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1章 暗殺者から冒険者へジョブチェンジ!
13、エリオットはただの竜好きではない
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迷宮に入る冒険者のために造られた街なので、入街審査の列に並んでいた人たちは冒険者が多いが、その殆どがレオンハルトを見て歓声を上げる。彼の人気ぶりが窺えるだろう。
ペイルから下り、手綱を持って列の一番後ろに並ぶと、一番前に並んでいたパーティーだと思われる男女混合の六人組の冒険者が、レオンハルトに手招きしてさっと一番前を開けてくれた。
「レオンハルトさん、お先にどうぞ」
「え、いいのか? なんか割り込んじまったみたいで悪いな」
「ととととんでもない! レオンハルトさんをお待たせするわけにはいきませんから」
祖父母や親の世代から話を聞くのか、未だに魔王討伐のメンバーだったレオンハルトは人気者で憧れの存在だ。自分たちの今の生活を守ってくれた英雄を列に並ばせるわけにはいかない。
「国民は皆、当時の国王陛下からレオンハルトさんに対して最大限の助力をするようにとの通達が出ていることを知ってます」
「そうそう。私たちが今こうして生活できているのはレオンハルトさんたちのおかげです。順番を変わることくらいどうってことないです」
「むしろそれだけしかオレたちにできなくって申し訳ないです」
他のみんなも笑顔で口々にレオンハルトを褒め称えた。魔王討伐のあと、当時の陛下に何か褒賞をと言われたレオンハルトは、面白そうだから仲間になって魔王を討伐しただけで楽しかったから何もいらない、と言って何も貰おうとしなかった。仕方なく陛下はレオンハルトに、国に危険が及ぶこと以外の要望は最大限叶えることを約束し、それを国中に通達した。
きっと僕に対しての甘い処分もレオンハルトの要望だったのだろう。じゃなきゃ今頃僕は牢の中だ。
向かって右側の物見櫓が入街審査場で、左側が出街審査場になっている。ぐっと背筋を伸ばすとバキバキと音がした。慣れない馬移動のせいだ。鞍もあったし、手綱を握ってもいない。後ろからレオンハルトがずっと身体を支えてくれていたのにも関わらず、腰も尻も太腿も筋肉痛のように痛んだ。昼間の草原大鼠との戦いの方が楽なほどだ。早くペイルの背に慣れないと、辺境までの移動が辛いかもしれない。
門番のエルさんとシドさんは思った通り兄弟で、今日はエルさんが入街を、シドさんが出街審査を担っていた。
「これも規則ですのですみません。身分証かギルドカードの提示をお願いします」
エルさんが申し訳なさそうにレオンハルトに言った。本人だと分かっていても、入街審査は規則であり、街の中の人間を守るために必要だからだ。このギルドカードには本人の魔力が通してあり、隠蔽も複製も出来ないようになっていて、カードには必ず本人の情報が記載される。
もし誰かが無属性魔法の一つである【変身】の魔法でレオンハルトの姿を取ったとしても、カードに登録された魔力がレオンハルトと異なり、すぐにバレてしまうため、別人になり済ますことは出来ないわけだ。
ーーただ、他人の姿のみならず、魔力ですら完璧に模倣した【変身】魔法が使える人はその限りではない。そして僕はそれが出来る人を一人知っている。
「ほいよ」
レオンハルトが冒険者ギルドのギルドカードを無造作に胸ポケットから取り出すと、周りがざわっとした。
「すげぇ! 金色なんてはじめて見た」
「S級カードなんて一生お目にかかれないと思ってたぜ」
