だんじょんきーぱー

小目出鯛太郎

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12話 あれ?勇者はDTですか、そうですか

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おわた。


だんじょんきーぱーとしての命もここまでと俺は思った。だって最強ボディーガードミノタンが倒れるなんて、そして別々に落ちるなんて、もやしの俺に勝算はない。
 
俺はつちの勇者らしき男と共にぬるぬると何処かへ沈み落ちつつあった。狭い管のような穴のような割れ目の中をぬるりと落ちつつある。落下音にぬるぬるは変なんだけど、こう粘液というよりかやわらかすぎるお餅みたいなのが体にもったりと絡み付いているんだよ。俺が下で、勇者が上だ。勇者の金属の鎧が当たって痛い。しかもぬるぬるゆっくり落下してる最中だ。

「いたいよぅ…」

思わず呟くと、勇者は「す、すまない」と謝ってくれた。俺よりちょっと年上の純朴そうな青年に見えた。目立つ所の無いさらっとした栗色の髪に同じ色の瞳。精悍とか凛々しいって言葉が該当しない。勇者っていうよりも綺麗なお姉さんや強気のおばさんの値切りに弱い八百屋の売り子とかそんな感じだよ。


「…やっ………だめぇ」

な、なななんてこった。そんな成りだし謝ってくれたからちょっと良い人かと思ったのに純朴そうな顔して超エロかった。勇者の指がさりげなく俺の足の間をさわさわした。今の俺は魔王ちゃま少女ボディなわけで、しかも魔法使いらしき男が使った束縛魔法バインドで服もマントもびりびりに弾け飛んで全裸なんだよ。美少女ボディを人魚姫みたいに髪で隠してるんだよ。

「す、すまない、その…僕は何に触れたんだろうか?この粘着きのせいで腕が絡まって、うまく動かせなくて…」

おまたに触ったなんて、言う方が猥褻だと思う。言わせる方ももっと猥褻だと思う。俺は精一杯きっと睨んだ。魔王の威厳
に震え上がるがいい!なんて思ったけど…ただの美少女の怯えた顔になるだけのような気もする。

勇者が身じろぎしたせいでなお一層鎧が腹に当たる。


「痛いから動かないでぇ」

「すまない、すまない、本当にすまない。槌さえ振るえればこんな物などすぐに打ち払えるのに」

えーだめだめだめだめ。そんな事されたら俺、胴をぶち抜かれちゃう。喀血どころではすまなくなっちゃう。
「ダンジョンを壊すのはやめてよ」

「何を言うんだ。ダンジョンは人間にとっての害悪だよ。この世にあってはならないものだ」


ええー。なにこの発言。俺の存在を全否定するような鬼発言。悲しくてぷるぷるしちゃうぞ。このダンジョンのどこに害悪の要素があるっていうんだ。表層部は住み良い街だし、水だって綺麗だ。採れる野菜だって美味しい。ダンジョン1、2階の薬草園は手入れも行き届いて、街の外に売りに出せるほど順調に育っている。魔物といえば白濁スライムのしろたんが常時在住で、デイリーにミノタンと俺が出入りするぐらいで…。どこが害悪だっつーの?


「……じゃぁやっぱり勇者はおれを殺しにきたの?」
俺は何も悪いことをしてる覚えはないけど、勇者の使命が魔物の根絶なら害悪って言われちゃうのかもしれない。仮にも魔王の眷属…というか仲間というか一部みたいなもんだしな。自分でもよくわからないけど。


「君は…悪い魔物には見えない…けど、本当に魔物なのか?実は魔物に攫われて育てられた人間なんじゃないか?」

勇者の声に、誰かの声が重なった。
『お前の思惑はどうであれ宝は奪いダンジョンは潰す』『だめ、お願いダンジョンを壊さないで』

後から聞こえたのはミノタンミノコの悲痛な声だった。この変なぬるぬるのせいで外の様子は分からないけど、意外に壁一枚ほどの距離にミノタン達も落ちたのかもしれなかった。俺は声が聞こえた方に体を捻ろうとした。
「ミノタン!ミノターン?」

