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風紀委員長様は傍観する(風紀委員会室編)
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――あと一時間もすれば、定例会が始まる。
会議室という名の戦場へ向かう前に、俺たちは一息ついていた。
……と言っても、戦うのは如月ひとりの予定だ。死んだら骨くらいは拾ってやろう。
「準備で人手が足りなければ、風紀の者を使ってくれて構わない。なにか手伝うことがあれば遠慮なく言ってくれ」
「ああ、いろいろ世話をかけてすまない。助かる」
いつになく殊勝な言葉で、如月が返してきた。
しかしその反面、当たり前のように瑞貴に入れさせたコーヒーを飲みながら、涼しげな表情で自分がまとめた書類に目を通している。
言葉と行動が伴わない俺様な態度に、瑞貴のこめかみに青筋が立っていて一触即発だが、俺はその珍しい光景が面白くてただ眺めていた。
「まあ、こんなもんだろう」
最終チェックが終わったのか、如月は読んでた資料をデスクに放り投げると、再びコーヒーに口を付けた。
「……俺も読んでいいか?」
「ああ」
いま風紀委員会室にいるのは、俺と瑞貴、如月の三人だけだ。
役員以外は授業免除の特権は無いため、風紀の仕事が無い時は、なるべく教室にいるように指示している。
如月がまとめあげた定例会の資料は、文句のつけようがない完璧なものだった。
「進行はどうする?」
「俺がやる」
いつもは塚崎副会長の役目だ。
それを会長自らがやるとなれば、他の役員たちも異変に気づくことだろう。
たぶん如月は、自分以外の生徒会役員を今日付けで解任するつもりだ。彼にはそれだけの権限も理由もある。
生徒会長をひとりだけ働かせていたことが表沙汰になれば、定例会は間違いなく大荒れになる。職務怠慢なものに自分たちよりも上回る特権を与えるほど、他の役員たちも甘くはない。弱みを見せれば遠慮なく牙をむいてくる曲者ぞろいだ。その中には如月の崇拝者や友人も多い。過激な会長の親衛隊も黙ってはいないだろう。
まあ、このまま明るみに出ればの話だが。
放送室でいまにも泣きそうだった塚崎の顔……あれは恋に浮かれたものとはかけ離れていた。
その場の思いつきで、あいつには資料を破ったと嘘をついたが、考えてみれば元のデジタルデータは如月が保管しているのだ。この印刷物を破ったとしても、まったく意味は無い。
いま思い返すと、さほど効果のない脅し文句だったように思えるが、総大将の身柄を天敵の風紀(特に瑞貴)に握られてるだけでも、塚崎たちにとっては屈辱的な展開には違いない。あとはサイの目がどう出るかだが、俺はもう傍観者に徹するつもりでいる。
元々、生徒会の連中には大して興味が無いし、少しでも風紀の仕事が減るのならと協力していただけの話だ。
ここ数日で、如月へのオムライスとプリンの恩は、充分に返したと思っている。
「……なにかおかしな点でもあったか?」
資料を見つめたまま微動だにしない俺に、如月が問うてきた。
「いや別に」
書類を返して、自分もコーヒーを飲む。
いつもは紅茶なのだが、なんとなく如月と同じものにしてみた。
……苦いな。
「藤堂委員長、砂糖とミルク入れましょうか?」
瑞貴が目敏く声をかけてきた。
「ああ。頼む」
差し出された手に、飲みかけのカップをソーサーごと渡すと、すぐに俺好みの甘さと温度になって戻ってきた。そんな俺たちの様子を見て、如月が意地の悪い笑みを浮かべる。
「ふっ、いかにもブラックみてえな澄ました顔してるくせに、舌はお子ちゃまなんだな、玲一君」
「おまえこそ、たかがコーヒー一杯で背伸びするとは可愛いじゃないか」
そこへいままで大人しかった瑞貴が口を挟んできた。
「そういった台詞は、ご自分でまともなコーヒーを入れられるようになってから言ってください如月会長。ところで定例会に塚崎たちは参加するんですか? 議事録はどうします?」
「書記が来なかったら、おまえしかいねえな。藤堂にやらせるわけにもいかねえし」
「……チッ!」
「部屋に響き渡るほどの豪快な舌打ちが心地いいぜ」
「そんなんだから配下が離れていくんですよ」
「――俺なら別に構わないが?」
人手が足りないのならと立候補してみたら、同時にふたりから溜息が漏れた。
「馬鹿言え。皆の前でおまえをアゴでこき使えるほど、俺も身の程知らずじゃねえよ」
「この節操なしのバ会長の下にあなたが? 想像するだけで寒気がします。今回だけは議事録でも写経でも私が引き受けますから、そういった悪趣味な冗談だけはやめてください」
しっかり怒られた。何故だ。
「そいつは話が早くて助かるぜ。ならさっそく参加人数分だけコピーを頼む」
「……チッ!」
瑞貴が心底いまいましげに、如月から書類を奪い去った。
やや乱暴な動作のままコピー機を作動させようとしたその時……
コンコンコン
扉がノックされ、「失礼します」の掛け声と共に現れたのは、
