あなたは誰で、ボクは誰でしょう

星歩人

文字の大きさ
1 / 33

第1話 トロイ

しおりを挟む
 誰かが話かけているが、頭がぼーっとして、言葉として整理ができない。ただの雑音でしかない。視界に映る光景もぼやけている。
 頭がくらくらする。自分が立っているのか、寝ているのかすら判断できない。

 やがて、周囲の音が何も聞こえなくなり、視界は白くぼやけ、視界に眩い光が差し込んだ。そして、少しだけだが、言葉が聞こえた。

「・・・くん、これからの・・・・よく聞きなさい。君は・・・・・」
「先生、もう始まって・・・・」
「そうか、では、・・・・くん。行きた・・・・」
「・・・・・・・」

 声は再び聞こえなくなり、視界も真っ白になって意識が薄れ行くのを感じた。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
                 ・・・・・・・・・・・・・・・


 それはほんのつかの間だった。すぐに視界が鮮明になり、音も聞こえ、振動も感じた。目の前に映る光景は、家の中ではなく、屋外でもなかった。
 オイルと錆びた鉄臭と、埃、汗臭さを感じるヒトの体臭が蔓延していた。おまけに、周囲は左右に、上下にとガタガタと揺れている。
 たぶん車輪付きの乗り物で、舗装されていない悪路を走行しているのだと直感した。

「おー、坊主。やっと起きたな」

 上の方から声がした。鉄錆びた壁によりかかって、下を向いていたようだ。頭を起こすと、浅黒い肌に、短めの銀髪、肉体労働者風体の男が居た。

 黒いランニングシャツからはちきれんばかりに筋肉の鎧をまとい、手製の巻煙草をふかしている。

 奧の方は運転席のようで、この男と大差ない体格をした大男が運転している。窓から見える風景は、果てもなく広い荒野だった。乗り物の視界はかなり高く、地上から5メートルは高いと感じられることから、かなり大きな、トラクターのような車両であることを認識した。
 
「あら、坊や、やっと起きたのね」

 後ろの方から、低いが柔らかみと覇気を感じる大人の女の声が、鉄の床をカツカツと響かせる足音ともに聞こえた。

 振り返れば、声から察しの付く、アネゴ、いや姉さんと呼ぶのがふさわしい、筋肉質でやや強面で日焼けした褐色肌の大人の女だった。

 それにしても、さっきから、坊主、・・・、坊や・・・・、という自分に言われた呼称がやけに気になった。

 なぜそう思うかと言えば、今、この状況で自分が男だという認識もなければ、女だという認識もない。

 おまけに周囲に反射物がなく、自分の顔を確認する手段がない。とりあえず、手を見た。それほど小さくはないが、およそ肉体労働的な仕事に向いてなさそうな感じだ。
 
 でも、弱々しい感じもしない。グッと力を入れてみると、やや血管が浮き上がる。握力は相当にある感じもする。

 手の皮膚は際立った皺も体毛も少なく、血行の良いところから、間違いなく、自分は若年層であることに相違なかった。

 髪の毛はそれほど長くはないようで、一本抜いてみると、茶色っぽかった。くすんでいるのだろうか。金髪かもしれない。

「あなた方は、いったい誰なのですか?・・・・、」

 目の前にいる極悪人のような男女に、思わず発した自分の声を聞いた。男とも女ともつかない中性的な声だった。やはり、若い声だ。

「自分が何者かわからないだけで、言語は通じているみたいですし、室内に書かれている文字や記号も理解できます。後ろの部屋は、トイレとラウンジルームですね」

 自分は無意識に、咄嗟に感じたことを口に出していった。自分はこの強面の男女を見ても物怖じすることなく、冷静に話ができている。

「それに、自分はボクでいいのかな?それとも、私?、拙者、それがし、・・・?
 ねえ、おじさんは何だと思います?」

「なんだ、おめえ、いきなり。男のガキは、ボクと言っとけ!
 それとな、勘違いしないように言っておくが、おめえさんは、漂流者だ。
 さっき飛行機の墜落事故を目撃してな。そこから随分と離れたところに、真っ黒な残骸が散らばっていて、その更に先に、脱出ポッドに居たおめえさんを見つけて拾ったんだよ。
 脱出ポッドに普通、ガキ一人を入れたりしねえからな、きっと金持ちの子供に違げえねえと思ったのよ。こいつを、助けりゃ金になるってな」

 なんだか、悪い予感のする状況だが、なぜにかこの男の口調を聞いていると悪人には見えない。

「それに、ここから連邦警察と連絡とれるような町まで、かなりあるからね。積み荷の売買、燃料や食料の補充で丁度、出かけてたんだよ。アンタ本当に運がいいよ。
 町までは、ぶっ続けで走っても2週間はかかるからね。あんたをそのまま置いてたら、今頃は、即身仏にでもなってたろうね」

 連邦警察・・・・・?

 なんだろう。警察がなんだとかいう話ではなく、この二人は見てくれ的に犯罪者のようなのだが、警察に行くと言っていることが妙に気になった。
 それこそ自分を連れて行けば、誘拐犯扱いされてもおかしくない筈なのに。

「救難信号出してたら、救いが来たのになって思っているようだと甘いぞ。
 あんなところで、救難信号出したって、真っ先に来るのは悪人だよ」

 その悪人があなた方では?と、突っ込みたかったが、とりあえず我慢した。

「しっかし、お前、名前あった方がいいよな。坊主やオイじゃ、もしもご立派な方だった時にまずいしな。おめえ、名前の書いたものとか持ってねんのか。
 財布や身分証は表のポケットにはなかったし、ポッドの中にもカバンのようなものはなかったんだ。
 それで、お前さんの服を脱がそうと思ったんだが、プロテクトがあってよ。ジッパー外れないし、ナイフでも切り裂けなかったんだ」

 ええ、そんなことしてたの。やっぱり、怖いわこの人たち。

 とりあえず、着ている服を確認した。確かにジッパーがあった。金具を手で触るとピッっと小さな音がして、ジッパーが下ろせた。内側はインナーの服を着ていた。もちろん、普通の服ではなく、過酷な土地で着るライフジャケットの類だった。

 そして、内側に名前らしきものを確認した。そこには、トロイと書かれていた。

 トロイ、思わず口から出たその言葉は、何らかのイメージを頭の中に駆け巡らせた。けれどもそのイメージは、あまりにも早すぎて、どういう光景なのかも全く分からなかった。

 見覚えがありそうな光景なのにどこだか思い出せない。声も断片的に聞こえるが、言葉として掴み取ることができず、雑音となって、頭の中を抜けていく、最後に残った映像は、トロイという名前だった。

「トロイ・・・です」気づけば言葉に発していた。

「ああ、なんだって?」

「名前は、トロイです!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

偽夫婦お家騒動始末記

紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】 故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。 紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。 隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。 江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。 そして、拾った陰間、紫音の正体は。 活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...