人間さんと暮らしてみましたが、ちっとも馴染めません。

白光猫(しろみつにゃん)

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湯の効能

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『湯あみの場所はこちらです』

 手を引かれて案内された先には、蒸気で満たされた石造りの空間が広がっていました。先ほどの部屋も暖かかったですが、こちらはモワッとした熱気が充満しています。

 すごいっ! 部屋の中なのに白いお湯がたくさん溜まってる!

 おそるおそる指を入れてみると、本当に温かいお湯でした。
 でも……

『……お湯がヌルヌルしています』
『これは【温泉】といって、地中から自然と湧き出ているものです。白濁していますが、身体にとても良い成分が入っています。病気が治った人間もいるし、浸かると肌が健康的でツルツルになりますよ』
『ツルツル……』

 ツルツルになったら、何か良いことがあるのでしょうか?
 私は出来ればモサモサがいいです。勢いがあって強そうです。

『モサモサにはなれます?』
『モ……モサモサですか? ……血流が良くなるので、毛根にも効果があるのかもしれませんが……』
『ツルツルからモサモサになれます?』
『?? 生えてくるかもしれませんが……何の話です? 髪の毛の話ですよね?』
『足や背中や……ここら辺に、もう少し毛が欲しいです。ここには少し生えてるのに……』

 私は、右手でツルツルとした胸のあたりを撫でさすりながら、左手で股間の毛をつまみあげました。申しわけ程度に薄く生えた銀色の毛は、キラキラと虹色に光るだけで、決してモサモサではないです。

『アーシュみたいに硬い筋肉で覆われていればいいのですが、私はどこもかしこも白くて薄くてプニョプニョで、全然雄っぽくないんです。せめてモサモサしていれば、少しは強そうに見えるのに……』
『……すみません。ちょっと失礼します』

 それまで黙って聞いてくれていたアーシュが、突然話をさえぎりました。
 無言のまま、少し離れた水場へ行くと、桶に水を汲み、頭から豪快に水を被って……えええ――っ? それお水ですよね! 突然どうしたのでしょう!
 でも、濡れた前髪を無造作にかきあげる仕草がすごく雄っぽいです。そういうのっ! 私が目指しているのはそういうのです! 荒々しくて大変雄っぽい! 憧れます!

『……お話しの途中ですみません。気持ちが高ぶってしまったので冷やしただけです。そろそろ湯に入りましょうか。私も理性の限界ですので……』

 理性の限界? 我慢の限界じゃなく? 聞き間違いかな?
 そんなにアーシュがお風呂に入りたかったとは……くだらない立ち話で引きとめてしまって申しわけなかったです。

 身体に軽く湯をかけてもらい、私たちは【お風呂】というものに浸かりました。
 ふわあああああっ! あたたかい! ヌルヌルしてて不思議だけど、とっても気持ちいいっ!

『湯の加減はいかがですか?』
『丁度いいです。お風呂というのは、こんなにも心地良いものなのですね』
『お気に召して良かったです』

 肩を並べたアーシュも、とても気持ちが良さそうです。
 森の動物さんとの水遊びは、バシャバシャと水の掛け合いになって、それはもう大騒ぎなのですが、お風呂というのは、こうしてのんびりと浸かるそうです。

「あーちゅ……こりぇは、なんでちゅか?」

 ずっと気になるものがあったので、人間さんの言葉で質問してみました。

 石で彫られた生きものの口から、ジョロジョロとお湯が出てきているのです。この生きものは何なのでしょう? 見たことがありません。

『ああ、それは伝説の神獣……【古代竜】を彫ったものです』
『神獣? これが?』
『イレーヌのいた森には、遥か昔に古代竜が降臨した伝説があるのです。この国の起源にも古代竜が関わったとされています。我々ログーザの民にとっては聖なる生きもので、長年崇められ続けているのです』
『?? あの森には、私たちの他に神獣はいませんが』
『あくまでも伝説です。文献に記されているだけで実際に見たものは誰もいません。架空の生きものの可能性もあります』
『なら今度、父様に聞いてみましょう。あの森を作ったのは父様ですから。森のことなら何でも知っているはずです。他の神獣にも聞いてみますね』
『……え? あの森を作った? イレーヌのお父様が……ですか?』
『はい、そう聞いています。あの森全体が父様の巣だそうです』
『……』

 温かいお湯に浸かってるはずなのに、アーシュの顔が一瞬青ざめたように見えました。

 寒いのかな? さっき水被ったばかりだし……。
 もう少し、肩まで浸かっていた方が良さそうです。
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