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初体験
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それから私たちは、【馬車】という箱に乗って、アーシュの巣である【離宮】という建物へと移動しました。
初めての馬(うま)さん! おっきい!
毛並みがツヤッツヤで、尻尾もフッサフサ! 綺麗です!
馬車の中は揺れて危ないとのことで、隣に座ったアーシュが、ずっと腰に手を回してくれていました。肩に頭をもたれさせると、さらに安定すると言われましたが、眠くなりそうなので断りました。ごめんなさい。
離宮は、先程の宮殿ほどではないですが、とても大きな建物でした。アーシュだけの巣だそうです。
建物の見学や細かい説明は後日ということになりました。何もかも初めてづくしな私が、混乱しないように配慮してくれたようです。
途中まで付いてきたレオさんでしたが、いつの間にかいなくなっていました。
明日また会えるそうなので、灰色の毛並みを触るのはその時までお預けです。楽しみは先に取っておきましょう。
『ずっと荒野にいて、髪も服も砂だらけになってしまいましたね。まずは湯あみをして着替えましょうか』
アーシュはそう言うと、部屋まで付いてきたガレノさんに何やら指示しました。小さく頭を下げて、ガレノさんが部屋から出ていきます。やはりアーシュの方が上下関係が高いみたいです。
『【湯あみ】というのは何ですか?』
『え? 身体をお湯に浸けて、汚れを落としたり、温まったりする習慣のことですが……ご存じありませんか?』
『お湯に浸かる? 身体を煮るのですか? 泉で水浴びはよくしますが……酷く汚れたときは、父様に言えば服ごと綺麗にしてもらえました』
『……それは【浄化魔法】のことでしょうか?』
『よくわかりません。父様が指を鳴らせばおしまいでしたから』
『無詠唱ですか……やはり格が違いますね』
アーシュが苦笑しました。
え? あんな指パッチンが、そんなに凄いことなのですか?
『私もできますけど』
『……は?』
『最近習ったばかりなので、失敗したらすみません』
微量の神素を周囲に放出して、右手でパッチン!
森の外だったので少し不安でしたが、無事にかかったようです。神素が霧散したと同時に砂埃は消滅し、我々の髪の毛も肌もサラッサラになりました。
大成功です。やったぁ!
部屋の掃除も、これくらい手際よくやりたいものです。
一度パッチンして小屋ごと燃やしてしまってから、みんなに禁じられてしまいました。大爆笑した父様が元に戻してくれましたが、あれは心の底から反省しています。
そういえば、今の指パッチンで、アーシュが焦げなくて良かったです。
少し危なかったことは、内緒にしておきましょう。世の中には知らなくても良いことがたくさんあります。
『……驚きました。イレーヌも魔術が使えるのですか』
『魔術? これが魔術なのですか? 加減もわからず失敗の連続なので、ほとんど使っていなくて……ああっ! そうだ【湯あみ】が! アーシュ! 湯あみはもう無理ですか? 私ったら調子に乗って余計なことを!』
人間さんの習慣を体験したかったのに!
せっかくの機会を、自分で潰してしまうだなんてっ! ありえない!
『……湯あみ、してみます?』
『はい! まだ可能ならばぜひっ!』
『そんなに目を輝かせて……、あなたは本当に可愛らしい方ですね』
よほど必死すぎたのか、クスクスと笑われてしまいました。
『アーシュも一緒に入りますよね?』
『……え?』
『……は?』
『い……、一緒にですか? それはその……私はもちろん構いませんが、イレーヌは平気なのですか? その……湯あみというのは、服を全部脱いで、裸で湯に浸かるのですよ?』
『裸に何か問題でも?』
『……』
『……どうしました?』
『いえ……そうハッキリ言われると、男としてはかなり複雑な気分です』
みるからに気落ちした様子で、アーシュが深い溜息をつきました。
え? いま何か、おかしなことを言いましたか?