「如月会長にお話があります」
飛んで火にいる何とやら……副会長の塚崎だった。
会議室という名の戦場へ向かう前に、俺たちは一息ついていた。
……と言っても、戦うのは如月ひとりの予定だ。死んだら骨くらいは拾ってやろう。
「準備で人手が足りなければ、風紀の者を使ってくれて構わない。なにか手伝うことがあれば遠慮なく言ってくれ」
「ああ、いろいろ世話をかけてすまない。助かる」
いつになく殊勝な言葉で、如月が返してきた。
しかしその反面、当たり前のように瑞貴に入れさせたコーヒーを飲みながら、涼しげな表情で自分がまとめた書類に目を通している。
言葉と行動が伴わない俺様な態度に、瑞貴のこめかみに青筋が立っていて一触即発だが、俺はその珍しい光景が面白くてただ眺めていた。
「まあ、こんなもんだろう」
最終チェックが終わったのか、如月は読んでた資料をデスクに放り投げると、再びコーヒーに口を付けた。
「……俺も読んでいいか?」
「ああ」
いま風紀委員会室にいるのは、俺と瑞貴、如月の三人だけだ。
役員以外は授業免除の特権は無いため、風紀の仕事が無い時は、なるべく教室にいるように指示している。
如月がまとめあげた定例会の資料は、文句のつけようがない完璧なものだった。
「進行はどうする?」
「俺がやる」
いつもは塚崎副会長の役目だ。
それを会長自らがやるとなれば、他の役員たちも異変に気づくことだろう。
たぶん如月は、自分以外の生徒会役員を今日付けで解任するつもりだ。彼にはそれだけの権限も理由もある。
生徒会長をひとりだけ働かせていたことが表沙汰になれば、定例会は間違いなく大荒れになる。職務怠慢なものに自分たちよりも上回る特権を与えるほど、他の役員たちも甘くはない。弱みを見せれば遠慮なく牙をむいてくる曲者ぞろいだ。その中には如月の崇拝者や友人も多い。過激な会長の親衛隊も黙ってはいないだろう。
まあ、このまま明るみに出ればの話だが。
放送室でいまにも泣きそうだった塚崎の顔……あれは恋に浮かれたものとはかけ離れていた。
その場の思いつきで、あいつには資料を破ったと嘘をついたが、考えてみれば元のデジタルデータは如月が保管しているのだ。この印刷物を破ったとしても、まったく意味は無い。
いま思い返すと、さほど効果のない脅し文句だったように思えるが、総大将の身柄を天敵の風紀(特に瑞貴)に握られてるだけでも、塚崎たちにとっては屈辱的な展開には違いない。あとはサイの目がどう出るかだが、俺はもう傍観者に徹するつもりでいる。
元々、生徒会の連中には大して興味が無いし、少しでも風紀の仕事が減るのならと協力していただけの話だ。
ここ数日で、如月へのオムライスとプリンの恩は、充分に返したと思っている。
「……なにかおかしな点でもあったか?」
資料を見つめたまま微動だにしない俺に、如月が問うてきた。
「いや別に」
書類を返して、自分もコーヒーを飲む。
いつもは紅茶なのだが、なんとなく如月と同じものにしてみた。
……苦いな。
「藤堂委員長、砂糖とミルク入れましょうか?」
瑞貴が目敏く声をかけてきた。
「ああ。頼む」
差し出された手に、飲みかけのカップをソーサーごと渡すと、すぐに俺好みの甘さと温度になって戻ってきた。そんな俺たちの様子を見て、如月が意地の悪い笑みを浮かべる。
「ふっ、いかにもブラックみてえな澄ました顔してるくせに、舌はお子ちゃまなんだな、玲一君」
「おまえこそ、たかがコーヒー一杯で背伸びするとは可愛いじゃないか」
そこへいままで大人しかった瑞貴が口を挟んできた。
「そういった台詞は、ご自分でまともなコーヒーを入れられるようになってから言ってください如月会長。ところで定例会に塚崎たちは参加するんですか? 議事録はどうします?」
「書記が来なかったら、おまえしかいねえな。藤堂にやらせるわけにもいかねえし」
「……チッ!」
「部屋に響き渡るほどの豪快な舌打ちが心地いいぜ」
「そんなんだから配下が離れていくんですよ」
「――俺なら別に構わないが?」
人手が足りないのならと立候補してみたら、同時にふたりから溜息が漏れた。
「馬鹿言え。皆の前でおまえをアゴでこき使えるほど、俺も身の程知らずじゃねえよ」
「この節操なしのバ会長の下にあなたが? 想像するだけで寒気がします。今回だけは議事録でも写経でも私が引き受けますから、そういった悪趣味な冗談だけはやめてください」
しっかり怒られた。何故だ。
「そいつは話が早くて助かるぜ。ならさっそく参加人数分だけコピーを頼む」
「……チッ!」
瑞貴が心底いまいましげに、如月から書類を奪い去った。
やや乱暴な動作のままコピー機を作動させようとしたその時……
コンコンコン
扉がノックされ、「失礼します」の掛け声と共に現れたのは、
「如月会長にお話があります」
飛んで火にいる何とやら……副会長の塚崎だった。
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