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二章「迷い子に望みはない」
03 ※(アダム視点)
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「ん……ふっ、ぁ……あ……」
今度は耳や首筋に舌が這い出して、ゾワゾワと肌が粟立つ。獣人と違い毛皮のない肌や薄い耳は柔らかな肌質も相まってクセになるものなのか、そういえば前の飼い主たちもしつこく舐めようとしていたと思い出した。
これも、昔の飼い主が言っていた獣人の本能とやらなのだろう。
実験動物及び薬の素材でしかないヒトの子どもなんかに感情移入して愚かなことをしてしまうほど、優しすぎて情けない「ドクター」。彼にもそういう欲があるのだと、身体を重ねるたびに知っていく。
だが。
「……はっ……ドクター……」
「ん……?」
柔らかく耳を甘噛みし続けているディランの肩を軽く押す。あまり牙を当てないようにしながら喰まれていたため、微塵も痛みはなかった。
ただ、爪の丸みに気付いた時と同じ気持ちになる。
「なんで、あなたはそんな……」
「え?」
「……いえ。なんでも、ないです。どうぞ、お好きに続きを」
乱れた髪を改めて耳に掛け直し、ディランがまた舐めやすいようにと差し出した。
ディランはしばし戸惑った顔でアダムの様子を伺っていたが、頑なにそれ以上なにも言わずにいれば、やがて諦めたようにそっと手を伸ばしてきた。
きっと、彼にあるのは欲だけではない。
自分への大きすぎる負い目があるからこそ、ディランはアダムの駆け引きに応えた。
その結果として本能が引き出されてしまっただけで、彼がこうして妙に優しく自分に触れるのは——こんなことをするしか生き伸びる術がない「可哀想なヒトの子」への哀れみだ。
「ッん……あ……っ、はぁ……」
耳を甘噛みされながら服の上から身体を撫で回され、じわじわと下腹部に熱が溜まっていく。口からは勝手に吐息混じりにか細い声が漏れる。
「……っあ、ッあ……ぅ……!」
手のひら全体で胸元を撫でられると、硬くなった突起が服ごと擦れて身体に甘い痺れが走った。
生理的な涙で世界が滲む。今は、却ってそれでよかったと思った。哀れみを含ませた視線など直視したくはない。
「っ、ドクター……、ッ!」
「ん……っ」
呼びかけた途端、腰を引き寄せられ下腹部同士が深く密着する。反射的にディランの首元に抱き付くと、腰を支えているのと反対の手で片脚を持ち上げられた。
そのまま膨れ上がった熱同士を擦り合わせる動きで揺さぶられる。
「っあ! あ……ッドク、ター、っ……⁈」
「……はっ……、あんまり、君に、無理ばかりさせられないから……っ」
今日はこれで、と囁かれた耳元が妙に熱かった。
「ひ、ぅ……! ッ、あ、あ——」
強烈ながら決定的ではない、たまらなく半端な快感が、互いが擦れ合うたびに脳を焼く。
片脚が地についていない不安定な体勢のせいでディランに咄嗟に縋りついてしまっては、またより強く密着する羽目になった。
「あっ、ァ、……ッ! ん、んっ、……くっ……!」
徐々に押し付けられる腰の動きが激しくなって、視界が瞬く。触れ合っている箇所から響く淫熱が脳髄を駆け抜けて、なのになかなか絶頂には至れない。
無理をさせたくないなどと彼は言ったが、剛直で奥を突かれるのとはまた違った辛さがある。その上もどかしさに縮こまり震えるアダムに追い打ちをかけるように、腰を支えていたディランの手が服の上から臀裂をなぞった。ほどなく後孔を探り当て、ぐっと指先を押し込むようにして刺激される。
「あっ、ん——……!」
たまらず、ディランの首筋に額を押し付けて耐える。