その後すぐに私たちは、【脱衣所】という場所へ移動しました。
そこにも何頭かの人間さんたちが頭を下げていましたが、アーシュが声をかけると誰もいなくなってしまいました。
『あの人間さんたちは、一緒に入らないのですか?』
『彼らは、私が湯あみをするときに、いつも世話してくれる者たちです。今回はあなたがいるため下がらせました。人間は親しい者の前でしか裸を見せないのです。もしまたイレーヌが湯あみをしたくなったときは、必ず私に声をかけてください。慣れるまでは一緒に入らないと危ないですから』
『裸は、アーシュの前でだけ?』
『そういうことです』
『レオさんやガレノさんの前では?』
『……絶対にだめです』
『わかりました。皆様に失礼のないようにします』
いつか人間さんたちと【湯あみ】をしてみたいですが、それにはまず言葉を覚えて、仲良くならないといけませんね。
私に出来るでしょうか……ちょっぴり不安です。
『ここでまず服を脱ぎます。脱いだ服はその箱の中に入れてください。畳まなくとも大丈夫です。自分で脱げますか?』
『はい。もちろん』
服を脱ぎだしたアーシュに習って、私も服を脱ぐことにします。
……とは言っても、寝間着だけですから、あっという間にスッポンポンです。服は無意識に軽く畳んでしまいましたが、まあ大丈夫ですよね?
アーシュはどうかな? おや? まだ上着しか脱いでいませんね。
何故こちらを凝視したまま、固まっているのでしょう?
小首をかしげて上目遣いで覗き込めば、ギクシャクと視線をそらされました。
耳が赤く見えるのですが、もしやアーシュも湯あみが楽しみで、興奮しているのかもしれません。ますます楽しみです。
素早く裸になったアーシュは、体型が父様に似ていました。
無駄のない引き締まった筋肉が全身を覆っています。雄らしく強そうに見えて、実に羨ましいです。
『イレーヌの髪は長いですから、濡れないようにあげておきましょうか』
『あっ、自分でやります』
髪を適当に後ろでくるくるっとまとめて、アーシュが差し出してくれた留め具で挟みこみました。白い花飾りがたくさんついた造りで、雄の私に似合いそうもないですが、お借りしている立場なので不満は喉元で飲み込みます。
『これでいいですか?』
ほつれ毛が無いか、うなじに手をやりながら振り返ると、アーシュの熱っぽい眼差しと目が合いました。
私が失敗しないか真剣に見守ってくれていたようです。
でも髪をあげるくらい自分でできますよ?
初めての馬(うま)さん! おっきい!
毛並みがツヤッツヤで、尻尾もフッサフサ! 綺麗です!
馬車の中は揺れて危ないとのことで、隣に座ったアーシュが、ずっと腰に手を回してくれていました。肩に頭をもたれさせると、さらに安定すると言われましたが、眠くなりそうなので断りました。ごめんなさい。
離宮は、先程の宮殿ほどではないですが、とても大きな建物でした。アーシュだけの巣だそうです。
建物の見学や細かい説明は後日ということになりました。何もかも初めてづくしな私が、混乱しないように配慮してくれたようです。
途中まで付いてきたレオさんでしたが、いつの間にかいなくなっていました。
明日また会えるそうなので、灰色の毛並みを触るのはその時までお預けです。楽しみは先に取っておきましょう。
『ずっと荒野にいて、髪も服も砂だらけになってしまいましたね。まずは湯あみをして着替えましょうか』
アーシュはそう言うと、部屋まで付いてきたガレノさんに何やら指示しました。小さく頭を下げて、ガレノさんが部屋から出ていきます。やはりアーシュの方が上下関係が高いみたいです。
『【湯あみ】というのは何ですか?』
『え? 身体をお湯に浸けて、汚れを落としたり、温まったりする習慣のことですが……ご存じありませんか?』
『お湯に浸かる? 身体を煮るのですか? 泉で水浴びはよくしますが……酷く汚れたときは、父様に言えば服ごと綺麗にしてもらえました』
『……それは【浄化魔法】のことでしょうか?』
『よくわかりません。父様が指を鳴らせばおしまいでしたから』
『無詠唱ですか……やはり格が違いますね』
アーシュが苦笑しました。
え? あんな指パッチンが、そんなに凄いことなのですか?
『私もできますけど』
『……は?』
『最近習ったばかりなので、失敗したらすみません』
微量の神素を周囲に放出して、右手でパッチン!
森の外だったので少し不安でしたが、無事にかかったようです。神素が霧散したと同時に砂埃は消滅し、我々の髪の毛も肌もサラッサラになりました。
大成功です。やったぁ!
