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風紀委員長様は眠気と戦う(自室編)

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「さて寝るか」

 如月の言葉に俺も頷く。

 たらふく飯も食って、風呂にも入った。
 お互い寝間着にも着替えたし、あとは明日に備えて寝るだけだ。なんの異論もない。

 ……と思っていたのだが。

「……なぜおまえが俺の部屋にいる」
「いいじゃねえか。寝る前に級友の部屋を探検だ、探検」
「ならもう充分だろう」
「ふうん、寝室も綺麗なもんだな。AVやエロ雑誌とか隠してねえの? 紙よりもデジタル派か? さすがは風紀委員長様といったところか」
「人の部屋を勝手に漁るな」

 勉強部屋から寝室にかけて、楽しそうに如月がチェックしている。
 俺はベッドに腰掛けて、しばらくその様子を眺めていたが、欠伸を噛み殺すのがしんどくなってきた。いつまでもお遊びに付き合っている義理はないので、さっさと毛布を被ることにする。別にみられて困る物は置いていない。見たければ好きに見ればいい。俺は寝る。

「……気が済んだら部屋を出る時、明かりを消していってくれ。おまえも寝不足が続いているのだから、早く寝た方がいいぞ」
「了解」

 言ったらすぐに明かりが消された。
 奴も探検に飽きたらしい。やれやれ、これでやっと寝られる……はずだった。

「……おい如月、ふざけるなよ」

 なぜ貴様が、俺の隣にいる。

「ベッドの大きさも俺の部屋と一緒なんだな、男二人でも悠々と寝られるサイズだ」
「……確認は済んだか?」
「ああ」
「ならとっとと出ていけ。俺に蹴り落とされないうちにな」
「そうつれないことを言うなって。おまえは眠いようだが、俺はもう少しおまえと話をしていたい」
「ならリビングに戻ってもいいぞ」
「面倒だからここでいいじゃねえか。気が済んだら俺が出ていく。別に獲って食うわけでなし……それとも俺が怖いとか?」
「……別に怖くはないが……男に添い寝されたところで楽しくもなんともない。それに俺はすごく眠いんだ。もういい加減寝かせてくれ」

 言ってる傍から、まぶたがくっつきそうなのだ。とっとと出て行ってほしい。
 一人分多い体温のせいで、布団がいつもより暖かく感じて、みるみる眠気が襲ってくる。

「このまま寝てもいいぞ。なんなら腕枕して子守唄でも歌ってやろうか?」
「……うるさい」
「たまには、こうやってダベリながら寝るのも楽しくねえか?」
「全然楽しくない。男のぬくもりなんか……感じたくもない。……地獄だ……地獄……」

 まずい……本格的に眠くなってきた。
 如月に背を向けて、拒否の態度を示してみたものの……俺の抵抗はそこまでで、ズルズルと意識が遠のいていく……。もうどうにでもなれ。

「俺には天国だ」

 そんな如月の声が聞こえたような気がしたが、確認する間もなく、俺は眠りの底へと引きずり込まれた。


 そして翌朝……地獄はまだ続いていた。


 何故俺の目の前に如月がいる? あれから出て行かなかったのか?
 しかも抱き合って……足を絡めあって……これは現実か? まだ寝ぼけているのか? 夢なら一刻も早く覚めてくれ。
 願いを込めて再び目を瞑り、深呼吸をしてから、ゆっくりと目を開けてみた。

 しかし現実は変わらなかった。

 スウスウと気持ちよさげに、俺と同じベッドで如月が眠っている。意外と睫毛が長いんだな……って、そんなこと今はどうでもいい。

 まずは地獄からの脱出だ。
 起こすと面倒そうなので、足を抜いて肩に回された腕をそっとどけてみる。いまのところ起きる気配はない。これはイケる。
 そのまま上半身を静かに起こそうとしたところで、

「……まだ寝てろよ」

 如月に腕を取られて、またベッドへ引きずりこまれた。

「……起きていたのか」
「いや……寝てたさ。まだ起きるにはだいぶ早いだろう? もう少し寝てようぜ」

 押さえつけるように、背中から大きな身体に抱きこまれてしまった。
 こいつ寝ぼけているのか? 俺を親衛隊か何かと勘違いしてないか?
 抱き枕扱いされて腹が立つが、無防備なやつ相手に、いきなり反撃するのも躊躇してしまう。

「……おい離せ。こんな体勢で寝てられるか」
「いい匂いだなあ」
「人の話を聞け。おまえまだ寝ぼけてるだろ? 試しに俺の名前を言ってみろ」
「藤堂玲一」

 即答か。
 分かっているなら、なぜ首筋の匂いを嗅いでくる?

 しかも、先程から尻のあたりに硬いものが当たってきて、非常にバツが悪いのだが……。

 こいつ……、わざと押し付けてきてないか?
 それとも俺が敏感に反応しすぎなのか?
 
 前者であれば、いますぐ息の根を止めてやる。
 後者であれば、朝勃ちは生理現象だしな……気づかぬ振りをしてやるのが武士の情けというものだろう。

「おまえの匂い嗅いでたら、たまらなく犯りたくなってきた。今から一緒に抜かないか藤堂? 気持ちよくスッキリさせてやるぜ?」

 ……よし。こいつの息の根をいますぐ止めよう。

 俺はためらうことなく、会心の肘鉄を奴のみぞおちにくらわせたのだった。
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