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風紀委員長様は逃げ役を頑張る(鬼ごっこ編)
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このままでは、あっという間に袋のネズミだ。
植え込みを飛び越え、一目散に弓道場を後にする。
流れる景色の中、ピンクがチラついては後方へと消えていった。
(今日からピンクが嫌いになりそうだっ!)
木立の合間を突っ切り、少し下り坂のランニングコースを駆け降りる。途中ひとりの鬼が道の真ん中で突っ立っていたが、足を止めず軽く会釈し、シレッとランナー顔してすれ違ってみた。鬼は不思議そうな顔をしながらも、会釈までして追ってもこなかった。
……意外とイケるもんだな。
(あと五分)
ゲーム終盤になると、鬼も逃げ役もだいぶ疲労し動きが鈍くなってくる。
広すぎる敷地の捜索に精も根も尽きはて、屍と化して芝生で寝ている鬼までもいた。
「いた! 玲一ぃー! やあーっと見つけたぁーっ!」
しかし、当てはまらない奴もいる。
耳をつんざく大声とともに、例の転校生が姿を現した。
名前は確か……えー……なんだったか。その後ろには取り巻きの……あー……、一匹狼君と爽やか君もいた。
「あれ? 逃げないんですね。藤堂先輩」
「三人相手にビビってんだろ」
続けざまに、爽やか君と一匹狼君が口を開いた。
若葉をバックに爽やか君の歯は白くキラめき、不遜な態度の一匹狼君は、両手ポケットの余裕っぷりだ。
……いまさら名前をたずねる雰囲気ではなさそうだ。
俺にだって空気は読める。
「純太。今度は僕たちふたりだけで先輩を押さえるよ。それまで下がってて。キミはタッチだけすればいいから」
「なんで! 俺一人でもやれるのにっ!」
「さっき会長んとき、転んで怪我しそうになったじゃねえか。それにおまえの手が俺たちに触れるとセンサーが反応しちまう。周りでウロつかれるとこっちも集中できねえんだ。俺たちだけに任せとけ」
「ごめんね純太。でも会長かこの人を捕まえれば純太がヒーローになれるよ。今度は三人で協力すればできるさ」
「……俺がヒーロー?」
「うん。純太にふさわしいね。僕たちが叶えてあげる」
小柄な転校生をかばうように、二人が前へ出てきた。
ここでもラスボス扱いされている。非常に心外だ。
「藤堂先輩。鬼役と逃げ役が協力したからってルール違反にはなりませんよね? これも作戦で、可愛い純太の為です。悪く思わないでください」
「……ルールか。そもそも誰のためのルールだ。主役はあくまでも新入生で、俺たち在校生は主催者側の人間だ。新入生全員に対して公平にもてなすのが暗黙のルールだろうに。察しが悪すぎるだろう。天然か?」
「……」
「やめろ玲一! ふたりは悪くない! こいつらは親友の俺のためにっ…
”ピンポンパンポン”
”残り三分を切りました”
…じゃないかっ! だからっ…
”運動の後は美味しい昼食が待っております。本日のおすすめは、シェフのこだわりカツカレー定食です。お肉マシマシで杏仁豆腐も付いちゃいます。ぜひどうぞ”
…なんだろ! おまえも素直になれ!」
転校生が割り込んできたところに、さらに放送委員長がかぶせてきた。
アイツも、たまには良い仕事をする。
とぎれる転校生の熱弁を聞き洩らすまいと、爽やか君の意識は、完全に耳へと集中していた。
俺は彼との間合いを一気に詰め、前のめりで熱弁をふるってた転校生へと、その身体を勢いよく押し出した。
避ける間もなく、爽やか君は転校生へと倒れ掛かり、慌てた転校生が咄嗟にその背中を支えにいく。
「――くッ!」
「わあああ! ……ぐぇっ」
しかし結局、ふたりはドミノのように無様に倒れた。転校生は下敷きとなり、爽やか君のベストのランプは赤く点滅しだした。鬼に確保された証(あかし)だ。確保情報は即刻本部へと送信される。
「捕まったら退場だ。ルールは守れよ、爽やか君」
転校生が起きあがる前に、残るひとりと向き合う。挟撃される前に一対一へと持ち込み、接近戦で叩くのが一番手っ取り早い。
「よくも純太を! ぶっ殺す!」
「やってみろよ」
挑発に乗った一匹狼君の拳をかわし、その脇をすり抜けると、俺は猛スピードでその場を後にした。チャンス到来。
「はあ? ま、待てっ! 逃げんな勝負しろ!」
嫌だ断る。喧嘩を手加減するのは面倒くさい。
クールが売りの一匹狼君が、慌てふためき背中へと叫んできたが、俺は一切振り返らなかった。
逃げ役が逃げて何が悪い。おまえも俺と同じ役だろうが。仕事しろ。
”十秒前――!”
”さん、にぃ、いち……”
”終了でーす! お疲れさまでした――ッ!”
