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風紀委員長様はのんびり眺める(罰ゲーム編)
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午後からは、大講堂にて閉会式の予定だ。
生徒たちはホコリにまみれた運動着を脱ぎ、きちんと学生服で参加する。
閉会式は二部構成となっており、まずは新入生のみが集合する。教師からはねぎらいの言葉が送られ、新入生全員へは学園からの参加賞が配られる。
ここまではとても穏やかに進行する。毎年そうだ。
理事長の長いスピーチで、昼食で腹が膨れた生徒たちは居眠りしては注意され、教師から配られた渋い参加賞(校歌が刻まれた湯飲み)にブーイングしながらも、笑ってお互いの健闘を称えあう。実にのどかな風景だ。
そう。ここまではいいのだ。ここまでは。
短い第一部が終わると、教師と入れ替わるようにして放送委員長が登場し、執行部主導の第二部が幕を開ける。ここからが問題なのだ。
まず大講堂には、午前の中継を見ていた大勢の在校生たちが、やじ馬と化してなだれ込んでくる。
放送委員はマイクという名の手綱(たづな)を握って席へと誘導し、エサを前に大興奮の馬たちをひとまず落ち着かせる。
そこで、生徒会役員(エサ)の登場だ。
こちらも午前のラフな運動着から一新し、カッチリとした学生服に着替えている。他の役員や人気者たちも、講堂の最前列の席に次々と呼びこまれ、親衛隊たちの黄色い悲鳴やら野太い歓声やらで、会場は異様な熱気に包まれた。
そういったわけで、俺も今、最前列の中央席へと案内されていた。
そこにはすでに足を組んだ如月が陣取っていて、塚崎たち生徒会面々も、その向こうに並んで座っている。
もう少し端の席が良かったが、駄々を捏ねるような事柄でもないので、俺は素直に如月の横へと腰掛けた。
続いて瑞貴が来たものの、如月たちに目をやると、あからさまに眉を寄せた。
「……委員長、もう少し落ち着ける席をご用意できますが?」
「いや、面倒だからこのままでいい」
「……分かりました」
ちっとも分かりたくない表情で、瑞貴が着席した。
このお祭り騒ぎさえ無事に終われば、とりあえず一息つける。隣の如月も同様だろう。
今年は、ゲーム中にほとんど違反行為や喧嘩沙汰が無かった。あまりの平穏ぶりに、取り締まる側の風紀委員らの方が、いささか暴れ足りないと不平を漏らしていた程だ。いやそれが普通なんだぞ? この学園の日常が異常なんだからな?
そんな学園の異常っぷりを、俺はこの第二部で痛感することになる。
(……逃げ切れて良かった……切実に)
ステージ上には、今年も当たり前のように女装を強要され、大歓声の中、羞恥と屈辱にワナワナと震えている副会長がいた。
ミニスカのふわふわメイド服に、頭にはピンクのウサ耳を装着され、「萌え萌えドッキューン」と会場に向かって手でハートマークを作れと、放送委員長に無茶ぶりされている。それを広報委員が、あらゆる角度から次々とカメラにおさめていた。きっと写真は飛ぶように売れるだろう。
(……塚崎、強く生きろよ)
「おらぁ伊織ーッ! 指先まで気合い入れろ! そんなんじゃ、ナンバーワンにはなれねえぞ!」
「笑顔が足りませんよー! あんたの唯一の取り柄でしょうがー!」
如月も瑞貴も心底楽しそうだ。
犬猿の仲であるはずの両隣が、タッグを組んでトドメを刺しにいっている。
メイド副会長の後ろには、すでに様々な罰ゲームを執行された在校生たちが、屍のように燃え尽きていた。その横には、彼らを地獄へと導いた装置がある。
今年の罰ゲームの中身は、すべてこの装置に託されていた。仕組みは極めてシンプルなものだ。円型の大きな回転式ダーツの的に、執行部が考えた罰ゲームが並べられ、勝者が矢を投げ、刺さった罰が執行される。
回転式ダーツで決めるという、よくある選定方法だが、会場は凄まじい熱気で充満し、近年にない盛り上がりをみせていた。
