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練習
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『頭を私の肩に寄りかからせてください。そうそう、とてもお上手です』
『……それはどうも』
褒められても全然嬉しくないのは、どうしてでしょうか。
『ここからアーシュの家まで、どう行くのですか?』
『もう少し歩いたところに、移動専門の魔法陣があります。そこから宮殿まで一気に転移できます』
『へえ~、魔法陣というのは、とても便利なものなのですね』
『そうですね。ログーザの主要箇所にはいくつか配置されていますので、神素を操れる人間にとっては、なくてはならない移動手段です。時間を短縮出来るので重宝しています』
そんな凄いものを、これから体験出来るのですね。
期待と緊張に、少し胸がドキドキしてきました。
『魔法陣を使えない人間さんもいるのですか?』
『ほとんどの人間は使えません』
『では、どうやって遠い距離を移動するのです?』
『いろいろと手段はありますが、一番使われているのは【馬車】という乗り物です。イレーヌは【馬】という動物をご存知ですか?』
『馬? 馬さん……ですか? 知らないです』
『ログーザにもたくさんの動物がいます。楽しみにしていてください』
やった――! 森の動物さんみたいに仲良くなれるかな?
あと、たくさんの人間さんとも仲良くなりた……、あっそうだ! 大変っ!
『アーシュ。私は人間さんの言葉を知りませんが、大丈夫でしょうか?』
『問題ないです。あなたの傍には、神語を理解できる人間を、常に配置する予定です。人間の言葉も、これから徐々に学んでいきましょう』
……配置?
それではまるで、人間さんが物(もの)みたい。聞き間違いかな?
そういえば、アーシュの家には、人間さんが何頭暮らしているのでしょう?
大家族なのでしょうか? ウチみたいに神獣も出入りしているのかなあ? 謎だらけです。
『分かりました。でも簡単な挨拶の言葉だけ、少し教えてもらえますか?』
『いいですよ。例えば?』
『人間さんの言葉で、【はじめまして】を覚えたいです』
『ログーザ語だと……「はじめまして」……と発音します。ひと文字ずつゆっくり言いますから、真似してみてください』
よっしゃ、こ――いっ!
「は」
「は」
「じ」
「ぢぇ」
「め」
「め」
「ま」
「ま」
「し」
「ち」
「て」
「て」
「はじめまして」
「はぢぇめぇまちて」
『っ……大変お上手です。完璧な発音です』
『絶対に嘘ですよねっ!』
口元がヒクついて、笑いを耐えるのに必死じゃないですか!
いまさら顔をそらしても無駄ですよ! 至近距離で丸見えでしたから!
『いやその……、あなたがあまりにも愛らしくて、破壊力抜群で……。宮殿のものに会わせるのが心配になってきました。……まずいな、……このままどこかに隔離したくなってきたぞ』
低い声で何をブツブツ言っているのですか?
声が小さくて聞こえません。
『もう! アーシュ! ちゃんと真面目に教えてください!』
『もちろん真剣ですとも。次はどんな言葉がいいですか?』
『えぇ……と、【私の名前はイレーヌです】と言ってみたいです』
『分かりました。一度私が通しで言ってみますね?』
「私の名前はイレーヌです」
……ものの見事にさっぱり聞き取れませんでした。
【イレーヌ】の発音すら、全然違うのですね。これは難しそうです。
『まず、【私】を覚えましょう。ログーザ語では「わたし」と言います。これも一文字ずつ言ってみましょう。いきますよ?』
「わ」
「わ」
「た」
「た」
「し」
「ち」
「わたし」
「わたち」
『……ぐっ……可愛らしくて大変結構です』
『会話に可愛さは求めておりません!』
『そうだ、私の名前も覚えてもらわないと。ログーザ語は、巻き舌すぎると聞き取ってもらえません。神語よりもだいぶハッキリした発音になります。真似してみてください』
「アーシュ」
「あぁちゅ」
「だいすき」
「だぇちゅき」
『ありがとうございます。私もです』
『なぜお礼っ?』
クスクスと肩を震わせながら、さっきからアーシュは何を言っているのですか!
