15 / 15
15.束の間の
しおりを挟む
今日は一之瀬くんとデートの日。
どこかへ遊びにいくのは塾の人と遭遇する可能性があるということで、一之瀬くんが私の家に来ることになった。幸いなことに、私は実家を出て一人暮らしをしている。なので、一之瀬くんが来るのは問題ないと思ったが……そもそも、未成年の子を家にあげるのは色々と問題あり……? なのかも……? 問題がなかったとしても、ちょうど一之瀬くんが家に入るところを見た人がいたら……?
怖くなった私がスマホで【未成年 家 連れ込み】で検索していると、インターホンが鳴った。
「はーい……」
周りを警戒しながら、そっと扉を開ける。
「すみれさん、こんにちはー! どうして扉少ししか開けてくれないんですか?? ていうか、私服のすみれさん何度見ても可愛すぎますっ!」
「と、とりあえず! 家の中入ろっか!!」
私は慌てて一之瀬くんを家にあげた。この子は本当にこういうことサラッと言うよなぁー……。
「おじゃましまーす……」
一之瀬くんは初めて家に来たからか、少し緊張しているようだ。そんな一之瀬くんを見ていると、こっちもなんだかソワソワしてしまう。自分の家に一之瀬くんがいるってなんか不思議な光景だなぁ……と思っていると、一之瀬くんが紙袋を差し出してきた。
「これ……一緒に食べたくて買ってきました!」
「えっ、これ……駅前のケーキ屋さんの紙袋だよね……!?」
「そうです! すみれさん、ここのチョコケーキが好きなんですよね?」
「いや、なんで知ってるの……ていうか、ここのケーキって朝から並ばないと買えないはずなんだけど……もしかして、一之瀬くん今日朝から並んで……??」
「すみれさんに喜んでほしくて朝から並んじゃいました♪」
そう言われた次の瞬間、私は一之瀬くんをぎゅーっと抱きしめていた。
「え、すみれさん!?」
「……あまりにも一之瀬くんが健気で可愛いから……」
「そういうすみれさんの方が可愛いです!!」
一之瀬くんも私に負けじとぎゅーっとしてきた。今日も私の彼氏(仮)は絶好調に可愛い。自分は恋をしても割とクールなタイプかと思っていたが、どうやら違ったようだ。側から見たらこういうカップルをバカップルって言うんだろうなぁ……と考えていた。
「……と、とりあえず部屋にいこっか」
「そうですね……!」
会って早々、玄関先でイチャイチャしてしまったことが急に恥ずかしくなって、部屋へ向かうことにした。
「……わぁ、ここがすみれさんのお部屋……!」
「そんな大したもの置いてないんだけどね」
「僕、あれ見たいです! 卒アル!!」
「えぇー……なんか恥ずかしいな……昔の私、部活でめちゃくちゃ髪短くしてたから……」
「昔のショートカットのすみれさんも超絶可愛かったですよ!」
「あ、そっか、会ったことあるもんね。うーん……じゃあ、いっか!」
「やったー!!」
卒アルを探していると、大学の旅行サークルのみんなで撮った写真が数枚出てきた。
「これ、大学のときの写真ですか?」
「そう。旅行サークルのみんなで、最後の卒業旅行に行ったときの写真」
「大学時代のすみれさん……! 僕の知らないすみれさん、見たいです!」
「今とそんなに変わらないよ?」
「それでも見たいです!!」
「じゃあ、どうぞ」
「よーし、すみれさん探しますね!」
一之瀬くんは集合写真の中から私を探し始めた。そしてものの数秒で、私を探し当てた。
「本当にすみれさん今と変わらないですね」
「そりゃあ大学時代って言っても、まだ数年前のことだからね」
「あの……違ってたらすみません。すみれさん、もしかしてこの人のこと好きでした……?」
そう言って一之瀬くんは写真の中の戸田っちを指差した。
「えっと……なんでそう思ったの??」
「写真の中のすみれさん、この人のこと目で追ってる感じがして……。あと、この人、前すみれさんと一緒にいた方ですよね?」
街中で戸田っちといるときに一之瀬くんと会ったことを思い出した。そういえばそんなことがあった。確かそのとき、一之瀬くんは私が戸田っちとキスしてたって勘違いして……。
「一緒にいた人だけど、あのときキスはしてなかったからね!?」
「あっ……そうだったんですね……。僕の勘違いだったのか……。……でも、このときは好きだったんじゃないですか?」
一之瀬くんにジッと見つめられる。一之瀬くんの大きな瞳で見つめられると、なんだか全てを見透かされているような気がしてくる。私は正直に話すことにした。
「うん、このときは好きだったね」
「そうなんですね……。今もまだ好きな気持ちはありますか?」
