人間さんと暮らしてみましたが、ちっとも馴染めません。

白光猫(しろみつにゃん)

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はじめの一歩

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『今回のことは、私が率先してやったことなので、どうか気にしないでください。それに……、いまの私は、イレーヌにお詫びしないといけない立場なのです』
『アーシュが私に……、ですか?』
『はい』

 逆ではなく?

『実は……、私が不甲斐ないばかりに、先程あなたの魂に、ある【枷(かせ)】を嵌めてしまったのです』
『枷?』
『先程、器の話をしましたよね? 器が大きい人間は、神素を魔力という力に変えて、別種族を魔法陣で召喚することができます。そして召喚してすぐに、その種族から神素を受けとることで、ある契約を成立させてしまうのです』
『……』
『我々人間は、その契約した種族を【使役獣】と呼んでいます。あまり良くない言葉なのですが……、【使役】というのは、【ある行為を他のものに行わせること】を意味します。つまり、人間が力を欲しているときに、その使役獣を呼び出して命令し、代わりに作業をさせたり、協力させたりすることが出来るのです。この契約は、その人間が死ぬか、人間側の意思でしか解除することは出来ません。一方的な契約なのです』
『……』
『ここまでご理解いただけましたか?』
『いいえ、さっぱり』
『……そうですよね。私が焦るばかりに、一度にたくさん説明し過ぎてしまいました。この件は、イレーヌがもう少し人間社会のことを学んでから、改めてご説明させていただきます。私の命にかけて、あなたには決して悪いようにはしません。お約束します』
『はい、よろしくお願いします。ただ、命は大切にしないと駄目です』
『ふふ、わかりました。そもそも、膝枕をされながらする話ではなかったです』

 アーシュは微笑み、話はこれでおしまいとばかりに、軽快に上半身を起こしました。

『体調はもう平気なのですか?』
『すこぶる良好です。これもイレーヌのおかげですね。ありがとうございます』

 彼はそのまま立ち上がると、座っている私に向かって両手を差し出してきました。確かに血色もよく、スッキリとした表情に嘘はないようです。黙って手を重ねれば、力強く引っぱり起こされ、パタパタと土まで払ってくれました。
 以前もこうして埃(ほこり)を払ってくれましたよね? アーシュはやはり優しい方です。

『だいぶ服が汚れてしまいましたね。それに素足だったとは。一刻も早く宮殿へ向かいましょう。まずは湯あみをして、ゆっくりと休んでいただきたいです』

 そう言うと、彼は突然、膝丈まである黒い外衣を脱ぎだしました。そして間髪入れずに、私の首から下の部分を、スッポリとくるんでしまったのです。
 パリッとした厚みのある生地には、金糸の綺麗な刺繍が施されていて、裏地の肌触りも柔らくて最高……って、そんな場合じゃないんですよっ!

 なぜ私は、両腕で横抱きにされ、軽々と持ち上げられているのです!
 どういうこと?

『素足での移動は無理ですので、このまま宮殿まで参りましょう』
『はあ?』
『あなたは軽いですね。それにとてもいい匂いがする』
『はあああ?』

 アーシュの顔が、とにかく近い近い! 近すぎますっ!

『アーシュ! 私はこんな運ばれ方は嫌です! 自分で歩けます!』
『いけませんイレーヌ。これは【お姫様抱っこ】といって、王子である私が一番得意とする運搬方法なのです。この先、頻繁に使用しますので、いまから慣れていただかないと困ります。人間社会には独特な行動様式があります。まずはそこから学んでいきましょう。大丈夫、なにごとも実践あるのみです』
『……』
『両腕を私の首に回していただければ完璧なのですが、それはまた今度、じっくりと練習しましょうね?』

 ……アーシュ先生。早くも私の心はくじけそうです。
 いますぐ森へ帰っても構いませんか?
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