部屋の掃除も、これくらい手際よくやりたいものです。
一度パッチンして小屋ごと燃やしてしまってから、みんなに禁じられてしまいました。大爆笑した父様が元に戻してくれましたが、あれは心の底から反省しています。
そういえば、今の指パッチンで、アーシュが焦げなくて良かったです。
少し危なかったことは、内緒にしておきましょう。世の中には知らなくても良いことがたくさんあります。
『……驚きました。イレーヌも魔術が使えるのですか』
『魔術? これが魔術なのですか? 加減もわからず失敗の連続なので、ほとんど使っていなくて……ああっ! そうだ【湯あみ】が! アーシュ! 湯あみはもう無理ですか? 私ったら調子に乗って余計なことを!』
人間さんの習慣を体験したかったのに!
せっかくの機会を、自分で潰してしまうだなんてっ! ありえない!
『……湯あみ、してみます?』
『はい! まだ可能ならばぜひっ!』
『そんなに目を輝かせて……、あなたは本当に可愛らしい方ですね』
よほど必死すぎたのか、クスクスと笑われてしまいました。
『アーシュも一緒に入りますよね?』
『……え?』
『……は?』
『い……、一緒にですか? それはその……私はもちろん構いませんが、イレーヌは平気なのですか? その……湯あみというのは、服を全部脱いで、裸で湯に浸かるのですよ?』
『裸に何か問題でも?』
『……』
『……どうしました?』
『いえ……そうハッキリ言われると、男としてはかなり複雑な気分です』
みるからに気落ちした様子で、アーシュが深い溜息をつきました。
え? いま何か、おかしなことを言いましたか?
その後すぐに私たちは、【脱衣所】という場所へ移動しました。
そこにも何頭かの人間さんたちが頭を下げていましたが、アーシュが声をかけると誰もいなくなってしまいました。
『あの人間さんたちは、一緒に入らないのですか?』
『彼らは、私が湯あみをするときに、いつも世話してくれる者たちです。今回はあなたがいるため下がらせました。人間は親しい者の前でしか裸を見せないのです。もしまたイレーヌが湯あみをしたくなったときは、必ず私に声をかけてください。慣れるまでは一緒に入らないと危ないですから』
『裸は、アーシュの前でだけ?』
『そういうことです』
『レオさんやガレノさんの前では?』
『……絶対にだめです』
『わかりました。皆様に失礼のないようにします』
いつか人間さんたちと【湯あみ】をしてみたいですが、それにはまず言葉を覚えて、仲良くならないといけませんね。
私に出来るでしょうか……ちょっぴり不安です。
『ここでまず服を脱ぎます。脱いだ服はその箱の中に入れてください。畳まなくとも大丈夫です。自分で脱げますか?』
『はい。もちろん』
服を脱ぎだしたアーシュに習って、私も服を脱ぐことにします。
……とは言っても、寝間着だけですから、あっという間にスッポンポンです。服は無意識に軽く畳んでしまいましたが、まあ大丈夫ですよね?
アーシュはどうかな? おや? まだ上着しか脱いでいませんね。
何故こちらを凝視したまま、固まっているのでしょう?
小首をかしげて上目遣いで覗き込めば、ギクシャクと視線をそらされました。
耳が赤く見えるのですが、もしやアーシュも湯あみが楽しみで、興奮しているのかもしれません。ますます楽しみです。
素早く裸になったアーシュは、体型が父様に似ていました。
無駄のない引き締まった筋肉が全身を覆っています。雄らしく強そうに見えて、実に羨ましいです。
『イレーヌの髪は長いですから、濡れないようにあげておきましょうか』
『あっ、自分でやります』
髪を適当に後ろでくるくるっとまとめて、アーシュが差し出してくれた留め具で挟みこみました。白い花飾りがたくさんついた造りで、雄の私に似合いそうもないですが、お借りしている立場なので不満は喉元で飲み込みます。
『これでいいですか?』
ほつれ毛が無いか、うなじに手をやりながら振り返ると、アーシュの熱っぽい眼差しと目が合いました。
私が失敗しないか真剣に見守ってくれていたようです。
でも髪をあげるくらい自分でできますよ?
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