放送委員長と広報委員長が総力を挙げて考案した「ときめき☆お仕置きマシーン」が、生徒たちの心を鷲づかみにしたのである。
罰の内容は、ゲームに参加する役員らに事前通達済みで、俺にも回ってきていた。
絶妙に読みづらい細かな字で、大量の罰ゲームが箇条書きされており、無理なものにはレ点をして理由を書け、レ点がないものは承諾とみなす……といった内容だった。「自分はどうせ逃げ切れる」「他者がなれば面白い」「目を通すのが面倒だ」「祭りは何でもあり」「執行部を信用して任せる」と、各々なりの理由で適当にサインをした結果、それが現在、刃付きのブーメランとなって敗者に襲い掛かっている。
勝者には、その罰ゲームリストが昼休み前から渡されていた。リストの中から、やってもらいたい項目を十個選んで、ダーツに貼れるのだ。
例えば塚崎の時は、「ツインテールのヘソ出しチアガールが上目遣いでペタン座り」「猫耳カチューシャ娘が、語尾に”にゃ”をつけての主従プレイ」……など、十個すべてがコスプレネタで埋め尽くされていた。
塚崎を捕まえた鬼には、場内から惜しみない拍手が送られた。
……いや、なんの拍手だ?
あのチャラ会計や双子までもが、見るからにグッタリしている。
確かに直視できない罰ゲームだった。
ちなみに会計は、二人羽織でハチミツをかけたバナナを食わされていた。
鼻息の荒い筋肉だるまに背中から抱きしめられ、口に手を突っ込まれたり、うなじを舐められたり、散々お触りをされたらしい。
布で隠された犯行が多く、風紀の俺にも為す術がなかった。すまん会計。安らかに眠ってくれ。
何はともあれ、無事に一山超えることができた。
……明日は父さんが来るのか。
そういえば、まだ瑞貴に言ってなかったな。
こんなにハシャいでいるのに、横から水を差すのは可哀想だ。終わったら話すことにしよう。
生徒たちはホコリにまみれた運動着を脱ぎ、きちんと学生服で参加する。
閉会式は二部構成となっており、まずは新入生のみが集合する。教師からはねぎらいの言葉が送られ、新入生全員へは学園からの参加賞が配られる。
ここまではとても穏やかに進行する。毎年そうだ。
理事長の長いスピーチで、昼食で腹が膨れた生徒たちは居眠りしては注意され、教師から配られた渋い参加賞(校歌が刻まれた湯飲み)にブーイングしながらも、笑ってお互いの健闘を称えあう。実にのどかな風景だ。
そう。ここまではいいのだ。ここまでは。
短い第一部が終わると、教師と入れ替わるようにして放送委員長が登場し、執行部主導の第二部が幕を開ける。ここからが問題なのだ。
まず大講堂には、午前の中継を見ていた大勢の在校生たちが、やじ馬と化してなだれ込んでくる。
放送委員はマイクという名の手綱(たづな)を握って席へと誘導し、エサを前に大興奮の馬たちをひとまず落ち着かせる。
そこで、生徒会役員(エサ)の登場だ。
こちらも午前のラフな運動着から一新し、カッチリとした学生服に着替えている。他の役員や人気者たちも、講堂の最前列の席に次々と呼びこまれ、親衛隊たちの黄色い悲鳴やら野太い歓声やらで、会場は異様な熱気に包まれた。
そういったわけで、俺も今、最前列の中央席へと案内されていた。
そこにはすでに足を組んだ如月が陣取っていて、塚崎たち生徒会面々も、その向こうに並んで座っている。
もう少し端の席が良かったが、駄々を捏ねるような事柄でもないので、俺は素直に如月の横へと腰掛けた。
続いて瑞貴が来たものの、如月たちに目をやると、あからさまに眉を寄せた。
「……委員長、もう少し落ち着ける席をご用意できますが?」
「いや、面倒だからこのままでいい」
「……分かりました」
ちっとも分かりたくない表情で、瑞貴が着席した。
このお祭り騒ぎさえ無事に終われば、とりあえず一息つける。隣の如月も同様だろう。
今年は、ゲーム中にほとんど違反行為や喧嘩沙汰が無かった。あまりの平穏ぶりに、取り締まる側の風紀委員らの方が、いささか暴れ足りないと不平を漏らしていた程だ。いやそれが普通なんだぞ? この学園の日常が異常なんだからな?
