精霊のジレンマ

さんが

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クオカの洞穴の死霊

143.精霊樹の異変

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爺エルフを家の外にまで追い出すと、コアピタンスの表情が緩む。エルフらしくないといったら語弊があるかもしれないが、そこには族長としてあることの重責から解放された少女の姿がある。

どこがで会ったことがあるような気がするが、アシスに来てからエルフには会った事はないはず。思わず顔を見つめてしまう。

「どうしましたか?妾に見惚れましたか?」

その言葉にムーアだけでなく、影の中からもブレスレットの中からも視線を感じる。

「いや、どこかで会ったことがあるような気がしただけだ!」

しかし、そこでシナジーがエルフの姿となって現れる。白い姿なので分からなかったが、それはコアピタンスで間違いない。

「あら、霧の精霊さん。それは私の姿ね」

シナジーは頷くと、俺達の周りを踊るように舞い始める。

「私にはケモミミはないけど、これは契約者さんの趣味かしら?」

「俺は関係ない、霧の精霊シナジーの趣味だ。俺は何も言っていない!」

それでもコアピタンスは、俺の趣味趣向だと決めつけているっぽい。否定すればするほど肯定しているように見えてくるので、強引に話を変える。

「シナジーが姿を真似出来るという事は、フタガの岩峰に行った事が···?」

「ええ、ありますよ。私はトーヤとクオカを行き来していますからね。異変が起こっているのはクオカだけではない事も理解しているつもりです。カショウ殿には、この意味が分かりますよね」

コアピタンスが、あっさりと異変が起こっている事を認める。しかし、エルフ族が異変に関わっていない事の証明になるわけではなく、信用が出来るわけではない。

「ああ、そうみたいですね」

「そうですね、なかなか信用はしてもらえませんよね。ディードから精霊樹の話は聞いてますよね。それでも、まだ信用出来ませんか?それでは、精霊樹を見て話するしかないですね」

そう言うと、裏口から外へと抜けて俺達を精霊樹へと誘導する。

エルフ族の中でも、精霊樹に近付ける者は4人しかいない。コアピタンスと爺以外には2人だけになる。
そして、先に進むと黒い壁が見えてくる。それは魔樹の木々でつくられ幾重にも重ねる事で、隙間はなく中を伺い知るとこは出来ない。

壁の高さは、5m程で決して高いものではなく、森の高木よりも半分以下の高さでしかない。また精霊樹が見えない事から、精霊樹自体も高くない木であるようだ。
そして、周囲の木々には精霊樹を監視するようにエルフ族が配置されている。

「意外そうな顔をしてますが、驚かれましたか?」

「精霊樹を守っているようには見えなくて。まるで、精霊樹の扱いが魔物であるようにも見える」

「そうですよ、クオカの町は精霊樹を守っているのではありません。精霊樹を封じる為にこの町があるのです。精霊樹は全てのものに力を与えるわけではありません。また精霊樹が認めれたものには、種族を問わずに力を与えます。それが魔物であっても!」

「···なぜ、それを俺に教えるんだ?」

「貴方が、精霊樹に認められた存在だからです。そして貴方は、精霊樹の存在を避けて通る事は出来ない。それなら、最初から教えた方が話は早いでしょう」

「精霊樹の存在を理由にして、考える事を辞めさせてしまう。さもそれが正当な理由であるかのように行動してしまう。俺は好きな考え方ではないな」

「ええ、そうですね。だけど知っていた方が、早く判断出来ると思います。悩む時間が勿体無い、どちらかといえば効率の問題ですね」

「まだ精霊樹を見てもいないけど、すごい自信だな」

「それでは、見てから話を続けましょうか」

そう言うと、コアピタンスは魔樹の壁が水溜まりであるかのように軽く飛び越える。これくらい出来るのでしょうと、少し腕試しをされているような気がするが、それはダビデが担っていた役割なのだと今更ながらに気付く。

そして、壁の向こうは草木も生えぬ真っ黒な地面が広がる。原子爆弾が落とされた跡のような焦土と化した土地の中央はクレーターのように陥没し、そこにはポツンと白く輝くものがある。俺の持つ杖と同じ輝きで、それはまごうことなく精霊樹。

「この光景をみた感想は、どうですか?まだまだこれからも広がり続けるでしょう。避けて通れると思いますか?」

「これがクオカの異変なのか?」

「ええ、最近では精霊樹の周りに洞穴が出来ています」
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