ギルドカードの最上級SSSランクは現在この国では二人しかいない。『竜人』のレオンハルトと、王都エクスファイランの冒険者ギルドのギルドマスター、鬼人族の長の弟である二つ名『鬼神』の酒呑だけだ。Sランクより上の冒険者はほとんどがギルドマスターの任を受けている。今のところ、S級の頂に立てそうな冒険者はヴィクター・レイ・フランネルだけだ。
魔王を討伐した勇者と聖女の孫であるヴィクターは破竹の勢いで色々なダンジョンに潜り攻略している。最年少のA級冒険者の誕生はもちろんのこと、S級に手が届くかもしれないと専らの噂だ。S級の地図が書き変わる瞬間を見るのが国民の楽しみになっている。
「はい、確かに」
ちゃんとレオンハルトのカードかを確認したエルさんが、次にハッシュさんが差し出した商人用の通行証と、商人ギルドから発行されたエリオットさんとハッシュさんの商人ギルドカードを見て目を見張った。通行証にエマーシャル王国の王室御用達であるカミツレの花の透かしが浮かび上がっていたのと、商人ギルドのカードがAランクを示す紫色だったからだ。
「Aランクの商会なんですか! すごいですね!! レオンハルトさんが護衛するだけありますね」
「いえいえ。ただ歴史だけが古いだけですよ。創業当時、たまたまうちの商品が王妃様の目に留まりまして、それ以来、定期的に王宮に商品を納めるようになったんです」
「バークレー商会って実はすごいんですね……」
エリオットさんはただの竜好きなだけではなかったわけだ。
順番を譲ってくれた冒険者パーティーのメンバーの一人の女の子が、バークレー商会と聞いて黄色い声を上げた。
「うそっ! バークレー商会って言ったら毛皮のマフラーや手袋なんかの服飾雑貨を扱ってる商会でしょ? 今、女の子たちの間で可愛いってすごい人気があるのよ!」
「でもアタシたちにはお高くて手が出せないの」
それを聞いたエリオットさんの目がきらりと光ったような気がした。温厚なエリオットさんではない、獲物を狙うような目だ。
「それでしたら」
揉み手をせんばかりにエリオットさんがハッシュさんに指示を出し、ハッシュさんは荷物の中から筒状になった茶色い毛皮を取り出してエリオットさんに手渡した。
「これは今度この国で売り出そうと思っている『スヌード』というものです。マフラーと同じ首元を温める防寒具なのですが、こちらは円型になっているので、頭から被って首にこうして一重、二重にすればとても温かく、マフラーのように結ぶ手間もなく、結び目が解ける心配もありません」
エリオットさんがハッシュさんの首にスヌードを巻いて実演している間に、僕の入街手続きをすることにする。僕は身分証を持っていないので、手続きに時間がかかるのだ。
「身分証がない場合は街に入るのに一万ガル必要です。……はい、確かに」
レオンハルトが胸ポケットから出した布袋の中から一万ガル金貨を取り出してシドさんに支払った。胸ポケットに布袋が入る大きさはない。さっきも無くしては困るギルドカードを同じポケットに入れていたようだし、もしかしたらポケットが異空間収納になっているのかもしれない。
「では今から仮の通行証を作りますね。街を出る時には必ず返してくださいね」
「分かりました」
エルさんは卓上の収納ケースから紙を一枚出して机の上に置くと、僕にペンを渡した。
「じゃ、ここに名前を書いてから魔力を流してね」
「名前……」
僕に名は無いけれど、ケイでいいのだろうか? 確認のためにレオンハルトの方を見ると頷きが返ってきた。『ケイ』とだけ記載して紙に魔力を通すと、それはふわりと浮き上がって、パタンパタンと折り畳まれて形を変えていく。名刺くらいの大きさになったところでそれは固まり、まるでカードのようになった。
「『ケイ・ドレイク』って書いてもよかったのに」
「お断りしますッ!」
レオンハルトと婚姻や養子縁組をしたわけでもないので、その名前は遠慮しておきます!
