142 / 329
クオカの洞穴の死霊
142.エルフ族族長コアピタンス
しおりを挟む
辿り着いたクオカの町は、野戦病院と化していた。
見える範囲のクオカの町には、大きな建物は見当たらない。どれもが木々や自然と同化し、何十人もの人が入れるような建物は見当たらない。
そのせいなのか、家屋の外には2~30人程の怪我人が溢れ出して寝かされている。怪我も完全には回復しておらず、命の別状がないといったところだろう。
そして怪我以上に魔力の消費も激しく、完全に底をついた状態からの回復では、しばらく時間がかかってしまう。傷が回復したからといってもすぐに動くことは出来ない。
「どうされましたか?」
俺の表情を見て、何か変なところでもありますかと、ダビデが聞いてくる。
「怪我人が多いみたいだけど、大丈夫なのか?」
「気にしないで下さい。先に族長のコアピタンスに通すように言われてますので」
これだけの怪我人がいることが通常かどうかは分からないが、外に溢れ出している事は誰がどうみても正常な状態ではない。
しかしダビデの表情は変わっていないので、これが最近の当たり前の光景になってしまっているのだろう。
そしてファンタジーの世界といっても、損耗率という概念はあるはず。いくら1つの絶対的な個の力で戦況が左右されようとも、残されたエルフ族自体が少なければ繁殖能力の低いエルフは存亡の機に立たされる。
そう考えると、森の木々によってクオカの町の全貌を見て取ることは出来ないものの、この森で暮らすエルフ族は想像以上に多いのかもしれない。
そして、野戦病院と化している家が、族長のコアピタンスの住居となる。大きめのログハウスのような形で、中からは治療が終わったエルフ族が運ばれてくるので、扉は開かれたままとなっている。
「ダビデです。言い付け通り、カショウ殿をお連れしました」
「構わん、入れ!」
中からしわがれた声がして、ダビデが中に入るように促してくる。
怪我人の治療が終わったのか、俺と入れ違いになるようにして、まだ傷だらけのエルフが外へと運ばれて行く。中に入ったのは俺1人だけで、ダビデも中へは入ってこない。
「貴方様が、フタガの岩峰からハーピーを追い出したカショウ殿ですね。私はこのクオカのエルフの族長をしております、コアピタンスと申します」
中にいたのは少女と壮年に見えるエルフの姿があるが、少女の姿はどこかで見た記憶がある。
「姫様が名乗っておるのに失礼ではないか?」
「爺、よさぬか。カショウ殿は迷い人。アシスとは違いも多くあろう。それに妾はカショウ殿に協力をお願いしたのだぞ!まさか妾の命令を違えてはおらぬであろうな?」
「私は常に姫様の為にお仕えしております」
壮年くらいには見えるエルフではあるが、エルフの中では年長者であるらしく爺と呼ばれている。ただ、姫様と爺の間では意見の食い違いはあるようで、俺達を呼ぶ手紙を送ってきたのは爺であるようだ。
「すいません。非はこちらにあります。迷い人のカショウです。ハーピーの責任を取るために参りましたが、ハーピーのどのような要件でしょうか?」
そこにムーアも現れる。
『お分かりだと思うけど、カショウと召喚契約をしている酒と契約の精霊のムーアよ。探している本人である事は、契約の精霊として保証するわ。ハーピーで何か問題があったのなら、私が立ち会い人となって正式な形で契約を行うから安心してイイわ』
「それは頼もしいですね。是非、契約をお願いしましょうか?爺も、よろしいですね!」
「私は常に姫様の為にお仕えしております」
同じ文句を繰り返す爺に、少しだけ辟易しているようでハッキリと表情に表れている。それに対して爺の方は、飄々として何を考えているか読めない。
「分かったわ。手紙の内容に間違いがあった場合は、この件に関して爺には口を挟ませない。契約を破った代償は、私のエルフ族族長としての地位よ。これで問題ないかしら?」
『分かったわ。それで十分よ!』
「姫様、待ってください。そんな契約などの必要はありませんぞ!」
「爺、命の危険があれば代償がエルフ族族長の地位なんて対当ではありません。これでもかなり良心的な契約ですよ。それとも、爺の命を代償としますか?」
『お決まりの“私は常に姫様の為にお仕えしております”は出ないようね』
「爺は下がっておれ。私はカショウ殿に協力をお願いする為にお呼びしたのだぞ」
見える範囲のクオカの町には、大きな建物は見当たらない。どれもが木々や自然と同化し、何十人もの人が入れるような建物は見当たらない。
そのせいなのか、家屋の外には2~30人程の怪我人が溢れ出して寝かされている。怪我も完全には回復しておらず、命の別状がないといったところだろう。
そして怪我以上に魔力の消費も激しく、完全に底をついた状態からの回復では、しばらく時間がかかってしまう。傷が回復したからといってもすぐに動くことは出来ない。
「どうされましたか?」
俺の表情を見て、何か変なところでもありますかと、ダビデが聞いてくる。
「怪我人が多いみたいだけど、大丈夫なのか?」
「気にしないで下さい。先に族長のコアピタンスに通すように言われてますので」
これだけの怪我人がいることが通常かどうかは分からないが、外に溢れ出している事は誰がどうみても正常な状態ではない。
しかしダビデの表情は変わっていないので、これが最近の当たり前の光景になってしまっているのだろう。
そしてファンタジーの世界といっても、損耗率という概念はあるはず。いくら1つの絶対的な個の力で戦況が左右されようとも、残されたエルフ族自体が少なければ繁殖能力の低いエルフは存亡の機に立たされる。
そう考えると、森の木々によってクオカの町の全貌を見て取ることは出来ないものの、この森で暮らすエルフ族は想像以上に多いのかもしれない。
そして、野戦病院と化している家が、族長のコアピタンスの住居となる。大きめのログハウスのような形で、中からは治療が終わったエルフ族が運ばれてくるので、扉は開かれたままとなっている。
「ダビデです。言い付け通り、カショウ殿をお連れしました」
「構わん、入れ!」
