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扉の外で雑談は続く(別視点)
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「アシュラウル殿下は大丈夫っすかね? 大事な剣も置いてっちまって」
戸口に無造作に立てかけてある【聖剣アルテビアン】。
遥か昔に絶滅したとされる伝説の神獣――【古代竜】の鱗からできているという、ログーザ王家に代々継承されてきた権威の象徴であり、アシュラウル王子が幼い頃から片時も離さず傍に置いてきた愛剣でもある。
その大事な国の至宝が、まさかこんな質素な小屋の軒先に主人から離され放置されていると知れば、神殿のお偉方どもは烈火のごとく怒り狂うに違いない。
彼らの古代竜への信仰心は、下手すれば王家への忠誠心よりもあつく、神界にいる古代竜からのお告げと称して、王に妄言してくる神官まで出てきている始末だ。
宮廷での火種になることも多く、信心深く気弱な王は日々頭を悩ませているらしい。
そんな渦中の常に中心にある宝剣は、今回、神殿どころか丸太小屋にすら入れさせてもらえなかった。
その横にある鎧も同様の扱いを受け、いまは木の皮で編まれた質素な脱衣カゴの横に、ちんまりと窮屈そうに収まっている。
胴体・肩・上腕に沿った形で板金を湾曲させた漆黒の鎧には、王室御用達の彫金師により、優美で芸術的な凹凸の文様が細かく施されている。留め金ひとつとってみても相当の値が付く王族ならではの代物だ。
「あの美人さんが殿下に籠を差し出してきたときは、卒倒するかと思ったっす。俺は神語はカタコトレベルですが、あの殿下が言われるがままに武装を解いた上に、すっげえ優しい口調で美人さんの様子を伺いながら語りかけてましたよねぇ。普段のあの冷徹な氷結ドS王子っぷりは何処にいったんすか?」
「……それは俺も驚いた」
幼馴染の俺ですら聞いたことのない、愛しさを含んだような甘ったるい声だった。
「この森に入ってから、ありえないことが多すぎて脳みそパンパンっす。そこの木に赤くなってるのはキヌの実っすか? 持ち帰って売ったら一生暮らせる金が手に入るんでしょうねぇ。あの岩場でキラキラ青く光ってるのもなんかの宝石じゃないっすかね?」
「……」
「俺はねぇ……団長。出来ればいますぐ尻尾巻いてここから逃げ出したい気分すよ。なんというか、この丸太小屋周辺は【整いすぎてて】恐ろしいんです。絡め取られるような、清浄でいて重ったるい誰かの想いが強く働いている気がします。俺たち人間風情が踏み荒らしていいところじゃない。【聖域】というのはこんな感じなんすかね? さっきから居るだけでいたたまれなくなってくるんすよ。俺の知る神殿の、近寄りがたい厳かな空気感なんて比較にもなりゃしねぇ。高みにいる誰かにずっと試され続けてる気がしてならねえんすよ。そういやこの森には【古代竜】が降臨した伝説がありますよね。イタイ神官どもがこの森を研究してあがめる気持ちが初めて理解できましたよ。ここは何がいてもおかしくないところっす」
「……」
「ねえ団長。天罰覚悟で挑むとしたら、団長なら何をお持ち帰りします? 無防備な麗人に、万能の薬、きらびやかな宝石……」
「……」
「俺は断トツにあの美人さん……、ひててててっ!」
「いい加減にその口を閉じて、見張りに集中しろ」
やかましい部下の口をねじりながらも、俺は密かに苦笑いするしかなかった。迷うことなく俺の脳裏にも、あの麗人の面影が浮かんでしまっていたのだから。
確かに俺たちは、いろいろ試されているのかもしれない。
戸口に無造作に立てかけてある【聖剣アルテビアン】。
遥か昔に絶滅したとされる伝説の神獣――【古代竜】の鱗からできているという、ログーザ王家に代々継承されてきた権威の象徴であり、アシュラウル王子が幼い頃から片時も離さず傍に置いてきた愛剣でもある。
その大事な国の至宝が、まさかこんな質素な小屋の軒先に主人から離され放置されていると知れば、神殿のお偉方どもは烈火のごとく怒り狂うに違いない。
彼らの古代竜への信仰心は、下手すれば王家への忠誠心よりもあつく、神界にいる古代竜からのお告げと称して、王に妄言してくる神官まで出てきている始末だ。
宮廷での火種になることも多く、信心深く気弱な王は日々頭を悩ませているらしい。
そんな渦中の常に中心にある宝剣は、今回、神殿どころか丸太小屋にすら入れさせてもらえなかった。
その横にある鎧も同様の扱いを受け、いまは木の皮で編まれた質素な脱衣カゴの横に、ちんまりと窮屈そうに収まっている。
胴体・肩・上腕に沿った形で板金を湾曲させた漆黒の鎧には、王室御用達の彫金師により、優美で芸術的な凹凸の文様が細かく施されている。留め金ひとつとってみても相当の値が付く王族ならではの代物だ。
「あの美人さんが殿下に籠を差し出してきたときは、卒倒するかと思ったっす。俺は神語はカタコトレベルですが、あの殿下が言われるがままに武装を解いた上に、すっげえ優しい口調で美人さんの様子を伺いながら語りかけてましたよねぇ。普段のあの冷徹な氷結ドS王子っぷりは何処にいったんすか?」
「……それは俺も驚いた」
幼馴染の俺ですら聞いたことのない、愛しさを含んだような甘ったるい声だった。
「この森に入ってから、ありえないことが多すぎて脳みそパンパンっす。そこの木に赤くなってるのはキヌの実っすか? 持ち帰って売ったら一生暮らせる金が手に入るんでしょうねぇ。あの岩場でキラキラ青く光ってるのもなんかの宝石じゃないっすかね?」
「……」
「俺はねぇ……団長。出来ればいますぐ尻尾巻いてここから逃げ出したい気分すよ。なんというか、この丸太小屋周辺は【整いすぎてて】恐ろしいんです。絡め取られるような、清浄でいて重ったるい誰かの想いが強く働いている気がします。俺たち人間風情が踏み荒らしていいところじゃない。【聖域】というのはこんな感じなんすかね? さっきから居るだけでいたたまれなくなってくるんすよ。俺の知る神殿の、近寄りがたい厳かな空気感なんて比較にもなりゃしねぇ。高みにいる誰かにずっと試され続けてる気がしてならねえんすよ。そういやこの森には【古代竜】が降臨した伝説がありますよね。イタイ神官どもがこの森を研究してあがめる気持ちが初めて理解できましたよ。ここは何がいてもおかしくないところっす」
「……」
「ねえ団長。天罰覚悟で挑むとしたら、団長なら何をお持ち帰りします? 無防備な麗人に、万能の薬、きらびやかな宝石……」
「……」
「俺は断トツにあの美人さん……、ひててててっ!」
「いい加減にその口を閉じて、見張りに集中しろ」
やかましい部下の口をねじりながらも、俺は密かに苦笑いするしかなかった。迷うことなく俺の脳裏にも、あの麗人の面影が浮かんでしまっていたのだから。
確かに俺たちは、いろいろ試されているのかもしれない。
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