「はい、それが通行証ね。期限は三日だよ。あ、レオンさん。レオンさんはこの子を連れてこれからライムライトに帰るんですよね? だったら街に寄るたびに毎回一万ガルを払うより、どこかのギルドでカードを作った方が良くないですか? ここのギルドでカードを作ったら、街を出る時に半額返ってきますし」
どこのギルドでも、十五歳になると身分証の代わりになるギルドカードを作ることができる。登録に必要な金額は五千ガルで、最初にカードを作る時と無くしたときにしか金はかからない。街から街へ移動することが多い者たちは早いうちにカードを作り身分証の代わりにする。
ギルドはギルドでも、僕が所属していた暗殺者ギルドではギルドカードは発行していなかった。王都を出て外で仕事をすることは今まで一度もなかったから、僕はまだ身分証を持っていなかった。
「そうだなぁ。じゃあ時間があったら作るかぁ。エリオットに今日の予定を聞いてみるとするかな」
そのエリオットさんはまだ女冒険者たちと話している。いつの間にかエリオットさんたちの周りには女性ばかりの人だかりができていた。
「今なら千ガルでお売りしますよ。ただし、使ってみた感想などを周りの冒険者たちに話してもらいたいんです」
「広告塔になれってワケね」
漏れ聞こえる会話から、エリオットさんの商談はとても上手だと分かった。さすが外回りを担当しているだけはある。
「みなさん、出街審査の邪魔ですよ! こんなところで商売しないでくださいよ、もう。はいはい、入街審査がまだの方はちゃんとこっち並んで!」
シドさんが仕事の手を止めて声を上げ、冒険者たちを誘導しはじめた。僕たちがエリオットさんたちの元へ戻ると、女冒険者たちは列に並び直す前に僕たちに提案をしてきた。
「あなたたち、今から宿取るんでしょ? アタシたち、『白羊亭』って宿屋に泊まっているの。とても綺麗でいい宿屋さんだし、ちゃんと厩舎もあるのよ。まだ部屋は空いてると思うからそこに泊まったらどうかしら? アタシたち、お金を宿屋に預けてあるから今は持ち合わせがないけど、もしあなたたちが泊まればそこで支払えるし、他にも品物があったら見てみたいわ」
エリオットさんが確認するようにレオンハルトの顔を見た。
「いいんじゃねぇか。むしろ宿を探す手間が省けたぜ。俺たちは宿に落ち着いたら冒険者ギルドへ行って、ケイのギルドカードを作ってくる。その間にエリオットたちは女の子たちと商談すればいいさ」
「分かりました」
エリオットさんは列に並び直した女冒険者の元へ行き、了承の返事をした。そして最後にもう一度、女性たちに大きく頭を下げた後、僕たちに合流した。
……………………………………………………………
【おまけの補遺】
(side.『鬼神』の酒呑 ギルマス会議)
年に一度、火の月一日目に、冒険者ギルドの支店全てのギルドマスターを集めた会議がここ、王都エクスファイランの本部で行われる。遠く辺境から来るレオンハルトには悪いが年に一度だから許してほしい。
この冒険者ギルド、ギルドマスター会議略してギルマス会議は、各地の冒険者の活躍や、討伐した魔獣の情報交換、各地での報告事項など、冒険者ギルドが関わったありとあらゆる物事を報告する会議である。
「メレキオールへ向かう街道にあるキュレル山に盗賊が棲みついたとのことだ。ギルドに討伐依頼を出すからよろしく頼む。他に何かあるか」
椅子にちょこんと座った小さな男の子が、隣席のレオンハルトに声をかけた。
「そういやぁさぁ、レオンってば二日くらい前に暗殺者ギルドのハニートラップ受けたってマジ? ぎゃははは、うっけるぅ~~」
「問題ねぇ。他の女なんてどうでもいい。俺にはつがいだけだからなァ」
「そのつがいってまだ見つかってないんでしょ? レオンってもしかしてつがいが見つかるまで誰ともエッチしないつもりなの~~? レオンは大英雄サマなのにまさかどーてーくんなのかなぁ、ぎゃははっ」
レオンハルトに失礼な態度を取っているのはグランダンナのギルドマスターで『小人族』のシュタイナーだ。口が悪くて作り笑いをいつも顔に浮かべているいけすかないやつで、十歳くらいの子供みたいな外見をしてるが、ひとたび彼が戦場に出ると、身に纏う覇気だけで魔獣を退散させるくらい強い。まあオレの方が強いがな。
「ハニートラップを仕掛けた『大地』を逆に懲らしめたと聞きましたよ。さすがです、レオンハルトさま。でもどうやら『深海』にも暗殺依頼が入っているようですよ」
「レオンハルトさま、前にメレキオールの裏カジノ潰したでしょう。あれ、第五王子の資金源だったんですよね。ですから今回の『大地』と『深海』への暗殺依頼は王子から出ています」
全く同じ顔が全く同じように片眼鏡を指で押さえた。右目にしている方がゴルド、左目にしている方がシルバで、いつもそれで二人を区別している。二人とも水属性のS級冒険者で、王都に次ぐ大きさのメレキオールのギルドマスターだ。
「『深海』と言えば、とっても腕のいい氷属性の暗殺者がいると聞いたわぁ。レオンちゃん、気を付けてねぇ~~」
「フィランゼア、レオンハルトさんから離れろ!」
オレが怒鳴った相手、フィランゼアはデュラハンのギルドマスターだ。外見は…「ストーーーーップ!!!」
「うおっ!!」
「なんだなんだ?」
「このあと、デュラハンの街の冒険者ギルドでケイくんが冒険者登録します。そこにギルマスも出てくるので、ギルマスの情報はその時に。乞うご期待!!」
だからお前誰だよっ!!
