精霊のジレンマ

さんが

文字の大きさ
128 / 329
迷いの森の精霊

128.ヘカトンケイル

しおりを挟む
巨大な木といっても複数の木々が集まった集合体なので、それぞれから出ている枝は普通の大きさでしかない。
幹は太くなっているが、それから伸びる枝は細く見えアンバランスな姿形をている。

巨大な木の周りにはヘカトンケイルの姿は見えないとなれば、残るのは上しかないだろう。

「クオン、何か居るのが分かるか?」

“落ちてる、今”

「やっぱり上か」

この木の高さは1番高いところで100mはあるだろうか?上を見上げると大きな塊が降ってくるのが見える。
無数の手らしきものが見えるので、ヘカトンケイルである事は間違いないが、無数の手のせいで重心は上半身へと偏り頭から落下している。
少しでも落下の速度を落とそうと、手をバタつかせ枝を掴もうとしているが、巨体に対して枝はあまにも細すぎる。

「この木に宿った精霊のくせに、この木を傷付けているんじゃない?」

『残念な精霊かもしれないけど一生懸命そうよ。このまま見てるの?』

「ソースイ、ゼロ・グラビティの出番だぞ」

落ちてくるタイミングを見計らっていると、ヘカトンケイルが幹に手を伸ばして掴み始める。何本かの手が幹に触れるが、若干減速となっただけで落下を止める事は出来ない。

「ゼロ・グラビティ」

なるべく上方で魔法を発動させ、それと同時に黒翼から風を送り、少しでも落下の勢いを殺す。
風魔法を使って落下速度を落とす事も考えたが、精霊樹の杖の制御は難しく威力が強くなり過ぎれば、幹や枝葉にダメージを与えてしまう。

ドオオォォーーン!

「やれるだけの事はやった」

『そうね、光の精霊をヘカトンケイルに見せる約束はしたけど、落下するヘカトンケイルを助ける約束はしていないわ』

それなりに減速もしたが、あの加速を止める事は出来得るべくもなく身体は地中にめり込んでいる。

「死んでないよな」

『精霊だから、死なないわよ。存在が限りなくなくなるだけで!』

恐る恐る覗いてみと、無数の腕がモゾモゾと蠢いているのが気味が悪いが、存在は消滅はしていないようだ。
ヘカトンケイルは予想通りトレントの集合体のようで、腕も身体も樹皮で覆われている。そして身体中には無数の瘤があり顔のような形をしている。

1つの瘤の顔と目が合ったような気がして、反射的に言葉が出てしまう。

「大丈夫か?」

「やあ、手を貸してくれるか?」

ヘカトンケイルの手が一斉に、俺へと向かってくる。まるでホラー映画のワンシーンのようで、1つの手を掴むと他の手も一斉に掴みかかってきて引きずり込まれるような気がする。
それに俺の倍以上の身長があるヘカトンケイルに俺1人では助けてはやれない。

「皆、手伝ってくれ」

そう言って、ヘカトンケイルに手を差し出すが、他から差し出される手は無い。
物凄い力で引き寄せられるのに耐えながら、慌てて後ろを振り向くと、精霊達の姿は消えソースイとホーソン、チェンは後退りしている。

「早くしろーっ!引き込まれるっ!」

慌てて3人が駆け寄り、ヘカトンケイルに手を差し出す。1つの手に群がるのは複数の手だけではなく、蔓や蔦のようなものが伸びて腕へと絡み付いてくる。それは腕から身体、頭へと伸びてくる。
終わったかもしれないと覚悟を決めた瞬間、ムクッとヘカトンケイルの身体が起き上がり、握られた手や腕も力から解放される。

「誰か分からないけど、助けてくれて有り難う」

「いや、どういたしまして。迷い人のカショウです」

見た目の奇怪さからは想像出来ない明るい声で、フレンドリーな感じで接してくる。
初めて合うのに急に距離を詰められたら、逆によそよそしい態度で返してしまうのは仕方ないと思う。

ただそれ以上に50頭に100手がどうしても気になってしまう。間違いなく数は少なく半分もない。目で数えているのがヘカトンケイルにもバレてしまう。

「おや、気になるかい。今は20頭に40手だよ。全部出したら動けなるしね、3交代制なんだよ」

「あ、はい、全部で60頭120手なんですね。イロイロと事情があって大変なんですね」

「それにしても、珍しいね。ヒト族がこんな森の奥までよく来たね!もしかして、魔樹の森を抜けてきたのかい?」

「守護者のキマイラから頼まれたんですけど、光の精霊を探してますか?」

そして光の精霊リッターを召還すると、ヘカトンケイルの表情が変わる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)

愛飢男
ファンタジー
最強の攻撃、それ即ち超硬度超質量の物体が超高速で激突する衝撃力である。 ってことは……大型トラックだよね。 21歳大型免許取り立ての久里井戸玲央、彼が仕事を終えて寝て起きたらそこは異世界だった。 勇者として召喚されたがファンタジーな異世界でトラック運転手は伝わらなかったようでやんわりと追放されてしまう。 追放勇者を拾ったのは隣国の聖女、これから久里井戸くんはどうなってしまうのでしょうか?

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

処理中です...