向こうに着いたら、すぐに先生の交換を要求します。
『……それはどうも』
褒められても全然嬉しくないのは、どうしてでしょうか。
『ここからアーシュの家まで、どう行くのですか?』
『もう少し歩いたところに、移動専門の魔法陣があります。そこから宮殿まで一気に転移できます』
『へえ~、魔法陣というのは、とても便利なものなのですね』
『そうですね。ログーザの主要箇所にはいくつか配置されていますので、神素を操れる人間にとっては、なくてはならない移動手段です。時間を短縮出来るので重宝しています』
そんな凄いものを、これから体験出来るのですね。
期待と緊張に、少し胸がドキドキしてきました。
『魔法陣を使えない人間さんもいるのですか?』
『ほとんどの人間は使えません』
『では、どうやって遠い距離を移動するのです?』
『いろいろと手段はありますが、一番使われているのは【馬車】という乗り物です。イレーヌは【馬】という動物をご存知ですか?』
『馬? 馬さん……ですか? 知らないです』
『ログーザにもたくさんの動物がいます。楽しみにしていてください』
やった――! 森の動物さんみたいに仲良くなれるかな?
あと、たくさんの人間さんとも仲良くなりた……、あっそうだ! 大変っ!
『アーシュ。私は人間さんの言葉を知りませんが、大丈夫でしょうか?』
『問題ないです。あなたの傍には、神語を理解できる人間を、常に配置する予定です。人間の言葉も、これから徐々に学んでいきましょう』
……配置?
それではまるで、人間さんが物(もの)みたい。聞き間違いかな?
そういえば、アーシュの家には、人間さんが何頭暮らしているのでしょう?
大家族なのでしょうか? ウチみたいに神獣も出入りしているのかなあ? 謎だらけです。
『分かりました。でも簡単な挨拶の言葉だけ、少し教えてもらえますか?』
『いいですよ。例えば?』
『人間さんの言葉で、【はじめまして】を覚えたいです』
『ログーザ語だと……「はじめまして」……と発音します。ひと文字ずつゆっくり言いますから、真似してみてください』
よっしゃ、こ――いっ!
「は」
「は」
「じ」
「ぢぇ」
「め」
「め」
「ま」
「ま」
「し」
「ち」
「て」
「て」
「はじめまして」
「はぢぇめぇまちて」
『っ……大変お上手です。完璧な発音です』
『絶対に嘘ですよねっ!』
口元がヒクついて、笑いを耐えるのに必死じゃないですか!
いまさら顔をそらしても無駄ですよ! 至近距離で丸見えでしたから!
『いやその……、あなたがあまりにも愛らしくて、破壊力抜群で……。宮殿のものに会わせるのが心配になってきました。……まずいな、……このままどこかに隔離したくなってきたぞ』
低い声で何をブツブツ言っているのですか?
声が小さくて聞こえません。
『もう! アーシュ! ちゃんと真面目に教えてください!』
『もちろん真剣ですとも。次はどんな言葉がいいですか?』
『えぇ……と、【私の名前はイレーヌです】と言ってみたいです』
『分かりました。一度私が通しで言ってみますね?』
「私の名前はイレーヌです」
……ものの見事にさっぱり聞き取れませんでした。
【イレーヌ】の発音すら、全然違うのですね。これは難しそうです。
『まず、【私】を覚えましょう。ログーザ語では「わたし」と言います。これも一文字ずつ言ってみましょう。いきますよ?』
「わ」
「わ」
「た」
「た」
「し」
「ち」
「わたし」
「わたち」
『……ぐっ……可愛らしくて大変結構です』
『会話に可愛さは求めておりません!』
『そうだ、私の名前も覚えてもらわないと。ログーザ語は、巻き舌すぎると聞き取ってもらえません。神語よりもだいぶハッキリした発音になります。真似してみてください』
「アーシュ」
「あぁちゅ」
「だいすき」
「だぇちゅき」
『ありがとうございます。私もです』
『なぜお礼っ?』
クスクスと肩を震わせながら、さっきからアーシュは何を言っているのですか!
向こうに着いたら、すぐに先生の交換を要求します。
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