精霊のジレンマ【閑話集】

3.ムーアの憂鬱

　今日も神々の愚痴が聞こえてくる。
　酒には、神々の声を聞き邪気を祓う力がある。

　私は酒の精霊ムーア。

　アシスに酒が出来た時に、私も生まれた。色々なものから酒がつくられ種類も数多。

　それ以上に増えるたのが、聞こえてくる神々の愚痴。直接どうしろとは言ってこないが、一回始まると中々終わらない。

　あんな味がイイ、こんなのは出来ないの？

　私は確かに最古参の精霊。だけど数は多くはないけど他にも精霊は居る。それなのに私ばかりに、愚痴が聞こえてくる。

　神々も何かを勘違いしている。私が酒を造るのではない。あくまでも酒を造るのは、アシスの世界で生を受けた種族たち。
　中でもオニ族とドワーフ族は、酒が好きな種族達。
　特にオニ族は、魔力適正は低いものの酒を造る適正は高い。

　私が出来る事は、適正の高い種族を導く事だけ。それとなく方向性や可能性を示し導く。そこから何をどうするかは、その種族次第。

　そして私はオニ族を導き、ヒケンの森での酒造りに成功する。御神酒へと進化し、神々からはオニ族がこの地で生きるための加護を与えられた。
　お褒めの言葉の１つでもあっても良かったと思うけど、神々の愚痴も聞こえなくなった。これで静かに過ごせる。

　しかし、静かな時は永く続かなかった。再び神々の声グチが聞こえ始める。

　神々は分かっているのだろうか？

　獣以外住まないヒケン森へは、水を求めてきた。しかしヒケンの森は、この世界でも外れの地。
　魔力適正の低いオニ族ではこの地で生きるだけで精一杯だったが、与えられた加護によってオニ族は力は更に弱くなる。
　必死に生きなくても、この森で暮らせてしまうから。

　これ以上の成長は望む事が出来ない。神々は、１００年・２００年と気長には待ってくれないだろう。愚痴を聞くのも疲れたし、そろそろ覚悟を決めるしかない。


　そして目の前で現れたのは、迷い人のカショウ。
　理屈っぽそう、細かそう、だけど何か惹かれるものを感じる。今しかない、これを逃してはいけない予感。

　そして、私は神々に宣言する！

『新たな酒が欲しければ、邪魔をするな！私は、私の思うように生きる』