「それはない。好きだったのは大学のときだけ。今はただの友達だよ」
「……教えてくれてありがとうございます……。でも、ちょっぴり嫉妬してます……。女子と間違えられる僕とは違って、身長高くてかっこよくて、すみれさんはこういう人がタイプなのかなって……」
戸田っちは人を惹きつける不思議な魅力があるけど、タイプかと言われるとそうではない。むしろ私のタイプは……。
「一之瀬くんに言うのすごく恥ずかしいんだけど……誤解されてるよりはマシだから言うね……」
「はい……」
「私、実は……一之瀬くんみたいな中性的な美男子がタイプなの……」
「……え?」
「あと一之瀬くんの、純粋で、一途で、無自覚にあざとくて、可愛くて、健気なところ…………どストライクなんだよね。私の好みのど真ん中」
「…………」
「……っ、ねぇ! すごい恥ずかしいんだから、なんか言ってよ……!」
自分から言ったくせに、恥ずかしすぎて死にそうだ。あまりの恥ずかしさに、目に涙は溜まるし、顔は熱いしで、一之瀬くんの方を見れない。
「……あんまり可愛いこと言わないで下さい。僕も思春期の男の子なんですから……」
次の瞬間、一之瀬くんは私を床に押し倒していた。真っ赤な顔を見られたくなくて、手で顔を覆おうとするけど、一之瀬くんがそれを許してくれなかった。
「すみれさんの照れてる顔、僕見たいです」
「無理! 絶対見せない!」
私は必死に顔を隠そうとするけど、一之瀬くんが私の腕をしっかり掴んで離さない。こんなに可愛くて、こんなに華奢なのに、腕を掴む力の強さは男の子そのものだった。
「涙いっぱい溜めて、顔を真っ赤にしてるすみれさん、すごく可愛いです」
そう言うと一之瀬くんは私の頬をそっと撫でた。
さっき、「思春期だから……」みたいなこと言ってたし、この雰囲気……キス以上もされちゃうかも……という考えが頭をよぎった。でもまだ一之瀬くんは未成年で、しかも生徒で、これ以上は……と思っていると、一之瀬くんの顔が近づいてきた。「もうなるようになれ!」と思いながら、私はぎゅっと目を瞑った。
…………。
……………………??
数秒の謎の沈黙。キスされる訳でもなく、手を離される訳でもなく。
「????」
私はゆっくり目を開けた。すると、一之瀬くんが私のおでこに軽くキスをした。
……ん??
すごい勢いで押し倒されたから、絶対何かされると思った。だから私は勢い余って一之瀬くんに、
「……えっ! それだけ!?」
と、聞いてしまった。これでは私が何かされることを期待していたみたいだ。言った後にしまった……と思ったが、時すでに遅し。
「ふふっ、すみれさんは何を期待していたんですか?」
「いや、えっと……何かされるかと思って……」
「何かってなんですか?」
「えっと……それは……」
「……ふふふっ、すみれさんのえっち」
「だって! そういう雰囲気だったから!」
「あまり強引なことをして、すみれさんに嫌われたくないなって思って……どうにか理性を保ちました。でも、すみれさんはむしろ期待してくれていたようで♪」
「ち、違う! 違うから!」
これではどっちが年上か分からない。そのあとも一之瀬くんに散々からかわれたのであった。
――お家デートの次の日。
塾長から「授業が始まる前に話したいことがある」と連絡があり、いつもより早い時間に家を出て、塾へと向かっていた。「一之瀬くんとの関係がバレた?!」とも思ったが、こうやって授業前に呼び出されるときは大抵、「体験にやってくる生徒の授業をお願いしたい」や「受験対策用の追加授業をお願いしたい」などの相談だった。まぁ、きっと今回もそうだろうと……このときは思っていた。
ガチャ
塾に到着し、私を待っていた塾長へ挨拶をする。
「塾長、お疲れ様です」
「河本先生、お疲れ様です。急にすみませんね。どうしてもすぐ確認したいことがありまして……」
ドクンと心臓が鳴った。なんだか嫌な予感がする……。塾長はスマホを差し出し、一枚の写真を私に見せた。
「ここに写っているのは……河本先生と一之瀬くん……ですよね?」
――見せられた写真には、私と一之瀬くんが確かに写っていた。
どこかへ遊びにいくのは塾の人と遭遇する可能性があるということで、一之瀬くんが私の家に来ることになった。幸いなことに、私は実家を出て一人暮らしをしている。なので、一之瀬くんが来るのは問題ないと思ったが……そもそも、未成年の子を家にあげるのは色々と問題あり……? なのかも……? 問題がなかったとしても、ちょうど一之瀬くんが家に入るところを見た人がいたら……?