頭上から彼の荒い吐息が落ちてきて、擦り付けられる雄がより膨らんだのを感じた。
むず痒さを感じるまでの優しい扱いの中に、今にも本能に負けそうな危うい乱暴さが潜んでいると分かる。
——さっさと、負けてしまえばいいのに。
真っ白に飛びそうな頭の奥で、そんなことを思った。
どうせその優しさはただの哀れみなのだから。
負い目に漬け込んで利用しようなどと浅ましい考えで近付いたとて、所詮は弱者の底辺たるヒトだ。獣人に教えられた男娼まがいの色仕掛けしかできることはない。そんな「可哀想」なだけのヒトのことなど、本能まかせに壊してしまえばいいのに。
「ッ、ぅあっ、あっあっ……——ッ!」
「くっ……、……!」
やっと訪れた絶頂の波は、焦らされたぶん大きい。
熱を吐き出してもまだ身体の内で激しく反響し、ビクビクと腰が戦慄く。
「は……ッ……あ、……」
「っ、アダム!」
やがて指先の力が抜け、捕まっていられなくなった。
ずるりと手が滑りバランスを崩しかけたところをディランが慌てて支えてくれて、アダムは霞む視界の中で緩慢に彼の顔を仰ぎ見る。
「ごめん……。このほうが君に負担がないと、思ったんだけど……。今日は、怪我もしてたし……」
心底申し訳なさそうに覗き込んでくるものだから、思わず笑いたくなってしまう。
獣人の本能になど、彼が負けるはずがない。そんなものに身を委ねられるような、いやな意味での強さは彼にはない。
優しくて、弱くて。だからこそ苦しんで、その場凌ぎの道を咄嗟に選んでしまう。そのせいで完全に正しくも在れず、かと言って悪にも染まれない。何にもなれない半端者。それを開き直れもせず、同じようなことを繰り返し延々と悩み続ける。
そんな、どこにでもよくいるごく普通の獣人でしかないのだから。
——ずっと、ずっと、そうだ。
心配気な顔に首を振って見せ、大丈夫ですからと小さく答えた。
ディランはそれでもあまり納得していないようだったが、とりあえずいつまでもこうしていてはと思ったのかアダムを抱え上げてバスルームのほうへと歩き出す。
何も言わずに大人しく抱えられ、アダムは頬に触れる透き通った白い毛並みにそっと顔を埋めた。昔もよくこうして抱きかかえてくれたことを思い出し、唇を噛む。
——あなたこそ、可哀想な獣人だ。
——あなたは、あの無機質で完璧な【楽園】になど相応しくはなかった。
——ヒトの犠牲を仕方ないと思えなかったあなたは、真実を知っているには軟弱すぎた。もっと普通の、平凡な、ありふれた場所にいられればよかったのに。
そうしたらきっと、こんな面倒なことに巻き込まれてなんていなかったのに。
信じていた相手に捨てられたという暗い澱みを勝手に抱え、道も分からずもがくだけの哀れなヒト。そんなものに足を引っ張られ罪を犯すことなど、なかったのに。
「アダム」
「……はい」
急に声をかけられ、そこで初めてアダムは自分は半ば夢うつつにいたことに気が付いた。
靄がかかったように意識がふわふわとしていて、「これ、まだ痛いかな?」と訊ねられても何のことだかすぐには分からない。
遅れて、ディランが自分の右手を見ていると理解した。このことか、と絆創膏の下の切り傷を思い出す。
「痛く、ないです。もう」
「……そっか。でも、念のためお風呂のあとでまた貼り直そうね」
必要ないとは思ったが、どうでもいいかとひとまず頷いた。頷いたと思う。どうにも頭が回らない。
これ以上は喋ろうとしないほうがいい、とアダムは思った。このままだときっと、余計なことを話してしまうだろう。
脱力し無言になる様子をよほど疲れたのだと取ったらしく、ディランは再び「ごめんね」と眉を下げた。
——ああ。気付きたくなかった。
絆創膏を貼ってもらった右手をギュッと握り込み、目を閉じる。
——本当は、何があっても俺は結局あなたを心底憎むなどできない。