「あひぃ」
あ、あれ?聞こえた悲鳴はミノタンではなく、勇者の口から飛び出た声だった。

「き、君の膝が、僕の股間に…」

いやん、ごめん、ノーカンでお願いしやす。体を捻った際に勇者の股間を膝か爪先で押し上げるか潰すかしたみたいだった。か、感触?そんなの知らない。ぬるぬるねばねばしてて、ナニを踏んだか蹴ったか分からないんだ。鎧の感触だけが痛い。




『なんでもする、お願い、ダンジョンを壊さないでぇ』

俺達が抜け出せずにもちゃもちゃしている間に見えない向こうは愁嘆場だ。ミノタン駄目だよ、俺のためにそんな事言っちゃ。なんでもするなんて言っちゃダメだ。あんな斬りかかってくるようなおっさんに、何されるかわからないのに。

「ヴァィは、紳士だ。あの声の子が暴れたりしない限りだ…」『お前が俺の従魔になるのなら俺はこのダンジョンを壊さないでいてやろう』

ん?だ?
勇者、なんて言おうとした?紳士?じゃぁミノタンは大丈夫かって思った矢先。

『あん、や、そんな強く掴んじゃ嫌、いたい。やめてぇ…優しくして』


ってええ!?ミノタンミノコの危機ぃ!?だめだよらめぇ展開。ちょっと勇者、紳士の意味を知っている!?あんたの連れは鬼畜なの、やめてやめやめさせてー。俺はじたばた暴れた。

『黙れ、そんな淫らな格好でお前が何を言っても誘うようにしか聞こえん』

ぎゃー。中年男の台詞セリフに物申したい!服は着てました。すっごい可愛い服を可愛いミノタンミノコが着てたんです。白いブラウスと花の刺繍がされた黒いベストと、赤いスカート。街を歩くにはぴったりの装いで似合ってたのに、魔法で破かれちゃったんだよ。おまいらの仲間がびりびりに破いたんだよ、お前が淫らでエロいんじゃー。


「勇者ー!止めてよ仲間を止めてよ。ミノタン逃げてー俺のことなんてどうでも良いから逃げてぇぇ」
「ヴァィやめてください!魔物とはいえ女性に狼藉を働こうなど、あなたらしくない!」

俺達は狭い管のような場所で懸命に叫んだ。向こうの声はよく聞こえるのに、こちらの声は届かないのか。もし俺の声が届いてたら、ミノタンなら絶対に中年男をぶっ飛ばして駆けつけてくれるはずなのに。


『初めては好きな人として、オンナノコになりたかった…』


ミノタン!ミノタンは乙女なんだよ。お菓子作りが趣味で、可愛い服が好きで、部屋にはぬいぐるみとか人形とかいっぱいあって、夢は好きな人のお嫁さんとか真面目に言っちゃう系なんだよ。それなのに、そんなよく知りもしない乱暴そうなおっさんに…

魔王!魔王っ!!勇者は女の子を斬らないって言ってたけどこれはないよ、どこにいるんだよ、ミノタンを助けてよ。暴れれば暴れるだけ、ねばねばが絡みつき、耳も塞げない。

ミノタンのすすり泣きと、あの剣士の男の声が聞こえ続ける。
『そら、おまえの中に入っているのが見えるか?ご主人様に抱かれるのはどんな気分だ、言ってみろ』『あ…ん……んご主人様の硬いのが…やっ………お…くにあたる…の………んっ』


ぽたぽたと何かが上から落ちてきた。赤い。
勇者が茹で蛸より赤くなって鼻血を垂らしていた。
「す、すまない、すまない、すまない…」
勇者は消え入りそうな声で顔を背けた。耳も首も赤い。俺達の体は重なるように落ちつつあって、俺の方が先に下に引きずられるようで、今は俺のへそあたりに勇者の顔があった。

あんあんってミノタンミノコの声が甘くかすれはじめた。ご主人様ぁって甘えるように泣いている。あの剣士のことをミノタン、スッゴイタイプって言ってたけど…。ごめんミノタン、何にも出来ないしどうして良いのか分からない。この状況から抜け出せないよ。
ひぃぃぃ。男の卑猥な台詞やら音やら振動がすぐ真横でしてるみたいににダイレクトに伝わってくるんだよ。待ってよ。刺激が強すぎる。恥ずかしくて死にそうだよ。