怖くなった私がスマホで【未成年 家 連れ込み】で検索していると、インターホンが鳴った。
「はーい……」
周りを警戒しながら、そっと扉を開ける。
「すみれさん、こんにちはー! どうして扉少ししか開けてくれないんですか?? ていうか、私服のすみれさん何度見ても可愛すぎますっ!」
「と、とりあえず! 家の中入ろっか!!」
私は慌てて一之瀬くんを家にあげた。この子は本当にこういうことサラッと言うよなぁー……。
「おじゃましまーす……」
一之瀬くんは初めて家に来たからか、少し緊張しているようだ。そんな一之瀬くんを見ていると、こっちもなんだかソワソワしてしまう。自分の家に一之瀬くんがいるってなんか不思議な光景だなぁ……と思っていると、一之瀬くんが紙袋を差し出してきた。
「これ……一緒に食べたくて買ってきました!」
「えっ、これ……駅前のケーキ屋さんの紙袋だよね……!?」
「そうです! すみれさん、ここのチョコケーキが好きなんですよね?」
「いや、なんで知ってるの……ていうか、ここのケーキって朝から並ばないと買えないはずなんだけど……もしかして、一之瀬くん今日朝から並んで……??」
「すみれさんに喜んでほしくて朝から並んじゃいました♪」
そう言われた次の瞬間、私は一之瀬くんをぎゅーっと抱きしめていた。
「え、すみれさん!?」
「……あまりにも一之瀬くんが健気で可愛いから……」
「そういうすみれさんの方が可愛いです!!」
一之瀬くんも私に負けじとぎゅーっとしてきた。今日も私の彼氏(仮)は絶好調に可愛い。自分は恋をしても割とクールなタイプかと思っていたが、どうやら違ったようだ。側から見たらこういうカップルをバカップルって言うんだろうなぁ……と考えていた。
「……と、とりあえず部屋にいこっか」
「そうですね……!」
会って早々、玄関先でイチャイチャしてしまったことが急に恥ずかしくなって、部屋へ向かうことにした。
「……わぁ、ここがすみれさんのお部屋……!」
「そんな大したもの置いてないんだけどね」
「僕、あれ見たいです! 卒アル!!」
「えぇー……なんか恥ずかしいな……昔の私、部活でめちゃくちゃ髪短くしてたから……」
「昔のショートカットのすみれさんも超絶可愛かったですよ!」
「あ、そっか、会ったことあるもんね。うーん……じゃあ、いっか!」
「やったー!!」
卒アルを探していると、大学の旅行サークルのみんなで撮った写真が数枚出てきた。
「これ、大学のときの写真ですか?」
「そう。旅行サークルのみんなで、最後の卒業旅行に行ったときの写真」
「大学時代のすみれさん……! 僕の知らないすみれさん、見たいです!」
「今とそんなに変わらないよ?」
「それでも見たいです!!」
「じゃあ、どうぞ」
「よーし、すみれさん探しますね!」
一之瀬くんは集合写真の中から私を探し始めた。そしてものの数秒で、私を探し当てた。
「本当にすみれさん今と変わらないですね」
「そりゃあ大学時代って言っても、まだ数年前のことだからね」
「あの……違ってたらすみません。すみれさん、もしかしてこの人のこと好きでした……?」
そう言って一之瀬くんは写真の中の戸田っちを指差した。
「えっと……なんでそう思ったの??」
「写真の中のすみれさん、この人のこと目で追ってる感じがして……。あと、この人、前すみれさんと一緒にいた方ですよね?」
街中で戸田っちといるときに一之瀬くんと会ったことを思い出した。そういえばそんなことがあった。確かそのとき、一之瀬くんは私が戸田っちとキスしてたって勘違いして……。
「一緒にいた人だけど、あのときキスはしてなかったからね!?」
「あっ……そうだったんですね……。僕の勘違いだったのか……。……でも、このときは好きだったんじゃないですか?」
一之瀬くんにジッと見つめられる。一之瀬くんの大きな瞳で見つめられると、なんだか全てを見透かされているような気がしてくる。私は正直に話すことにした。
「うん、このときは好きだったね」
「そうなんですね……。今もまだ好きな気持ちはありますか?」
「それはない。好きだったのは大学のときだけ。今はただの友達だよ」
「……教えてくれてありがとうございます……。でも、ちょっぴり嫉妬してます……。女子と間違えられる僕とは違って、身長高くてかっこよくて、すみれさんはこういう人がタイプなのかなって……」