……………………………………………………………
ペイルから下り、手綱を持って列の一番後ろに並ぶと、一番前に並んでいたパーティーだと思われる男女混合の六人組の冒険者が、レオンハルトに手招きしてさっと一番前を開けてくれた。
「レオンハルトさん、お先にどうぞ」
「え、いいのか? なんか割り込んじまったみたいで悪いな」
「ととととんでもない! レオンハルトさんをお待たせするわけにはいきませんから」
祖父母や親の世代から話を聞くのか、未だに魔王討伐のメンバーだったレオンハルトは人気者で憧れの存在だ。自分たちの今の生活を守ってくれた英雄を列に並ばせるわけにはいかない。
「国民は皆、当時の国王陛下からレオンハルトさんに対して最大限の助力をするようにとの通達が出ていることを知ってます」
「そうそう。私たちが今こうして生活できているのはレオンハルトさんたちのおかげです。順番を変わることくらいどうってことないです」
「むしろそれだけしかオレたちにできなくって申し訳ないです」
他のみんなも笑顔で口々にレオンハルトを褒め称えた。魔王討伐のあと、当時の陛下に何か褒賞をと言われたレオンハルトは、面白そうだから仲間になって魔王を討伐しただけで楽しかったから何もいらない、と言って何も貰おうとしなかった。仕方なく陛下はレオンハルトに、国に危険が及ぶこと以外の要望は最大限叶えることを約束し、それを国中に通達した。
きっと僕に対しての甘い処分もレオンハルトの要望だったのだろう。じゃなきゃ今頃僕は牢の中だ。
向かって右側の物見櫓が入街審査場で、左側が出街審査場になっている。ぐっと背筋を伸ばすとバキバキと音がした。慣れない馬移動のせいだ。鞍もあったし、手綱を握ってもいない。後ろからレオンハルトがずっと身体を支えてくれていたのにも関わらず、腰も尻も太腿も筋肉痛のように痛んだ。昼間の草原大鼠との戦いの方が楽なほどだ。早くペイルの背に慣れないと、辺境までの移動が辛いかもしれない。
門番のエルさんとシドさんは思った通り兄弟で、今日はエルさんが入街を、シドさんが出街審査を担っていた。
「これも規則ですのですみません。身分証かギルドカードの提示をお願いします」
エルさんが申し訳なさそうにレオンハルトに言った。本人だと分かっていても、入街審査は規則であり、街の中の人間を守るために必要だからだ。このギルドカードには本人の魔力が通してあり、隠蔽も複製も出来ないようになっていて、カードには必ず本人の情報が記載される。
もし誰かが無属性魔法の一つである【変身】の魔法でレオンハルトの姿を取ったとしても、カードに登録された魔力がレオンハルトと異なり、すぐにバレてしまうため、別人になり済ますことは出来ないわけだ。
ーーただ、他人の姿のみならず、魔力ですら完璧に模倣した【変身】魔法が使える人はその限りではない。そして僕はそれが出来る人を一人知っている。
「ほいよ」
レオンハルトが冒険者ギルドのギルドカードを無造作に胸ポケットから取り出すと、周りがざわっとした。
「すげぇ! 金色なんてはじめて見た」
「S級カードなんて一生お目にかかれないと思ってたぜ」
ギルドカードの最上級SSSランクは現在この国では二人しかいない。『竜人』のレオンハルトと、王都エクスファイランの冒険者ギルドのギルドマスター、鬼人族の長の弟である二つ名『鬼神』の酒呑だけだ。Sランクより上の冒険者はほとんどがギルドマスターの任を受けている。今のところ、S級の頂に立てそうな冒険者はヴィクター・レイ・フランネルだけだ。
魔王を討伐した勇者と聖女の孫であるヴィクターは破竹の勢いで色々なダンジョンに潜り攻略している。最年少のA級冒険者の誕生はもちろんのこと、S級に手が届くかもしれないと専らの噂だ。S級の地図が書き変わる瞬間を見るのが国民の楽しみになっている。
「はい、確かに」
ちゃんとレオンハルトのカードかを確認したエルさんが、次にハッシュさんが差し出した商人用の通行証と、商人ギルドから発行されたエリオットさんとハッシュさんの商人ギルドカードを見て目を見張った。通行証にエマーシャル王国の王室御用達であるカミツレの花の透かしが浮かび上がっていたのと、商人ギルドのカードがAランクを示す紫色だったからだ。