——ずっと変わらず、昔のまま。あなたのことが好きなままなんだ。
今さら分かってしまっても、後戻りなどできない。
影の中に潜む死んだ仲間たちが今も見ている。そしてジェッタを守るために、何でもすると決めた。ならば自分にできることはこれしかない、その事実は変わらないのだから。
復讐を兼ねて大嫌いな相手を利用しているだけ、そんな振る舞いを続けるしかない。
ディランはずっと、自分を含めヒトのことを可哀想な存在だとしか思っていない。こんな本音を曝け出したところで、余計に哀れませてしまうだけだろう。
そんな目で見られ続けるくらいなら、このままがいいに決まっている。
握り締めた爪が手のひらに食い込む。その痛みに、少しずつ頭が冷えてきた。いま優先すべきは何だと自分に問いかける。屈託のないジェッタの笑顔が瞼の裏に浮かんで、スッと胸の澱みが引いていった。
「……アダム? 起きてるかな……?」
あまりに静かなアダムに、寝落ちてしまったと思ったのか。ディランが控えめに声をかけてきたから、今度はしっかりと頷いてみせる。
「はい。……ちゃんと目は覚めていますよ、ドクター」
「あ、よ、よかった……大丈夫?」
「ええ。でも……あなたこそ、大丈夫ですか?」
「えっ? 僕……?」
「あの程度ではご満足いただけなかったでしょう?」
伸び上がって耳元に囁けば、面白いくらいにその巨躯が硬直した。
図星だろうがただ驚いただけだろうが、そんなことはどうでもいい。首に腕を回してしなだれかかり、うっすらと微笑んでその顔を見上げる。
「何度でも、どうにでも。あなたのお好きにどうぞ」
「っ、——」
——ほら。またそうやって傷付いた顔をする。
指をさして笑ってやりたくなる。ディランだけでなく、自分のことも。
本当は、だなんて。
持たざる者がそんなことを考えるだけ無駄なのだ。
澱む本音を心の奥深くに押し込んで、アダムは絶句しているディランにそっと口付けた。
【二章 了】
今度は耳や首筋に舌が這い出して、ゾワゾワと肌が粟立つ。獣人と違い毛皮のない肌や薄い耳は柔らかな肌質も相まってクセになるものなのか、そういえば前の飼い主たちもしつこく舐めようとしていたと思い出した。
これも、昔の飼い主が言っていた獣人の本能とやらなのだろう。
実験動物及び薬の素材でしかないヒトの子どもなんかに感情移入して愚かなことをしてしまうほど、優しすぎて情けない「ドクター」。彼にもそういう欲があるのだと、身体を重ねるたびに知っていく。
だが。
「……はっ……ドクター……」
「ん……?」
柔らかく耳を甘噛みし続けているディランの肩を軽く押す。あまり牙を当てないようにしながら喰まれていたため、微塵も痛みはなかった。
ただ、爪の丸みに気付いた時と同じ気持ちになる。
「なんで、あなたはそんな……」
「え?」
「……いえ。なんでも、ないです。どうぞ、お好きに続きを」
乱れた髪を改めて耳に掛け直し、ディランがまた舐めやすいようにと差し出した。
ディランはしばし戸惑った顔でアダムの様子を伺っていたが、頑なにそれ以上なにも言わずにいれば、やがて諦めたようにそっと手を伸ばしてきた。
きっと、彼にあるのは欲だけではない。
自分への大きすぎる負い目があるからこそ、ディランはアダムの駆け引きに応えた。
その結果として本能が引き出されてしまっただけで、彼がこうして妙に優しく自分に触れるのは——こんなことをするしか生き伸びる術がない「可哀想なヒトの子」への哀れみだ。
「ッん……あ……っ、はぁ……」
耳を甘噛みされながら服の上から身体を撫で回され、じわじわと下腹部に熱が溜まっていく。口からは勝手に吐息混じりにか細い声が漏れる。
「……っあ、ッあ……ぅ……!」