戸田っちは人を惹きつける不思議な魅力があるけど、タイプかと言われるとそうではない。むしろ私のタイプは……。
「一之瀬くんに言うのすごく恥ずかしいんだけど……誤解されてるよりはマシだから言うね……」
「はい……」
「私、実は……一之瀬くんみたいな中性的な美男子がタイプなの……」
「……え?」
「あと一之瀬くんの、純粋で、一途で、無自覚にあざとくて、可愛くて、健気なところ…………どストライクなんだよね。私の好みのど真ん中」
「…………」
「……っ、ねぇ! すごい恥ずかしいんだから、なんか言ってよ……!」
自分から言ったくせに、恥ずかしすぎて死にそうだ。あまりの恥ずかしさに、目に涙は溜まるし、顔は熱いしで、一之瀬くんの方を見れない。
「……あんまり可愛いこと言わないで下さい。僕も思春期の男の子なんですから……」
次の瞬間、一之瀬くんは私を床に押し倒していた。真っ赤な顔を見られたくなくて、手で顔を覆おうとするけど、一之瀬くんがそれを許してくれなかった。
「すみれさんの照れてる顔、僕見たいです」
「無理! 絶対見せない!」
私は必死に顔を隠そうとするけど、一之瀬くんが私の腕をしっかり掴んで離さない。こんなに可愛くて、こんなに華奢なのに、腕を掴む力の強さは男の子そのものだった。
「涙いっぱい溜めて、顔を真っ赤にしてるすみれさん、すごく可愛いです」
そう言うと一之瀬くんは私の頬をそっと撫でた。
さっき、「思春期だから……」みたいなこと言ってたし、この雰囲気……キス以上もされちゃうかも……という考えが頭をよぎった。でもまだ一之瀬くんは未成年で、しかも生徒で、これ以上は……と思っていると、一之瀬くんの顔が近づいてきた。「もうなるようになれ!」と思いながら、私はぎゅっと目を瞑った。
…………。
……………………??
数秒の謎の沈黙。キスされる訳でもなく、手を離される訳でもなく。
「????」
私はゆっくり目を開けた。すると、一之瀬くんが私のおでこに軽くキスをした。
……ん??
すごい勢いで押し倒されたから、絶対何かされると思った。だから私は勢い余って一之瀬くんに、
「……えっ! それだけ!?」
と、聞いてしまった。これでは私が何かされることを期待していたみたいだ。言った後にしまった……と思ったが、時すでに遅し。
「ふふっ、すみれさんは何を期待していたんですか?」
「いや、えっと……何かされるかと思って……」
「何かってなんですか?」
「えっと……それは……」
「……ふふふっ、すみれさんのえっち」
「だって! そういう雰囲気だったから!」
「あまり強引なことをして、すみれさんに嫌われたくないなって思って……どうにか理性を保ちました。でも、すみれさんはむしろ期待してくれていたようで♪」
「ち、違う! 違うから!」
これではどっちが年上か分からない。そのあとも一之瀬くんに散々からかわれたのであった。
――お家デートの次の日。
塾長から「授業が始まる前に話したいことがある」と連絡があり、いつもより早い時間に家を出て、塾へと向かっていた。「一之瀬くんとの関係がバレた?!」とも思ったが、こうやって授業前に呼び出されるときは大抵、「体験にやってくる生徒の授業をお願いしたい」や「受験対策用の追加授業をお願いしたい」などの相談だった。まぁ、きっと今回もそうだろうと……このときは思っていた。
ガチャ
塾に到着し、私を待っていた塾長へ挨拶をする。
「塾長、お疲れ様です」
「河本先生、お疲れ様です。急にすみませんね。どうしてもすぐ確認したいことがありまして……」
ドクンと心臓が鳴った。なんだか嫌な予感がする……。塾長はスマホを差し出し、一枚の写真を私に見せた。
「ここに写っているのは……河本先生と一之瀬くん……ですよね?」
――見せられた写真には、私と一之瀬くんが確かに写っていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
おもしろい!
お気に入りに登録しました~
スパークノークスさん、お気に入りと感想ありがとうございます!!大変励みになります……!これからもよろしくお願いします(*^^*)