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2部
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そうして始まった私の新婚生活です。
しかし、なにぶん「嫁」や「女主人」といった経験がございませんので不安。と思っていたら、このお屋敷にはすでに「嫁」も「女主人」もおりました。
「お母様!お父様のお部屋に甲虫を持ち込まないでください!!」
「だって、今朝お庭で見つけてとても立派だったんですもの。ぜひ見ていただこうと思いまして」
「庭に返していらっしゃい!」
虫かごを持ってすごすごお部屋を出ます。その後ろ姿を苦笑で見送る旦那様。プリプリとお怒りなのは私の義理の息子となったジーク・ボルトのお嫁さん、キャメロンさんです。息子のジークは私より年上の32歳、干し草色の髪にジオン様と同じ青いブルーサファイアの瞳で優しい顔立ちの好青年でいらっしゃいます。第二騎士団の副団長をしており、3つ年上のキャメロンさんとは恋愛結婚だそうです。くびれた腰と溢れんばかりの胸、紅茶色の髪に少しつり上がった飴色の瞳をしたゴージャスな美女キャメロンさんは王都にある大きな商会のお嬢さんです。爵位は無く平民だったので、ボルト家の為にはならないと一度は諦めたそうですが、キャメロンさんの妊娠が発覚。病床のジオン様に相談した息子は、無責任さと手の速さを叱られて半殺しにあい、とっとと迎えに行けと執事にまで蹴り出されたとか。
その後ボルト家の家格が下がらぬよう、一応子爵家の令嬢である私をジオン様が引き受け、現在に至る。
つまりキャメロンさんは妊婦で、私は齢18にしてもう直おばあちゃんになります。
「だから言ったでしょう!今時甲虫で喜ぶのはお嬢さ…奥様だけです!」
「ですがマーサ、甲虫は男の子の浪漫なのです。この黒々艶々で立派な姿を「ギャァァア!ポイッしてください、そんなもの!!」
マーサは虫が嫌いなのです。仕方ありません、元いた木に返しましょう。
ボルト家のお屋敷は王都の街中より少し外れたところにあるので、森や林が近く緑豊かで、庭には虫どころか野生動物が迷い込んだりもします。先日は鹿と遭遇、驚いて追いかけたらマーサに叱られました。
キャメロンさんはしっかり者で社交的な若奥様。見事に屋敷の女主人として取り仕切ってくれてますので、私は日々穏やかに過ごさせていただいております。
マーサの命令で虫を触った手を念入りに洗わされいると、旦那様の主治医がいらっしゃったと知らせがありました。
旦那様の病は治りません。
魔物に負わされた傷から毒が入り内臓を腐らせてしまうもので、今の医術では進行を抑えることしかできないそうです。それでも年々侵食されて病状は悪化「この年まで生きておられるのは奇跡です」と主治医が言っておられました。あまり長くないだろうと。
咳き込み痛みを堪える姿は辛そうで、夜も痛みで眠れぬことがあるようです。
「先生!お暑い中ご足労頂きまして、ありがとうございます」
主治医はすでに旦那様の部屋で診察中でございました。キャメロンさんが指示しメイドが冷たい飲み物を運んできます。さすが気遣い上手な若奥様です。
「奥様、お邪魔しております」
「旦那様はいかがですか?」
「概ね、お変わりなく…」
「そうですか」
「概ね」ということは、変わらず侵食されているということなのでしょう。貴婦人らしく微笑みは崩さぬまま話を続けます。
「先日、お願いした丸薬の件はいかがでしたか?」
「あれには驚きました。ヘチマの種にあのような効果があるとは」
「あのヘチマは隣国のダンジョンで独自の進化をしていた品種らしく、種にのみ通常とは違う効果が付与されていたようなのです。それを利用して今回の丸薬をつくってみました。念のため師である王立学園の校医エルザ先生にも安全性は確認したのですが、他の薬との飲み合わせもありますし…」
「なんと!奥様はエルザ・スタンリー医師のお弟子さんでしたか!」
「弟子というほどでは…。学園時代、園芸薬学部の顧問をされていて、ついでに薬草学を教えて頂いたのです。先生はエルザ先生をご存じなのですね?」
なにせ園芸薬学部は他の部員が幽霊で、私がぼっち令嬢であったこともあり、ほぼ3年間マンツーマンでみっちり薬草学を教えていただきました。せっかくなので勧められるまま薬師の資格も取ってみました。
「私も元軍医ですからエルザ・スタンリー医師の噂はよく知っています。最年少で宮廷薬科医師となり、当時体の弱かった王弟殿下を支えて、宮廷の最高薬科医師となるも王弟殿下が臣下になられ王立学園の学園長に就任されると、さっさと最高位の座を捨てて校医となって追いかけた。我々の間では有名人です」
「そんなことが…」
それは知りませんでした、エルザ先生は有名人でしたか。
執事の手を借りて寝巻きを整えた旦那様が「君はそんな凄い医師に師事して学んできたんだね」と感心してくださいますが、凄いのはエルザ先生なので私への過大評価はご遠慮ください。
「今お出ししている薬と丸薬の飲み合わせは問題ありません。ボルト男爵は良い奥様を貰われましたな」
「どうやら、そのようですね」
旦那様と主治医の先生が朗らかに笑ってお茶を飲まれておりますが、私は褒められ慣れていないので照れてしまって対処に困ります。
「只今戻りました。何のお話ですか?」
丁度、息子が夜勤から戻ったようです。助かりました。
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