そんな学園の異常っぷりを、俺はこの第二部で痛感することになる。
(……逃げ切れて良かった……切実に)
ステージ上には、今年も当たり前のように女装を強要され、大歓声の中、羞恥と屈辱にワナワナと震えている副会長がいた。
ミニスカのふわふわメイド服に、頭にはピンクのウサ耳を装着され、「萌え萌えドッキューン」と会場に向かって手でハートマークを作れと、放送委員長に無茶ぶりされている。それを広報委員が、あらゆる角度から次々とカメラにおさめていた。きっと写真は飛ぶように売れるだろう。
(……塚崎、強く生きろよ)
「おらぁ伊織ーッ! 指先まで気合い入れろ! そんなんじゃ、ナンバーワンにはなれねえぞ!」
「笑顔が足りませんよー! あんたの唯一の取り柄でしょうがー!」
如月も瑞貴も心底楽しそうだ。
犬猿の仲であるはずの両隣が、タッグを組んでトドメを刺しにいっている。
メイド副会長の後ろには、すでに様々な罰ゲームを執行された在校生たちが、屍のように燃え尽きていた。その横には、彼らを地獄へと導いた装置がある。
今年の罰ゲームの中身は、すべてこの装置に託されていた。仕組みは極めてシンプルなものだ。円型の大きな回転式ダーツの的に、執行部が考えた罰ゲームが並べられ、勝者が矢を投げ、刺さった罰が執行される。
回転式ダーツで決めるという、よくある選定方法だが、会場は凄まじい熱気で充満し、近年にない盛り上がりをみせていた。
放送委員長と広報委員長が総力を挙げて考案した「ときめき☆お仕置きマシーン」が、生徒たちの心を鷲づかみにしたのである。
罰の内容は、ゲームに参加する役員らに事前通達済みで、俺にも回ってきていた。
絶妙に読みづらい細かな字で、大量の罰ゲームが箇条書きされており、無理なものにはレ点をして理由を書け、レ点がないものは承諾とみなす……といった内容だった。「自分はどうせ逃げ切れる」「他者がなれば面白い」「目を通すのが面倒だ」「祭りは何でもあり」「執行部を信用して任せる」と、各々なりの理由で適当にサインをした結果、それが現在、刃付きのブーメランとなって敗者に襲い掛かっている。
勝者には、その罰ゲームリストが昼休み前から渡されていた。リストの中から、やってもらいたい項目を十個選んで、ダーツに貼れるのだ。
例えば塚崎の時は、「ツインテールのヘソ出しチアガールが上目遣いでペタン座り」「猫耳カチューシャ娘が、語尾に”にゃ”をつけての主従プレイ」……など、十個すべてがコスプレネタで埋め尽くされていた。
塚崎を捕まえた鬼には、場内から惜しみない拍手が送られた。
……いや、なんの拍手だ?
あのチャラ会計や双子までもが、見るからにグッタリしている。
確かに直視できない罰ゲームだった。
ちなみに会計は、二人羽織でハチミツをかけたバナナを食わされていた。
鼻息の荒い筋肉だるまに背中から抱きしめられ、口に手を突っ込まれたり、うなじを舐められたり、散々お触りをされたらしい。
布で隠された犯行が多く、風紀の俺にも為す術がなかった。すまん会計。安らかに眠ってくれ。
何はともあれ、無事に一山超えることができた。
……明日は父さんが来るのか。
そういえば、まだ瑞貴に言ってなかったな。
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