中からしわがれた声がして、ダビデが中に入るように促してくる。
怪我人の治療が終わったのか、俺と入れ違いになるようにして、まだ傷だらけのエルフが外へと運ばれて行く。中に入ったのは俺1人だけで、ダビデも中へは入ってこない。
「貴方様が、フタガの岩峰からハーピーを追い出したカショウ殿ですね。私はこのクオカのエルフの族長をしております、コアピタンスと申します」
中にいたのは少女と壮年に見えるエルフの姿があるが、少女の姿はどこかで見た記憶がある。
「姫様が名乗っておるのに失礼ではないか?」
「爺、よさぬか。カショウ殿は迷い人。アシスとは違いも多くあろう。それに妾はカショウ殿に協力をお願いしたのだぞ!まさか妾の命令を違えてはおらぬであろうな?」
「私は常に姫様の為にお仕えしております」
壮年くらいには見えるエルフではあるが、エルフの中では年長者であるらしく爺と呼ばれている。ただ、姫様と爺の間では意見の食い違いはあるようで、俺達を呼ぶ手紙を送ってきたのは爺であるようだ。
「すいません。非はこちらにあります。迷い人のカショウです。ハーピーの責任を取るために参りましたが、ハーピーのどのような要件でしょうか?」
そこにムーアも現れる。
『お分かりだと思うけど、カショウと召喚契約をしている酒と契約の精霊のムーアよ。探している本人である事は、契約の精霊として保証するわ。ハーピーで何か問題があったのなら、私が立ち会い人となって正式な形で契約を行うから安心してイイわ』
「それは頼もしいですね。是非、契約をお願いしましょうか?爺も、よろしいですね!」
「私は常に姫様の為にお仕えしております」
同じ文句を繰り返す爺に、少しだけ辟易しているようでハッキリと表情に表れている。それに対して爺の方は、飄々として何を考えているか読めない。
「分かったわ。手紙の内容に間違いがあった場合は、この件に関して爺には口を挟ませない。契約を破った代償は、私のエルフ族族長としての地位よ。これで問題ないかしら?」
『分かったわ。それで十分よ!』
「姫様、待ってください。そんな契約などの必要はありませんぞ!」
「爺、命の危険があれば代償がエルフ族族長の地位なんて対当ではありません。これでもかなり良心的な契約ですよ。それとも、爺の命を代償としますか?」
『お決まりの“私は常に姫様の為にお仕えしております”は出ないようね』
「爺は下がっておれ。私はカショウ殿に協力をお願いする為にお呼びしたのだぞ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
悪魔になったらするべきこと?
ファウスト
ファンタジー
剣と魔法の世界。そこで魔法を教える学校に通う主人公ルナ・フラウステッドは魔法使いに憧れてる女の子。次の進級で実技に行く段階になった彼女だったがどうしてか魔法を上手く使えない落第生となってしまった。そんな時、偶然にも雇われた家庭教師の先生が言う方法に運命を任せたところ・・・。
「悪魔になっちゃった!?」
悪魔に変化!だけでも中身はそのままの彼女の運命やいかに!
彼女を狙う影、彼女の体の行く末、それを見守る保護者たち。
彼女はいったいどうなってしまうのだろうか。
これは悪党から両親と自分の将来を守るために悪魔になった少女がその身の上と体の特殊さから
様々な騒動に巻き込まれるお話である。
異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)
愛飢男
ファンタジー
最強の攻撃、それ即ち超硬度超質量の物体が超高速で激突する衝撃力である。
ってことは……大型トラックだよね。
21歳大型免許取り立ての久里井戸玲央、彼が仕事を終えて寝て起きたらそこは異世界だった。
勇者として召喚されたがファンタジーな異世界でトラック運転手は伝わらなかったようでやんわりと追放されてしまう。
追放勇者を拾ったのは隣国の聖女、これから久里井戸くんはどうなってしまうのでしょうか?
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
現世に侵略してきた異世界人を撃退して、世界を救ったら、世界と異世界から命を狙われるようになりました。
佐久間 譲司
ファンタジー
突如として人類世界に侵略を始めた異世界人達。圧倒的な戦闘能力を誇り、人類を圧倒していく。
人類の命運が尽きようとしていた時、異世界側は、ある一つの提案を行う。それは、お互いの世界から代表五名を選出しての、決闘だった。彼らには、鉄の掟があり、雌雄を決するものは、決闘で決めるのだという。もしも、人類側が勝てば、降伏すると約束を行った。
すでに追い詰められていた人類は、否応がなしに決闘を受け入れた。そして、決闘が始まり、人類は一方的に虐殺されていった。
『瀉血』の能力を持つ篠崎直斗は、変装を行い、その決闘場に乱入する。『瀉血』の力を使い、それまでとは逆に、異世界側を圧倒し、勝利をする。
勝利後、直斗は、正体が発覚することなく、その場を離れることに成功した。
異世界側は、公約通り、人類の軍門に下った。
やがて、人類を勝利に導いた直斗は、人類側、異世界側両方からその身を狙われるようになる。人類側からは、異世界の脅威に対する対抗策として、異世界側からは、復讐と力の秘密のために。
この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~
夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。
全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった!
ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。
一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。
落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる