精霊のジレンマ

さんが

文字の大きさ
66 / 329
タカオの街のドワーフ

66.奥の手

しおりを挟む
再び、鉱山の中へと侵入する。

何体かのコボルトは廃坑の中に逃げ込んだ。坑道の入口はコボルトで臭いで満ちているので、自分達の臭いを辿って坑道を戻る。

明かりの持っていないコボルトは坑道の深くまでは潜れない。比較的浅い場所の細い横穴に隠れている。

ふと疑問に思う。ここで、何が行われているのか?

ゴブリン達なら単純明快だった。自分達の種族を増やし、縄張りを拡げる。精霊達の魔力を源とし、邪魔となるオニ属を排除する。

リズやリタと同じで、ミュラーも石柱から魔力を吸い取られ、コボルトをポップアップしていたのは間違いない。しかしポップアップしたコボルト達は違った。石柱に縛られたミュラーを囲んで何をさせられていた?

「コボルトが近付いてこないなら、無視して先に進もう」

統率者のいなくなったゴブリンのように、今は混乱状態にあるのかもしれない。そして、ここはコボルトの巣穴の中。時間が経てば集団をつくって襲ってくる可能性もある。それでも、先を急ぐ選択をする。


「何が違うんだ?」

ボソッと独り言が漏れる。そして、ムーアは聞き逃さない。

『何か気になるの?』

「どうやったら、襲われるんだ?」

『何言ってるの?さっき襲われたばかりでしょ!』

「俺達じゃなくてラップ達はどうやったら、タカオの街近くで襲われたんだ?荷車を引いて戦いながら、タカオの街まで辿り付けると思うか?」

『私たちより弱いラップ達では無理でしょうね』

「本当なら鉱山から脱出出来たとしても、山の麓近くで殺されているだろ」

『何か意図があるっていうの?』

「魔物達の中に異変を知らせようとする者がいるのか、それとも最初から誰かを嵌めようとしていたのか?」


そんな話をしている内に、分岐地点まで戻ってきた。片方はミュラーがいた大部屋に続き、もう片方は地上にいたコボルトが残した臭い。恐らくは坑道の最奥へと続く。
鬼が出るか蛇が出るか、今度は坑道の最奥を目指して進む。

しばらくしてクオンが何かを探知する。生き物か何かは分からないが、何か動く音がする。そして、再び分岐点が現れる。

「はぁっ、また一緒か」

『ため息つかないの』

「精霊を助けに行けば、精霊ごと生き埋め。コボルトの大ボスを選べば、精霊は生き埋めにしますよ。最悪の2択だよな」

『どっちを選ぶの?』

「どっちも選ばないかな」

『それじゃあ、どうするの?引き返すの?』

「奥の手を使おう!」


大部屋を脱出する際に、ハンソの出した岩を一瞬にして砂に変えたフォリーの陰魔法“シェイド”

「フォリーの“シェイド”で抜け穴を掘ろう!」

精霊達の目が少し冷たい。

『自分だけ分かってないで、納得出来るように説明しなさいよね!』

ムーアに少し怒られるが、気になる事はちゃんと言ってくれる存在は貴重に思う。

「どうして俺達がミュラーの居た大部屋に入った事が分かったと思う?クオンの探知には何も引っ掛からないし、誰かに見られている可能性は低い!」

『そうね、クオンに探知されないとなると、レイスとか限られた魔物くらいね』

「そうなると俺達が最初に出会ったのは何になる?小部屋に居た石像みたいなコボルト。部屋に侵入しコボルトが動き出すと、術者は分かるようになっているんじゃないか?」

『魔法で出来ない事は無いけど、確証はないわよ』

「俺たちの位置や行動が分かってるなら、慌てて引き返す事もないだろうし、最初から生き埋めにするだろ。もし次の部屋の前にも、同じように小部屋があったらどうする?可能性は低くはないと思うな!」

『面白そうね、やってみる価値はあるわね♪』

「そうと決まれば先を急ごう、少しでも早いほうがイイ!」


そして、坑道の奥にあった部屋はミュラーの時と同じ。小部屋があり、中には10体のコボルト。そして小部屋の奥には、大部屋が見える。

「フォリー、頼む!」

「かしこまりました」

影からフォリーが現れて、大部屋に繋がる抜け穴をつくる。なるべく時間はかけたくないので、ソースイには悪いが少し小さめの穴になる。

「シェイド」

そして、相変わらずの凄い性能の魔法。触れた瞬間に、硬い岩壁が砂のように崩れていく。射出する速度が少し遅くはあるが、本来の用途は見に纏ったり、接近戦で使う魔法なのかもしれない。

そして、小部屋を迂回して大部屋へと続く通路が完成する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)

愛飢男
ファンタジー
最強の攻撃、それ即ち超硬度超質量の物体が超高速で激突する衝撃力である。 ってことは……大型トラックだよね。 21歳大型免許取り立ての久里井戸玲央、彼が仕事を終えて寝て起きたらそこは異世界だった。 勇者として召喚されたがファンタジーな異世界でトラック運転手は伝わらなかったようでやんわりと追放されてしまう。 追放勇者を拾ったのは隣国の聖女、これから久里井戸くんはどうなってしまうのでしょうか?

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

処理中です...