古慕麗離子

小目出鯛太郎

文字の大きさ
12 / 12
別章 砂の海

しおりを挟む
 
 良い奴だと思ったのに。

 案内をしてくれたことも、陽を遮るように気を使ってくれたことも、見せかけの優しさなのか。
 そうだとするのなら、外地そとちのあやかしはよくわからぬ、とはやては思った。

 あやかしの気を吸いつくして枯らす訳でもなく、頭からばりばりと嚙み殺すわけでもない。

 颯が忘れていた人間であった頃の寂しい過去を見せ、死に際を見せ、感じていた寒さも痛みも拭い去り、颯の中からいくつかの言葉を奪っていった。

 こわいものもいけないことも、そんなものは全部無くしてやると囁かれ、身体をまさぐられ、快感だけが残るように愛撫され、抗う力を奪われていった。
 
 黒風は、すぐ喰らう餌ではなくて、抗わぬ人形が欲しかったのか?それとも従順な奴隷が。

 足下の薄い氷の下では、黒風が束風の指から出来た身替りのハヤテを抱いている。自分そっくりの姿を見るのは妙な気分だった。

 結界というのか、束風の作った閉じた部屋にいるせいで、安全な場所にいるという感覚があった。それもあって強いものに対する根源的な怯えはあるものの、眺める事ができた。

 黒い靄に包まれた黒風の日に焼けた肌は今は青黒く、黒褐色の髪は肩を超すほどに長い。額に横に走る傷があり、太い眉、恐らく古傷であろう殴打のせいで歪んだ鼻筋、こわばった笑みをそのまま貼り付けたような唇があった。
 最初に見た実直そうな面影がない。

 そしてそこに据えられている替わり身の自分の姿を見ると、白く淡く、うっすらと輝いていた。束風ほどではないが、そこそこに良い美しい顔立ちをしていると思う。

 初雪を踏まずにはいられぬ性なのか。

 颯には何故こうなったのかが分からない。

 ただ勝てぬと言うことだけは分かる。


 ふるりと氷の床が揺れ、颯は身構えた。

「俺だ」

 現れたのはいつもの姿の束風だった。
「お前、難儀な奴に目をつけられたものだな。なかなかに根深いぞ。奴は我らとは成り立ちが異なるようだ」

 颯は首をかしげた。

 人と、人ならざるもの。
 自分が人ならざるものであることを颯は理解している。では黒風は?


「人の身のまま悪魔になったようだ。いぶりすとかさたぁんとかいう名に連なるものだが、この地の人も絶えて信仰が途絶えたのだろう。空いた神の座に奴は座っているようだ」
 
 颯は再度首を傾げた。
 よくわからぬ。束風の言葉は難しすぎた。

「崇める者もなく、堕落する者もいない国で奴は空っぽの王座に座しているのだよ。人も物々も喰い漁り力を得ても、振るう場所がなく、することもなく、飢えが極まった所に、お前のようなものが現れて、恐らく人の片鱗に惹かれたのであろう」 

 
「人の片鱗?俺は、自分の前世が人であることなんて思いもしていなかったし、すっかり忘れていたのに。どうやったんだろう?」

 さあな、と束風はにべもない。


 凩がいれば、いぶされたくぁんにやられっぱなしなのかと、げらげら笑うに違いない。 

 何をどれだけ奪われたのかも分からないが、せめて一つくらい自力で取り返さねばと颯はぐっと拳を固めた。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます! 婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...