手のひら全体で胸元を撫でられると、硬くなった突起が服ごと擦れて身体に甘い痺れが走った。
生理的な涙で世界が滲む。今は、却ってそれでよかったと思った。哀れみを含ませた視線など直視したくはない。
「っ、ドクター……、ッ!」
「ん……っ」
呼びかけた途端、腰を引き寄せられ下腹部同士が深く密着する。反射的にディランの首元に抱き付くと、腰を支えているのと反対の手で片脚を持ち上げられた。
そのまま膨れ上がった熱同士を擦り合わせる動きで揺さぶられる。
「っあ! あ……ッドク、ター、っ……⁈」
「……はっ……、あんまり、君に、無理ばかりさせられないから……っ」
今日はこれで、と囁かれた耳元が妙に熱かった。
「ひ、ぅ……! ッ、あ、あ——」
強烈ながら決定的ではない、たまらなく半端な快感が、互いが擦れ合うたびに脳を焼く。
片脚が地についていない不安定な体勢のせいでディランに咄嗟に縋りついてしまっては、またより強く密着する羽目になった。
「あっ、ァ、……ッ! ん、んっ、……くっ……!」
徐々に押し付けられる腰の動きが激しくなって、視界が瞬く。触れ合っている箇所から響く淫熱が脳髄を駆け抜けて、なのになかなか絶頂には至れない。
無理をさせたくないなどと彼は言ったが、剛直で奥を突かれるのとはまた違った辛さがある。その上もどかしさに縮こまり震えるアダムに追い打ちをかけるように、腰を支えていたディランの手が服の上から臀裂をなぞった。ほどなく後孔を探り当て、ぐっと指先を押し込むようにして刺激される。
「あっ、ん——……!」
たまらず、ディランの首筋に額を押し付けて耐える。
頭上から彼の荒い吐息が落ちてきて、擦り付けられる雄がより膨らんだのを感じた。
むず痒さを感じるまでの優しい扱いの中に、今にも本能に負けそうな危うい乱暴さが潜んでいると分かる。
——さっさと、負けてしまえばいいのに。
真っ白に飛びそうな頭の奥で、そんなことを思った。
どうせその優しさはただの哀れみなのだから。
負い目に漬け込んで利用しようなどと浅ましい考えで近付いたとて、所詮は弱者の底辺たるヒトだ。獣人に教えられた男娼まがいの色仕掛けしかできることはない。そんな「可哀想」なだけのヒトのことなど、本能まかせに壊してしまえばいいのに。
「ッ、ぅあっ、あっあっ……——ッ!」
「くっ……、……!」
やっと訪れた絶頂の波は、焦らされたぶん大きい。
熱を吐き出してもまだ身体の内で激しく反響し、ビクビクと腰が戦慄く。
「は……ッ……あ、……」
「っ、アダム!」
やがて指先の力が抜け、捕まっていられなくなった。
ずるりと手が滑りバランスを崩しかけたところをディランが慌てて支えてくれて、アダムは霞む視界の中で緩慢に彼の顔を仰ぎ見る。
「ごめん……。このほうが君に負担がないと、思ったんだけど……。今日は、怪我もしてたし……」
心底申し訳なさそうに覗き込んでくるものだから、思わず笑いたくなってしまう。
獣人の本能になど、彼が負けるはずがない。そんなものに身を委ねられるような、いやな意味での強さは彼にはない。
優しくて、弱くて。だからこそ苦しんで、その場凌ぎの道を咄嗟に選んでしまう。そのせいで完全に正しくも在れず、かと言って悪にも染まれない。何にもなれない半端者。それを開き直れもせず、同じようなことを繰り返し延々と悩み続ける。
そんな、どこにでもよくいるごく普通の獣人でしかないのだから。
——ずっと、ずっと、そうだ。
心配気な顔に首を振って見せ、大丈夫ですからと小さく答えた。
ディランはそれでもあまり納得していないようだったが、とりあえずいつまでもこうしていてはと思ったのかアダムを抱え上げてバスルームのほうへと歩き出す。
何も言わずに大人しく抱えられ、アダムは頬に触れる透き通った白い毛並みにそっと顔を埋めた。昔もよくこうして抱きかかえてくれたことを思い出し、唇を噛む。