よし!
昼のデザートは杏仁豆腐だ!
植え込みを飛び越え、一目散に弓道場を後にする。
流れる景色の中、ピンクがチラついては後方へと消えていった。
(今日からピンクが嫌いになりそうだっ!)
木立の合間を突っ切り、少し下り坂のランニングコースを駆け降りる。途中ひとりの鬼が道の真ん中で突っ立っていたが、足を止めず軽く会釈し、シレッとランナー顔してすれ違ってみた。鬼は不思議そうな顔をしながらも、会釈までして追ってもこなかった。
……意外とイケるもんだな。
(あと五分)
ゲーム終盤になると、鬼も逃げ役もだいぶ疲労し動きが鈍くなってくる。
広すぎる敷地の捜索に精も根も尽きはて、屍と化して芝生で寝ている鬼までもいた。
「いた! 玲一ぃー! やあーっと見つけたぁーっ!」
しかし、当てはまらない奴もいる。
耳をつんざく大声とともに、例の転校生が姿を現した。
名前は確か……えー……なんだったか。その後ろには取り巻きの……あー……、一匹狼君と爽やか君もいた。
「あれ? 逃げないんですね。藤堂先輩」
「三人相手にビビってんだろ」
続けざまに、爽やか君と一匹狼君が口を開いた。
若葉をバックに爽やか君の歯は白くキラめき、不遜な態度の一匹狼君は、両手ポケットの余裕っぷりだ。
……いまさら名前をたずねる雰囲気ではなさそうだ。
俺にだって空気は読める。
「純太。今度は僕たちふたりだけで先輩を押さえるよ。それまで下がってて。キミはタッチだけすればいいから」
「なんで! 俺一人でもやれるのにっ!」
「さっき会長んとき、転んで怪我しそうになったじゃねえか。それにおまえの手が俺たちに触れるとセンサーが反応しちまう。周りでウロつかれるとこっちも集中できねえんだ。俺たちだけに任せとけ」
「ごめんね純太。でも会長かこの人を捕まえれば純太がヒーローになれるよ。今度は三人で協力すればできるさ」
「……俺がヒーロー?」
「うん。純太にふさわしいね。僕たちが叶えてあげる」
小柄な転校生をかばうように、二人が前へ出てきた。
ここでもラスボス扱いされている。非常に心外だ。
「藤堂先輩。鬼役と逃げ役が協力したからってルール違反にはなりませんよね? これも作戦で、可愛い純太の為です。悪く思わないでください」
「……ルールか。そもそも誰のためのルールだ。主役はあくまでも新入生で、俺たち在校生は主催者側の人間だ。新入生全員に対して公平にもてなすのが暗黙のルールだろうに。察しが悪すぎるだろう。天然か?」
「……」
「やめろ玲一! ふたりは悪くない! こいつらは親友の俺のためにっ…
”ピンポンパンポン”
”残り三分を切りました”
…じゃないかっ! だからっ…
”運動の後は美味しい昼食が待っております。本日のおすすめは、シェフのこだわりカツカレー定食です。お肉マシマシで杏仁豆腐も付いちゃいます。ぜひどうぞ”
…なんだろ! おまえも素直になれ!」
転校生が割り込んできたところに、さらに放送委員長がかぶせてきた。
アイツも、たまには良い仕事をする。
とぎれる転校生の熱弁を聞き洩らすまいと、爽やか君の意識は、完全に耳へと集中していた。
俺は彼との間合いを一気に詰め、前のめりで熱弁をふるってた転校生へと、その身体を勢いよく押し出した。
避ける間もなく、爽やか君は転校生へと倒れ掛かり、慌てた転校生が咄嗟にその背中を支えにいく。
「――くッ!」
「わあああ! ……ぐぇっ」
しかし結局、ふたりはドミノのように無様に倒れた。転校生は下敷きとなり、爽やか君のベストのランプは赤く点滅しだした。鬼に確保された証(あかし)だ。確保情報は即刻本部へと送信される。
「捕まったら退場だ。ルールは守れよ、爽やか君」
転校生が起きあがる前に、残るひとりと向き合う。挟撃される前に一対一へと持ち込み、接近戦で叩くのが一番手っ取り早い。
「よくも純太を! ぶっ殺す!」
「やってみろよ」
挑発に乗った一匹狼君の拳をかわし、その脇をすり抜けると、俺は猛スピードでその場を後にした。チャンス到来。
「はあ? ま、待てっ! 逃げんな勝負しろ!」
嫌だ断る。喧嘩を手加減するのは面倒くさい。
クールが売りの一匹狼君が、慌てふためき背中へと叫んできたが、俺は一切振り返らなかった。
逃げ役が逃げて何が悪い。おまえも俺と同じ役だろうが。仕事しろ。
”十秒前――!”
”さん、にぃ、いち……”
”終了でーす! お疲れさまでした――ッ!”
よし!
昼のデザートは杏仁豆腐だ!
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