精霊のジレンマ

タカオの街のドワーフ

65.黒幕

コボルトを抜けた先にいるのは、下半身がヘビ型で上半身は女性のヒト型の魔物。緑色の髪に、肌は紫色がかっている。

ムーアの顔が厳しい表情に変わる。

『あれは、ラミアよ』

コボルトを突破して、こちらは数的優位の状況にある。それにも関わらず、不敵な笑みを浮かべるラミア。魔物の中でも中位クラスで、この辺では現れた事がない。

「お前も、私の駒になるがイイさ！」

ラミアの目が妖しく光る。

「テンプテーション」

目の前が一瞬暗くなる。何が起こったかが分からないが、魅了されたのだろうか？
目の前が明るくなり視界が戻る。俺の視界を塞いだのは、純白の翼。

「何故、私の魅了が効かない」

動揺をみせるラミアに、リズとリタが純白の翼を大きく拡げて見せつける。

「リズとリタか、ありがとな」

「クソッ、テンプテーション」

再度、俺を魅了しようとしたが、純白の翼が１度羽ばたくとテンプテーションの魔法を無効化してしまう。

「何故だ、お前は何者だ！」

「ただの迷い人だよ、しかもハズレの方だな」

「そんな訳ないでしょっ！」

逆に挑発されて、激昂してしまうラミア。ヘビの下半身をバネに、真横に飛ぶと狙いを変えてくる。

「テンプテーション」

狙われたのは、ハンソ。俺達の中でも、狙いやすく見えたのだろう。

「エトッ、エトッ」

「さあ、私の言うことを聞きなさい。こいつらを、叩きのめすのよ！」

「ントッ、ントッ、ントッ」

「早く、殺ってしまいなさい！」

「エトッ、エトッ、エトッ」

「どうなってるの、何故効かないの？あなた達は何者？」

「あのさ、ハンソには十分に効いてるぞ。上半身素っ裸のお前が出てきただけで、緊張して動けなくなってるのに、そこに魅了したらどうなるか分かるだろ」

「馬鹿にしてるの。そんな精霊がいるわけないわ！」

『酔眼朦朧』

ラミアが、とろんとした目付きになり焦点が定まらない。

『これで魅了は使えないから、今の内よ』

「ダーク、行くぞ！」

２本のマジックソードが動き、心臓を貫き首を刎ねる。蛇の生命力のせいなのか、身体をくねらせ動き続ける。
近付くと何かに巻き込まれそうな気がして、遠巻きに離れて様子を見ていたが、ウィプス達のサンダーボルトを浴びて消滅していく。

残ったのは２つの眼球。これがラミアの魔石になる。魅了などの精神に影響を与える魔石は少ない為、価値がある魔石になるようだ。

そしてラミアが消滅した事により、コボルトの魅了が解けていく。

「これは、どうなると思う？」

『さあ、どうなるのかしらね♪』

「街に向かうコボルトは止めるぞ！」

大半のコボルトは山の中へと逃げ出すが、一部は街へと向かって逃げ出す。ブロッサがポイズンミストで壁をつくって道を塞ぎ、ウィプス達が山を下ったコボルトを追いかける。
残る俺達は少しでも多くのコボルトを倒す事に全力を尽くす。

街に向かって逃げ出したコボルトは、全部止めることが出来た。大半は山の中へと逃げ込み、鉱山の中へと逃げ込んだコボルトは少数。
抜け穴から鉱山の中へと戻るコボルトも出てくるだろうが、今の逃げ方を見ると少ないだろう。残すは鉱山の最奥のコボルトとドワーフ、それに捕らわれている精霊。

「ムーア、ラミアって何者なんだ？」

『私も話でしか知らないわよ。この辺では下位クラスの魔物しか出ないし、中位クラスなんて滅多には見られないわよ。それこそ、ゴセキ山脈やダンジョンの中層以降に生息するような魔物よ。』

「ラミアに上位種は居るのか？」

『ラミアに上位種が居るとは聞いたことはないわね。ただ、あまり知られていない存在だから断言出来ないわ。知りたいなら、ダンジョンのあるような大きな街に行くしかないでしょう』

「そんな街があるのか？」

『昔と変わらないなら、ダンジョン街はあるわよ。魔石は利益をもたらすから、どうしても人は集まるわ』

「そんな所でよく暮らせるな。オニ属の村みたいに結界でもあるのか？」

『ダンジョンの魔物は、滅多に外には出てこないのよ』

「そこでは魔石を得る為の存在が魔物になるのか」

手にあるラミアの魔石を見ると、何とも言えない気分になるが、今は考える時ではない。
まだ間に合うなら、精霊達を助けよう。まずは俺が生きていないと、何も始まらない。

『また難しい顔してるけど大丈夫？』

「ああ、目の前の捕らわれている精霊だな」