——あなたこそ、可哀想な獣人だ。
——あなたは、あの無機質で完璧な【楽園】になど相応しくはなかった。
——ヒトの犠牲を仕方ないと思えなかったあなたは、真実を知っているには軟弱すぎた。もっと普通の、平凡な、ありふれた場所にいられればよかったのに。
そうしたらきっと、こんな面倒なことに巻き込まれてなんていなかったのに。
信じていた相手に捨てられたという暗い澱みを勝手に抱え、道も分からずもがくだけの哀れなヒト。そんなものに足を引っ張られ罪を犯すことなど、なかったのに。
「アダム」
「……はい」
急に声をかけられ、そこで初めてアダムは自分は半ば夢うつつにいたことに気が付いた。
靄がかかったように意識がふわふわとしていて、「これ、まだ痛いかな?」と訊ねられても何のことだかすぐには分からない。
遅れて、ディランが自分の右手を見ていると理解した。このことか、と絆創膏の下の切り傷を思い出す。
「痛く、ないです。もう」
「……そっか。でも、念のためお風呂のあとでまた貼り直そうね」
必要ないとは思ったが、どうでもいいかとひとまず頷いた。頷いたと思う。どうにも頭が回らない。
これ以上は喋ろうとしないほうがいい、とアダムは思った。このままだときっと、余計なことを話してしまうだろう。
脱力し無言になる様子をよほど疲れたのだと取ったらしく、ディランは再び「ごめんね」と眉を下げた。
——ああ。気付きたくなかった。
絆創膏を貼ってもらった右手をギュッと握り込み、目を閉じる。
——本当は、何があっても俺は結局あなたを心底憎むなどできない。
——ずっと変わらず、昔のまま。あなたのことが好きなままなんだ。
今さら分かってしまっても、後戻りなどできない。
影の中に潜む死んだ仲間たちが今も見ている。そしてジェッタを守るために、何でもすると決めた。ならば自分にできることはこれしかない、その事実は変わらないのだから。
復讐を兼ねて大嫌いな相手を利用しているだけ、そんな振る舞いを続けるしかない。
ディランはずっと、自分を含めヒトのことを可哀想な存在だとしか思っていない。こんな本音を曝け出したところで、余計に哀れませてしまうだけだろう。
そんな目で見られ続けるくらいなら、このままがいいに決まっている。
握り締めた爪が手のひらに食い込む。その痛みに、少しずつ頭が冷えてきた。いま優先すべきは何だと自分に問いかける。屈託のないジェッタの笑顔が瞼の裏に浮かんで、スッと胸の澱みが引いていった。
「……アダム? 起きてるかな……?」
あまりに静かなアダムに、寝落ちてしまったと思ったのか。ディランが控えめに声をかけてきたから、今度はしっかりと頷いてみせる。
「はい。……ちゃんと目は覚めていますよ、ドクター」
「あ、よ、よかった……大丈夫?」
「ええ。でも……あなたこそ、大丈夫ですか?」
「えっ? 僕……?」
「あの程度ではご満足いただけなかったでしょう?」
伸び上がって耳元に囁けば、面白いくらいにその巨躯が硬直した。
図星だろうがただ驚いただけだろうが、そんなことはどうでもいい。首に腕を回してしなだれかかり、うっすらと微笑んでその顔を見上げる。
「何度でも、どうにでも。あなたのお好きにどうぞ」
「っ、——」
——ほら。またそうやって傷付いた顔をする。
指をさして笑ってやりたくなる。ディランだけでなく、自分のことも。
本当は、だなんて。
持たざる者がそんなことを考えるだけ無駄なのだ。
澱む本音を心の奥深くに押し込んで、アダムは絶句しているディランにそっと口付けた。
【二章 了】
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