つつっと肌を伝って勇者の鼻血が滴ってくる。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。勇者の血なんてダンジョンに吸収したくない。でもねばねばに絡め取られて俺は何にも出来なかった。

勇者の血がどこかに落ちた。じわっと俺の体に何かが流れ込む。んひぃぃ産毛が全部総毛立って、足がつる前兆みたいに体がびぃんと震えた。嫌だ、すっごい嫌だ。初めて子供だったユーヴュラの血を地面から吸収した時よりずっと強い衝撃が俺の体を襲った。
ダンジョンを殴られて喀血した時よりも息が苦しい。
休まずに走り続けた時よりも息が乱れ始めて、はぁはぁしてしまう。

嫌だ。勇者の血なんかいらない。気持ち悪い。ここはユーヴュラが俺のために作ってくれたダンジョンなのに勇者の血なんて混じらないでくれ。


「き、君大丈夫…か?」
赤面したままの勇者が俺に問いかける。またぽたりと鼻血が落ちた。


ちょっと!俺の髪!?しっかり仕事してぇ。俺の長い髪はねばねばに左右から絡め取られて今は裸体がフルオープン状態なんだよ。なんで隠してくれないのぉ!?

ミノタンミノコみたいに豊満な胸は全然なくて、慎ましいピンクの乳首だけがつんとそこだけ重力に逆らっていた。
逆らわなくて良いから、むしろ埋もれて、隠れて、見えなくなっててよ。


(つД`)ノ今は自己主張するなぁぁぁ、存在をかきけせぇ…



勇者も見るな!それから俺の心配なんかしなくて良いからお前は鼻血をとめろー!!しかも勇者が顔を背けると勇者の頬が俺の腹にぺったりくっつくんだよ。ぎゃー変態離れろぉ。暴れると逆に勇者に押し付ける形になっちゃうし、しかも勇者は鎧が引っ掛かって落下が止まってるけど俺の体はじりじり落ちつつあるんだよ。

ちょっと!?
俺何にも履いてないんですけど。俺の着てた服もあのむっつりスケベの魔術師か何かのせいでびりびりで、俺も全裸なんたけど。
お、俺がしっかり見たこともない場所に勇者の顔が近づきつつあるんだけどぉぉ!?

ミノタンがあんな目にあってるんだから、俺だってこの状況を自分でなんとかしなくちゃいけない。

動け!ダンジョン!この危機的に状況から俺達を脱出させてくれ。願ったのが良かったのか、にゅるんと何かが動いた。勇者を排出しようとしているのか、今度は勇者の体の位置が落ち始めた。
ちょっと、これはこれで嫌だ。鎧が当たって痛いし、それに、その、勇者のズボンの辺りには鎧当てはなくて勇者のモノが盛り上がっている。見事なテントだ。

そりゃぁ俺だって、こんな状況だったら普通ではいられないと思う。
エロ動画みたいにぱんぱんと肉がぶつかる音と、ぬっちゃぬちゃ何かがかき回されるようなやらしい粘着音と、可愛い女の子の喘ぎ声が多重音声みたいに聞こえるんだから。しかも裸の女の子と密着して。
『あん…ぁん…ゃん…あ あっ ぁん そこぉ…』


えーん、ミノタンミノコの次第に高まる喘ぎ声が響く。じゅぼじゅぼぬぷぬぷ粘着音が更に早くなって耳を襲った。


あ。

勇者の腰はかくかくして、ぶるっと震えた。依然ねばねばに絡め取られて動けないままだ。そして勇者のズボンの盛り上がったテントの天井にじわじわと濃い染みが広がる。


「ゔっ……う、ぁう…。けして猥りがましい疚しい気持ちで…こうしているのではなく、こ、心から申し訳なく、せ、せ、責任は取ります」


いや、いや、いや、責任てどんな責任の取り方するつもりだよ。責任取ってくれるなら、ダンジョンから出ていってくれよぉぉぉ。
俺達は抜け出せもせずに、ひどい状況に喘いだ。



。゚(゚´ω`゚)゚。エーンタシュケテー
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