「Aランクの商会なんですか! すごいですね!! レオンハルトさんが護衛するだけありますね」
「いえいえ。ただ歴史だけが古いだけですよ。創業当時、たまたまうちの商品が王妃様の目に留まりまして、それ以来、定期的に王宮に商品を納めるようになったんです」
「バークレー商会って実はすごいんですね……」
エリオットさんはただの竜好きなだけではなかったわけだ。
順番を譲ってくれた冒険者パーティーのメンバーの一人の女の子が、バークレー商会と聞いて黄色い声を上げた。
「うそっ! バークレー商会って言ったら毛皮のマフラーや手袋なんかの服飾雑貨を扱ってる商会でしょ? 今、女の子たちの間で可愛いってすごい人気があるのよ!」
「でもアタシたちにはお高くて手が出せないの」
それを聞いたエリオットさんの目がきらりと光ったような気がした。温厚なエリオットさんではない、獲物を狙うような目だ。
「それでしたら」
揉み手をせんばかりにエリオットさんがハッシュさんに指示を出し、ハッシュさんは荷物の中から筒状になった茶色い毛皮を取り出してエリオットさんに手渡した。
「これは今度この国で売り出そうと思っている『スヌード』というものです。マフラーと同じ首元を温める防寒具なのですが、こちらは円型になっているので、頭から被って首にこうして一重、二重にすればとても温かく、マフラーのように結ぶ手間もなく、結び目が解ける心配もありません」
エリオットさんがハッシュさんの首にスヌードを巻いて実演している間に、僕の入街手続きをすることにする。僕は身分証を持っていないので、手続きに時間がかかるのだ。
「身分証がない場合は街に入るのに一万ガル必要です。……はい、確かに」
レオンハルトが胸ポケットから出した布袋の中から一万ガル金貨を取り出してシドさんに支払った。胸ポケットに布袋が入る大きさはない。さっきも無くしては困るギルドカードを同じポケットに入れていたようだし、もしかしたらポケットが異空間収納になっているのかもしれない。
「では今から仮の通行証を作りますね。街を出る時には必ず返してくださいね」
「分かりました」
エルさんは卓上の収納ケースから紙を一枚出して机の上に置くと、僕にペンを渡した。
「じゃ、ここに名前を書いてから魔力を流してね」
「名前……」
僕に名は無いけれど、ケイでいいのだろうか? 確認のためにレオンハルトの方を見ると頷きが返ってきた。『ケイ』とだけ記載して紙に魔力を通すと、それはふわりと浮き上がって、パタンパタンと折り畳まれて形を変えていく。名刺くらいの大きさになったところでそれは固まり、まるでカードのようになった。
「『ケイ・ドレイク』って書いてもよかったのに」
「お断りしますッ!」
レオンハルトと婚姻や養子縁組をしたわけでもないので、その名前は遠慮しておきます!
「はい、それが通行証ね。期限は三日だよ。あ、レオンさん。レオンさんはこの子を連れてこれからライムライトに帰るんですよね? だったら街に寄るたびに毎回一万ガルを払うより、どこかのギルドでカードを作った方が良くないですか? ここのギルドでカードを作ったら、街を出る時に半額返ってきますし」
どこのギルドでも、十五歳になると身分証の代わりになるギルドカードを作ることができる。登録に必要な金額は五千ガルで、最初にカードを作る時と無くしたときにしか金はかからない。街から街へ移動することが多い者たちは早いうちにカードを作り身分証の代わりにする。
ギルドはギルドでも、僕が所属していた暗殺者ギルドではギルドカードは発行していなかった。王都を出て外で仕事をすることは今まで一度もなかったから、僕はまだ身分証を持っていなかった。
「そうだなぁ。じゃあ時間があったら作るかぁ。エリオットに今日の予定を聞いてみるとするかな」
そのエリオットさんはまだ女冒険者たちと話している。いつの間にかエリオットさんたちの周りには女性ばかりの人だかりができていた。
「今なら千ガルでお売りしますよ。ただし、使ってみた感想などを周りの冒険者たちに話してもらいたいんです」
「広告塔になれってワケね」
漏れ聞こえる会話から、エリオットさんの商談はとても上手だと分かった。さすが外回りを担当しているだけはある。
