こがらしはしぬことにした

小目出鯛太郎

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業の国

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 片時も離れていたくはなかったが、アディムは後ろ髪を引かれる思いで寝台から降りて浴室で身体を洗い身支度を整えると、眠っているクルスの身体を丁寧に清めた。
 奴隷に汚れた部屋を片付けるように命じると、自分は目覚める気配のないクルスの身体を抱いて、別の寝室へ移動した。

 主寝室ほど広くはないが、客室として整えてあり、使うには何の問題もなかった。

 クルスを寝かしつけ、その白い手を握ってアディムは傍らに座った。

 この子と一緒にここで暮らす想像をした。

 朝のおはようから夜のおやすみまでの間、全ての時間にクルスが傍にいて微笑みかけ、美味しい物を食べたり、アディムの仕事を覚えさせたり、飽きたクルスが悪戯したり、クルスにお仕置きをしたり、くすぐったり、驚いた顔もふくれっ面も泣き顔も笑顔も寝顔も全て想像できるのに、この子が愛していると告げてくれる姿だけはどうしても思い浮かべることができなかった。

 アディムは苦く笑った。想像の中の自分は倍も若く、まるで人気の役者のように背が高くすらりとして容姿に優れ、今の自分の姿とはあまりにもかけ離れていた。
 そんな姿で想像してさえ、この子の愛を得る方法が見えなかった。


「…アディム?まだいかないでよ…ここにいて」
 細い声で呼ばれて、アディムはいそいそと寝台に上り、請われるままに腕枕をする。

 アディムの胸に仔猫のように頭をすりつけると、クルスは小さな声でごめんねと謝った。

「…僕がばかな夢みたいな事を考えたせいで、アディムに迷惑をかけて…痛い思いまでさせてごめんね。それでね、僕、騎士のことは…諦めるよ…だって受け取って貰えそうにないんだもの、僕のひとりよがりだったんだよね…」

 そこで鼻をすすると、クルスはまたアディムの胸に顔をつけて話しだした。
「でもね、きこりの人や掏児すりの子も、次のお祭りで殺されちゃうでしょう?その人達のこと何かわかった?せめてその方達にはお腹いっぱい食べてもらうとか、何か僕ができることをしてあげたいんだ」

 アディムは優しく優しくクルスの身体を撫でながら、自分が闘技場で聞いた事を伝えた。

 近々の結婚が決まっていた樵の妹が、王様が森で狩りをしている時に見初められ、しかしお手つきになるのを拒んだこと。その後に樵は王様の私有林から香木を不当に伐採したとの罪で捕らえられたこと。兄の無実を王に訴えた妹の方は結局王様に犯されて悲観のあまり自死したらしい、そんな噂があるとの話だった。

 クルスは唇を噛んで聞いている。

 掏児すりの子は市場では珍しくもない。貧しさから、人の懐から財布を擦ろうとして捕まった男の子らしい。祭りの生贄でさえなければ、労役か鞭打ちなどで済んだ筈なのに。運の無い哀れな子だ、とアディムは呟いた。

 それを聞いたクルスは怯えたように身体を震わせた。
 そしておずおずと両方の腕を伸ばしてアディムに抱きついた。


「…アディム…僕もう一晩ここに泊まっても…いい?」
 少年が身体を擦り付けてくる。

「僕、いけないよね、そんな話を聞いて…悲しまなくちゃいけないのに。身体がおかしくて。アディムにもあんなにたくさん抱いてもらったのに…身体が変なんだ。…アディムのおちんちんがまだ僕の中にはいって動いてる感じがするの…。アディム助けて、僕は男なのに、抱かれて身体が喜んじゃうんだ。アディムお願い助けて…」

 白い手が絡みつき、唇が寄せられて求められアディムに断れるはずもなかった。

「アディム、僕が着れる鎧を買ってもいい?僕が男だって心を守れる鎧を買ってここに置いてもいい?…アディムが好きな愛や誠の世界からかけ離れていても、僕を抱いてくれる?…アディムの気が向いた時でいいから抱いてくれる?…嘘をついた僕を許してくれる?」

 すぐにでも鎧を見繕ってやるし、ずっとここに置いておけば良いし、好きなだけここで過ごせは良い、ずっとここにいてくれ、ずっと抱きしめさせてくれとアディムはかき口説く。
 涙で滲んだ眼差しが、声が、少年の何もかもが可愛くていじらしくて、愛おしくて、アディムは気が狂いそうだった。
 彼の涙が止まるなら、アディムは何でもするつもりだった。何でもしてやりたかった。
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