精霊のジレンマ

さんが

文字の大きさ
172 / 329
クオカの洞穴の死霊

172.ゴブリンロード戦③

しおりを挟む
ゴブリンロードは、少しずつ王冠に近付いてゆく。しかし、何故かそれを止める気にはならない。

『大丈夫なの?』

流石に心配になったのか、ムーアがもう一度聞いてくる。

「大丈夫だろう。王冠は、“力を示せ”と言っている。大義名分や血統を示せとは言っていない」

『今のゴブリンロードには、力はないと言いたいの』

「ああ、リッター達の光が無くても勝てそうな気がする。オオザの崖で見た時のゴブリンロードじゃない。不完全な体だったけど、あの時の方が強い気がする」

『あら、私達も強くなってるのよ』

「それは分かってるよ。だけど黒剣は、もうゴブリンロードに力は貸してはくれない」

『その根拠な何なの?』

「最初に放った斬撃だけど、上位魔法が行使出来るくらいの魔力が込められていた」

『それにしては、簡単に防いでいたわよ』

「そうなんだ、込められた魔力程の威力はない」

俺の精霊樹の杖もソースイの漆黒の盾も、流した魔力を増幅してくれる。俺の場合は、魔力を増幅し過ぎて扱いが難しくなるが、魔力量の少ないソースイは漆黒の盾から受ける恩恵は大きい。

「漆黒の盾と対になる剣ならば、そんな効率の悪いマジックアイテムではないだろう。だけどオオザの崖で放った斬撃は違う。不完全な状態で復活したばかりで、そんな魔力を込めた攻撃が出来るとは思わない」

『そうね、でも推測でしかないわよ。あの時は魔力を感じとる事も出来ていないんだから』

「そうだな、精霊樹の杖にも漆黒の盾にも似た臭いを感じるんだ。杖と盾で、形や素材も違う。だけど共通する事が1つだけある」

『それは、何なの?』

「両方とも、所有者を選ぶんだ」

『漆黒の盾も所有者を選ぶの?』

「知らなかったのか?ホーソンと一緒に検証しているから間違いない。漆黒の盾のスキルが発動するのは、ソースイだけなんだよ」

『私に黙って、そんな危険な検証をしていたの?』

「その時は知らなかったから仕方がないよ」

精霊樹の杖は所有者を選び、認められない者は使うことを許されないだけでなく破滅をもたらす。何故黒く姿を変えられていたかは分からない。推測でしかないが、存在を隠すためなのか、それとも破滅をもたらす力を抑え込むためなのだろう。

そしてソースイの持つ漆黒の盾にも、精霊樹の杖と似た臭いを感じる。精霊樹の杖ほどではなくとも、所有者と認められなければ力を発揮しない。

「俺やホーソンが持つとただの盾でしかないが、ソースイが持つとスキル発揮してくれるんだ」

『漆黒の盾のスキルが、ゼロ・グラビティなの?』

「正確にはスキルの反転だと思う。ソースイのスキルが重さを増幅するなら、漆黒の盾は重さを減衰する。ただ、ソースイしか使えないから、これ以上は分からないけどな」

『まあ、嗅覚スキルなら信用は出来そうね』

だからゴブリンロードが、魔力任せの燃費の悪い攻撃をしてきた時点で、ゴブリンロードと黒剣の関係性は終わっている。
ゴブリンロードが黒剣を落としたのではなく、黒剣の方がゴブリンロードから離れる事を選んで不自然な落ち方をした。
目の前に現れた王冠を見て、簡単に黒剣を諦める事が出来るのだから、関係性が破綻するのも仕方ない事だろう。

『もう王冠に手が届きそうよ』

「心配ないさ。黒剣ですら力を貸す価値を認めていない者に、王冠が力を貸すとは思わない。ゴブリンの中じゃ、王冠や杖の方がキングとしての象徴なんだろ」

『そうね、精霊樹の杖は力だけじゃなく破滅をもたらすかもしれないのよね』

そして、遂にゴブリンロードの手が王冠へと届く。まともに黒剣の柄を掴むことすら出来なかったのに、吸い寄せられるように右手が王冠に届く。
もうゴブリンロードの顔は原型を留めておらず、左目は完全に外へと飛び出し、右目もかろうじて留まっている程度でしかない。普通ならば、すでに視覚は失われている。恐らくは、聴覚などの五感もすでに失っているだろう。

それでも、“力を示せ”と発する声はゴブリンロードに届いている。耳にでなく頭へと直接響く声がゴブリンロードを王冠へと導き、それが選ばれた存在であると錯覚させる。

王冠を手にした瞬間、ゴブリンロードは口が開く。笑ったのだろうか、それとも何かを発したのだろうか?それすらも出来なくなっている。
そして、王冠に触れた瞬間に右腕は完全に白骨化し、それは全身へと広がってゆく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)

愛飢男
ファンタジー
最強の攻撃、それ即ち超硬度超質量の物体が超高速で激突する衝撃力である。 ってことは……大型トラックだよね。 21歳大型免許取り立ての久里井戸玲央、彼が仕事を終えて寝て起きたらそこは異世界だった。 勇者として召喚されたがファンタジーな異世界でトラック運転手は伝わらなかったようでやんわりと追放されてしまう。 追放勇者を拾ったのは隣国の聖女、これから久里井戸くんはどうなってしまうのでしょうか?

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

処理中です...