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業の国
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しおりを挟む自分の身体の中で一番厭うべき、憎しみさえ覚える場所に吸い付かれて、クルスは鋭い悲鳴をあげた。頭を剥がそうと突き出した手は武器屋のおやじの髪を掴み、かき乱し、だが萎れた枝のように力を失った。
『ぎゃーばかばか、離せ、このくそおやじ、クルスから離れろー!!』
凩は拳でおやじの背後から滅多やたらに打ちかかったが、それも全く無意味だった。凩の拳はおやじの身体をすり抜ける。そして何故か皮肉なことに凩の気は燃え盛る窯のなかに風を送る鞴のように、おやじの欲望を煽り立ててしまった。
「なんて綺麗な切り痕だ。きっと国一番の医者がやったんでしょうね、ぼっちゃん。そのお医者さんしか触ってないようなところをこのあたしがね…」
感嘆の声をあげちゅっちゅっとわざと音をたてて接吻し、世界一の宝を扱うように大切に大切に肌を撫でられ、クルスは羞恥と混乱と快感に震えた。
「ぼっちゃん、これであたしとお仲間ですからね、あたしのことはアディムと呼ぶんですよ。さぁ、ぼっちゃん」
さぁさぁと促され、またそこへ吸い付かれて舐められた。栓の周りを舌で探られクルスは堪えきれずに声をあげる。
「アディム、アディムそれはだめ…だめ!」
制止されたにもかかわらず、アディムは腰を浮かせ、その指はクルスの身体から小さな栓を抜き取った。
ぱっと黄金色の雫が飛び散る。
アディムは恍惚とその黄金色の生暖かい雨を身体で受け止めた。
「ぼっちゃん、ぼっちゃん、あたしゃぁズオルトを裏切りますよ。一度人を裏切ったあたしの言葉なんか信じちゃぁもらえないかもしれませんがね、あたしゃぁこの黄金は裏切りませんよ。死んだって裏切りやしませんよ。ぼっちゃんのお顔を見れば分かりますよ、はじめてでしょう。こんな人前でおもらしになるのも、人にかけなさるのもここをこうされるのも。これはね後にも先にも一生あたしだけのもんですからね」
アディムはすっかり感極まり、クルスの下肢をしっかりと抱きしめた。
「どこも綺麗で、よごれちゃぁいませんがね。あたしゃぁずっとこのままでいたいくらいですけど。お出かけにするには憚られる格好でしょう、湯をたっぷりつかって、あたしの用意した衣装を着ていただきますよ。それから闘技場へ向かいますからね」
クルスはアディムの手の中で転がされた。湯を使い、用意された服を身に着ける。
その衣装は嫌味ではない程度に清楚な花の飾りがついた白と桃色のふわっとした貴族の少女が切るようなドレスだった。
首や胸や腰に飾りがあるので、クルスが切ればもう年頃の少女にしか見えなかった。
髪をさっと結われ、ベールのついた帽子を被せられる。
アディムはといえば、こちらは逆に悪趣味と言えるような飾りをごちゃごちゃとつけ、ヒキガエルが体中にレースとリボンと真珠と紅玉の飾りを巻いたように見えた。髪と同じ黒い帽子を被り地面まで垂れるようなけばけばしい羽の飾りと黒いベールをつけると成金貴族か豪商の女主人のようだった。
太い毛深い指を隠す手袋をはめると、アディムは黒革の鞭を手にした。
「さぁそれじゃぁ行きますかね、闘技場に」
ゆらゆらと不安げに揺れる影を漂わせ、少女の姿のクルスは女装したアディムに手を取られ、裏口から出た二人の姿は一度雑踏にまぎれ、馬車を拾い、そしてまた見えなくなった。
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