便座の魔王世界を流す。

餅助

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プロローグ

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 体の激痛で目が覚める。
どうやら私は気絶をしたらしい。身体の節々から鈍痛がひびく。
起き上がろうにも、右足と左腕の感覚がない。
なんと情けないことか。私は右腕で地面を掴み、体を引きずりながら何とか壁際まで擦り寄る。
壁を伝い、ふらつきながらも立ち上がり、ある一方を目指し、歩き出した。
「あのお方の元へ急がねば......」
黒曜石の廊下を痛みで歯を軋ませながら進む。
道中、動かぬ肉塊となった同胞を目の端に、怒りと焦りと不安で震えが止まらない。
 黒曜石の廊下を抜けると、吹き抜けの王座があった。
本来ならば、荘厳なステンドグラスと揺れ動く燭台の火が威厳ある空間を魅せている。
その光景はどこえやら。嫌に明るい月夜の下。
彼は血だらけの姿で王座に座していた。
「魔王様!!」
私は思わず駆け出した。足の痛みを忘れるが体は言うことを聞かない。王座に座るあのお方の御前であるにも関わらず幾度も無様に転びながら駆け寄った。
「勇者との決着は如何様に......、っ!!」
 左肩から心の臓の辺り。そこに1本の線が引かれていた。
「むぅ......、もって、いかれたわ......」
 力ない乾いた笑いが私の胸に突き刺さる。
虚ろな目で私を見るも、焦点が合っていない。
「勇者の奴め......、存外にやりおる、カカカ......」
「何を悠長なことを、今回復魔法を!!」
壊れた左腕を右腕で持ち上げ全力で治療に移ろうとしたが、
「やめておけ、主も死ぬであろう......」
偉大なる王はそっと私の手を払い除け頬ずえを着いた。
 ああ、何たることか。
あの強くお優しい大きな暖かい掌は、既に冷えて力ない。
 ここで終わるのか! 我らが描いた夢の覇道。
 世界を変えようとした我らの願いはこうも容易く断ち切られるのか。
 私はついに膝を折る。
ここで倒れるのもまた、敗れ去ったものの一興やもしれぬ。
だが、御身がそれを許さなかった。
「我が親愛なる臣下に、告げる.....」
その言葉に私は目を向ける。
月夜にきらめく黒曜石の椅子に腰をかけ、満身創痍ながらも己のあるべき姿を形取る覇王。
王が王の姿をなすならば、臣下もまた、最後まで臣下たらしめよう。
私は片膝を立て、頭を垂れ御身にひざまずく。
「なんなりと」
王の最後の務めに耳を傾ける。
「参謀ルナークよ......以後、主が魔王を名乗るが良い。忠道......大儀であった......」
肩が上擦る。息が弾む。目が熱い。
「いつの日かまた、共に覇道を突き進みましょうぞ......」
私はその日初めて、号哭というものを知った。


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