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第26話 ブランシュの手土産
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「レヴィン。この熾天使は誰だ?」
竜種とは思えない愛玩動物のようなフォルム。それに似合わず、地竜ミショウをボコボコにするほどの圧倒的な力は、ゴセキの山では恐怖の象徴になっている。
しかし、ブランシュとの光景を目の当たりにすれば、俺は苦笑いするしかない。今までの印象が、全て崩れてしまっている。
「あっ、ああっ、その、俺の新しいダンジョンマスターだ。サージって、ザキさんにも熾天使の知り合いがいたんだな?」
「うんっ、フジーコはどうした?あの役立たずは、ついに死んだか」
天使ではなく熾天使となれば、ダンジョンマスターくらいしかいない。しかし、俺はサージという名の熾天使は知らない。
ザキーサは気まずくあるのか、俺の素朴な疑問を無視してくる。そして、あからさまに不機嫌そうな声を出してくるのも、フジーコの印象が悪いだけでなく誤魔化しているようで、これ以上は突っ込めない。
「残念だけど、まだ生きている。第6と第7ダンジョンはブラックアウトを起こしたんだ」
「ブラックアウトだと?」
「ああ、そうだ。第6ダンジョンは辛うじて全壊を免れたから、フジーコはまだ生きている」
「ふんっ、災厄を受けて生き残るとは、しぶといとしか言えんの」
フジーコも歴とした熾天使で、3対6枚の翼は力の証でもある。ザキーサにような古代竜ならともかく、下位の竜種程度では相手にならない力を持っている。神々から授かった熾天使の力は、それほどまでに強い。
「それで、熾天使を連れて何しに来た?」
再びザキーサは、ブランシュの方を見ているが、視線は明らかに右手に釘付けとなっている。ブランシュが手にしているのは、先とは違うクッキー。
「ううっ、その禍々しい黒の斑点は……。余の力を持ってしても抗うこの出来ぬとは。恐るべし魔道具よ」
ザキーサの尾が、喜びの感情を爆発させる子犬のようにブンブンと揺れる。翼がパタパタと動くと、再びブランシュの方へと吸い寄せられてゆく。
「これはね、チョコチップクッキーよ」
「ほう、チョコチップクッキーとな」
「でもね、待て。待てよ!」
ブランシュが右手のチョコチップクッキーを見せつけながら、左手を前に突きだして広げる。
「ぬうっ、何故待てなのじゃ。イイではないか?」
「ダメよ、待てっ!」
ザキーサはブランシュの前で静止するが、ブンブンと振る尻尾の勢いは増している。
「よし、お利口ね。いいわよ」
そして、再びザキーサの餌付けが始まる。ザキーサが喜んでいるのだから問題ないのだろうが、ブランシュが気にしていた礼節とは違う気がする。
最後にブランシュが水筒を取り出すと、ザキーサはそれを器用に咥えて飲んでいる。香りからして、紅茶で間違いない。
「イスイの森のダンジョンマスター、ブランシュよ」
「イスイの森……始まりのダンジョンのことかの?」
「そうよ、永き時を経て新しく再生したの」
ザキーサの鋭い視線がブランシュに向けられるが、ブランシュはそれを涼しい顔で受け止めている。
「うむ、悪くない」
そして、ブランシュとザキーサが同時に俺の方を見る。熾天使と古代竜の違いはあるが、何か企んでいる時に似た表情になる。
「絶対、ダメ!拾って帰るのも、後を付いてくるも両方とも、絶対にダメだ」
ザキーサはブランシュの足元に擦り寄り、ブランシュは両手でザキーサを抱え上げる。
「小さいから大丈夫よ。ダンジョンに居ても邪魔にはならないわ」
「そうだ、余に相談があって来たのだろ。今なら、何でも願いを叶えてやるぞ」
「古代竜が居るダンジョンなんて聞いたことがないぞ。バレたら大騒ぎになる」
「第6ダンジョンの中で飼うから心配ないわ。それなら絶対にバレないわよ」
「そうだ心配はいらん。余はダンジョンで暮らしておったのだ。そうだ、余はマイホームに帰るのだ。それならば問題なかろう」
「そんな見え透いた嘘が通用すると思ってるのか?」
「それならば、証拠を見せてやるわい」
ザキーサの目の前の空間が歪むと、ポッカリと小さな穴が出来上がる。
「アイテムボックスか?」
