「あっ………。」
聞き慣れた声がする方に顔を向けると、やはりそこには、血相を変えた純がいた。
純はこちらに駆け寄ると、僕からカッターを取り上げた。
「何で、こんな事を……。」
「えっ……?あっ、あはは。何で、だろう?」
いつもなら、上手い嘘の一つや二つは思いつくのに、今は全然頭が回らず、笑って誤魔化すしかなかった。
そんな僕に対してこれ以上問いただす事もなく、純はポケットから取り出した絆創膏を僕の切り傷に手早く貼った。
「幸い傷は浅いようだ。これなら、保健室に行く必要もないだろう。」
「あ……ありがとう。」
純の言い方は、他の人たちには秘密にしておくという意味に思えて、少し感謝した。
「なあ海斗。兄さんの事、もしくは七瀬さんの事で、他にも悩みがあるんじゃないのか?」
まるで純は、僕の心を見透かしているようだった。
このまま、全てを打ち明けられたら、どんなに心が楽になるだろう。
けれどもそれは、決してできなかった。
「………あるよ。でも今は、まだ言えない。けど、いつかは話すから、今は何も聞かないで。」
すると純は、黙って頷いてくれた。
だから僕も、安心して笑みを浮かべた。
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