「みなさん、出街審査の邪魔ですよ! こんなところで商売しないでくださいよ、もう。はいはい、入街審査がまだの方はちゃんとこっち並んで!」
シドさんが仕事の手を止めて声を上げ、冒険者たちを誘導しはじめた。僕たちがエリオットさんたちの元へ戻ると、女冒険者たちは列に並び直す前に僕たちに提案をしてきた。
「あなたたち、今から宿取るんでしょ? アタシたち、『白羊亭』って宿屋に泊まっているの。とても綺麗でいい宿屋さんだし、ちゃんと厩舎もあるのよ。まだ部屋は空いてると思うからそこに泊まったらどうかしら? アタシたち、お金を宿屋に預けてあるから今は持ち合わせがないけど、もしあなたたちが泊まればそこで支払えるし、他にも品物があったら見てみたいわ」
エリオットさんが確認するようにレオンハルトの顔を見た。
「いいんじゃねぇか。むしろ宿を探す手間が省けたぜ。俺たちは宿に落ち着いたら冒険者ギルドへ行って、ケイのギルドカードを作ってくる。その間にエリオットたちは女の子たちと商談すればいいさ」
「分かりました」
エリオットさんは列に並び直した女冒険者の元へ行き、了承の返事をした。そして最後にもう一度、女性たちに大きく頭を下げた後、僕たちに合流した。
……………………………………………………………
【おまけの補遺】
(side.『鬼神』の酒呑 ギルマス会議)
年に一度、火の月一日目に、冒険者ギルドの支店全てのギルドマスターを集めた会議がここ、王都エクスファイランの本部で行われる。遠く辺境から来るレオンハルトには悪いが年に一度だから許してほしい。
この冒険者ギルド、ギルドマスター会議略してギルマス会議は、各地の冒険者の活躍や、討伐した魔獣の情報交換、各地での報告事項など、冒険者ギルドが関わったありとあらゆる物事を報告する会議である。
「メレキオールへ向かう街道にあるキュレル山に盗賊が棲みついたとのことだ。ギルドに討伐依頼を出すからよろしく頼む。他に何かあるか」
椅子にちょこんと座った小さな男の子が、隣席のレオンハルトに声をかけた。
「そういやぁさぁ、レオンってば二日くらい前に暗殺者ギルドのハニートラップ受けたってマジ? ぎゃははは、うっけるぅ~~」
「問題ねぇ。他の女なんてどうでもいい。俺にはつがいだけだからなァ」
「そのつがいってまだ見つかってないんでしょ? レオンってもしかしてつがいが見つかるまで誰ともエッチしないつもりなの~~? レオンは大英雄サマなのにまさかどーてーくんなのかなぁ、ぎゃははっ」
レオンハルトに失礼な態度を取っているのはグランダンナのギルドマスターで『小人族』のシュタイナーだ。口が悪くて作り笑いをいつも顔に浮かべているいけすかないやつで、十歳くらいの子供みたいな外見をしてるが、ひとたび彼が戦場に出ると、身に纏う覇気だけで魔獣を退散させるくらい強い。まあオレの方が強いがな。
「ハニートラップを仕掛けた『大地』を逆に懲らしめたと聞きましたよ。さすがです、レオンハルトさま。でもどうやら『深海』にも暗殺依頼が入っているようですよ」
「レオンハルトさま、前にメレキオールの裏カジノ潰したでしょう。あれ、第五王子の資金源だったんですよね。ですから今回の『大地』と『深海』への暗殺依頼は王子から出ています」
全く同じ顔が全く同じように片眼鏡を指で押さえた。右目にしている方がゴルド、左目にしている方がシルバで、いつもそれで二人を区別している。二人とも水属性のS級冒険者で、王都に次ぐ大きさのメレキオールのギルドマスターだ。
「『深海』と言えば、とっても腕のいい氷属性の暗殺者がいると聞いたわぁ。レオンちゃん、気を付けてねぇ~~」
「フィランゼア、レオンハルトさんから離れろ!」
オレが怒鳴った相手、フィランゼアはデュラハンのギルドマスターだ。外見は…「ストーーーーップ!!!」
「うおっ!!」
「なんだなんだ?」
「このあと、デュラハンの街の冒険者ギルドでケイくんが冒険者登録します。そこにギルマスも出てくるので、ギルマスの情報はその時に。乞うご期待!!」
だからお前誰だよっ!!
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