「驚くのは、これからよ」
そしてアイテムボックスから飛び出してきたのは、小さな丸い塊。
竜種とは思えない愛玩動物のようなフォルム。それに似合わず、地竜ミショウをボコボコにするほどの圧倒的な力は、ゴセキの山では恐怖の象徴になっている。
しかし、ブランシュとの光景を目の当たりにすれば、俺は苦笑いするしかない。今までの印象が、全て崩れてしまっている。
「あっ、ああっ、その、俺の新しいダンジョンマスターだ。サージって、ザキさんにも熾天使の知り合いがいたんだな?」
「うんっ、フジーコはどうした?あの役立たずは、ついに死んだか」
天使ではなく熾天使となれば、ダンジョンマスターくらいしかいない。しかし、俺はサージという名の熾天使は知らない。
ザキーサは気まずくあるのか、俺の素朴な疑問を無視してくる。そして、あからさまに不機嫌そうな声を出してくるのも、フジーコの印象が悪いだけでなく誤魔化しているようで、これ以上は突っ込めない。
「残念だけど、まだ生きている。第6と第7ダンジョンはブラックアウトを起こしたんだ」
「ブラックアウトだと?」
「ああ、そうだ。第6ダンジョンは辛うじて全壊を免れたから、フジーコはまだ生きている」
「ふんっ、災厄を受けて生き残るとは、しぶといとしか言えんの」
フジーコも歴とした熾天使で、3対6枚の翼は力の証でもある。ザキーサにような古代竜ならともかく、下位の竜種程度では相手にならない力を持っている。神々から授かった熾天使の力は、それほどまでに強い。
「それで、熾天使を連れて何しに来た?」
再びザキーサは、ブランシュの方を見ているが、視線は明らかに右手に釘付けとなっている。ブランシュが手にしているのは、先とは違うクッキー。
「ううっ、その禍々しい黒の斑点は……。余の力を持ってしても抗うこの出来ぬとは。恐るべし魔道具よ」
ザキーサの尾が、喜びの感情を爆発させる子犬のようにブンブンと揺れる。翼がパタパタと動くと、再びブランシュの方へと吸い寄せられてゆく。
「これはね、チョコチップクッキーよ」
「ほう、チョコチップクッキーとな」
「でもね、待て。待てよ!」
ブランシュが右手のチョコチップクッキーを見せつけながら、左手を前に突きだして広げる。
「ぬうっ、何故待てなのじゃ。イイではないか?」
「ダメよ、待てっ!」
ザキーサはブランシュの前で静止するが、ブンブンと振る尻尾の勢いは増している。
「よし、お利口ね。いいわよ」
そして、再びザキーサの餌付けが始まる。ザキーサが喜んでいるのだから問題ないのだろうが、ブランシュが気にしていた礼節とは違う気がする。
最後にブランシュが水筒を取り出すと、ザキーサはそれを器用に咥えて飲んでいる。香りからして、紅茶で間違いない。
「イスイの森のダンジョンマスター、ブランシュよ」
「イスイの森……始まりのダンジョンのことかの?」
「そうよ、永き時を経て新しく再生したの」
ザキーサの鋭い視線がブランシュに向けられるが、ブランシュはそれを涼しい顔で受け止めている。
「うむ、悪くない」
そして、ブランシュとザキーサが同時に俺の方を見る。熾天使と古代竜の違いはあるが、何か企んでいる時に似た表情になる。
「絶対、ダメ!拾って帰るのも、後を付いてくるも両方とも、絶対にダメだ」
ザキーサはブランシュの足元に擦り寄り、ブランシュは両手でザキーサを抱え上げる。
「小さいから大丈夫よ。ダンジョンに居ても邪魔にはならないわ」
「そうだ、余に相談があって来たのだろ。今なら、何でも願いを叶えてやるぞ」
「古代竜が居るダンジョンなんて聞いたことがないぞ。バレたら大騒ぎになる」
「第6ダンジョンの中で飼うから心配ないわ。それなら絶対にバレないわよ」
「そうだ心配はいらん。余はダンジョンで暮らしておったのだ。そうだ、余はマイホームに帰るのだ。それならば問題なかろう」
「そんな見え透いた嘘が通用すると思ってるのか?」
「それならば、証拠を見せてやるわい」
ザキーサの目の前の空間が歪むと、ポッカリと小さな穴が出来上がる。
「アイテムボックスか?」
「驚くのは、これからよ」
そしてアイテムボックスから飛び出してきたのは、小さな丸い塊。
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