こがらしはしぬことにした

小目出鯛太郎

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業の国

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 武器屋のおやじの肩口から僅かに顔をあげた少年くるすの表情を見て、こがらしはひゃぁと肩を竦めた。

 伏し目がちで目端にまだ涙の雫が残っているが、悲嘆にくれる者の眼とは何かが違う。
 それが決意であるならば、しなくて良い決意であるように凩には思えた。

『クルス、出よう。国で一番の店じゃなくたって良いじゃないか。市場の店はあんなに賑やかで、きっと二番目の店でも良い物を買ってあんたの応援したい騎士さんに贈れるよ』

 凩は無駄と知りながら声をかける。
 蝋燭の炎がたよりなく揺れるように凩の存在がそこにあることを少年に訴えかけるが、声は届かない。

 
 武器屋のおやじが少年の手を引く。
 小奇麗な商談部屋の奥の扉を押すとその中には店先に置いてあったものも十分に立派な武具だったけれど、それらとは段違いの輝きを放つ剣や斧が綺麗に並べられ、鎧も楯もほこり一つないように陳列され、籠手や具足の類もすぐに身につけられるような並びになっていた。

「ぼっちゃん、これがあたしの財産ですよ。買いもしない、買えもしない冷やかしの連中の眼も手垢も着かないように、こうして隠してあるんですよ。この中からどれだってぼっちゃんの大事な騎士様に買い贈りできますよ。勿論身体にあうように鎧や具足のこまごまとした調整だってね、あたしゃぁ目利きとそれで喰ってきたんでね、お任せくださればね。ちゃんと間に合うように仕上げますんでね」

 すごい、とクルスが呟くのを聞いて、男の口端は緩んだ。

「これは本当に世界中から集めた一級品でしてね、この中になまくらなんてありゃぁしませんよ。これで騎士さんの腕さえ確かなら、勝運を掴んで引き寄せて。ぼっちゃん剣に口づけて贈るだけじゃぁなくてね、勝利の抱擁だって受けれるかもしれねぇですよ?」


 勝利の抱擁?と問い返す口に応えながら武器屋のおやじはさらに少年を奥の部屋に誘う。祭りの時は特別に勝者に花輪や花冠や贈り物を捧げたり、町娘や時には貴族の女性なんかも堂々と抱擁したりされたり、手じゃなくて額や頬に口付けたりするんですよ、ぼっちゃん。お祭りの時だけね。あの広い闘技場のど真ん中でね万来の拍手と歓声に包まれて、『あなたのおかげで勝てました』なんて言われてぎゅうっと抱き締められて口づけなんかされた日には、そりゃぁもう天にも昇る心地でしょうよ。一生忘れられない思い出になるでしょうよ。それからね、ぼっちゃんまだ終わりじゃないですよ。そうやって勝った者の幾組かはね、喧噪にまぎれてひっそりこっそりと下のお部屋に行くんですよ。ねぇ、ぼっちゃん。そこで鍵をしっかりかけて、お分かりでしょう?抱き合って離れがたい想いの二人が何をするかなんてね。どんなに声をあげたって上はやんやのお祭り騒ぎで聞こえやしない。

 武器屋のおやじの手がクルスの上着の首元にかかり、素早く開いた。白い肌が露わになる。

「ぼっちゃん、あたしはねあの恐ろしいズオルトを裏切ってぼっちゃんに手を貸すわけですよ。ですからね、ですからぁね…もしかしたら報酬を頂く前に首と胴がおさらばする可能性もあるわけで。だからお先に少しいただきますよ。勿論ぼっちゃんの愛も誠も唇も騎士様のものなんでしょう、だからあたしゃぁ、こちらをね…」

 クルスの胸に吸い付き、この小さな粒は盾、この淡い小さい桃色は鎧の分には足りないがと嘗め回す。顔をべったりとつけて鼻と唇がずり下がり、引き締まった白い腹を舐めてさがり臍のくぼみをちろちろと舐めた。
 その身体は男の性を断ち切られて、背こそ伸びなかったが、どれほどぼっちゃんと呼ばれていても、もう子供ではなかった。そうされることの意味を知っていた。

 怯えも、羞恥も、もがくのも武器屋のおやじはトリモチか投網のように絡みついて、クルスのズボンをおろしクルスが一番隠したかった部分に辿り着く。

「ぼっちゃん、勘違いしちゃぁいけませんよ。これは鎧一式のお代金じゃなくて、お手付金ですよ。ぼっちゃんが払いあたしが受け取る。そんな怯えて嫌そうにされちゃいけませんよ。お渡ししていないのに、最後までしませんよ。少しだけすこぅしだけ気持ち良くなってくだされば…」


 そう言って熱い息と唇が陽の当らぬせいで白いままの肌についた。
 

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