精霊のジレンマ

さんが

文字の大きさ
193 / 329
再構築

193.爺エルフの名

しおりを挟む
エルフ族の意思とは関係なく、もうコアピタンスは仲間として一緒に行動する事は決まってしまった。後は目の前で気絶している爺エルフを、どうやって納得させるかになる。

「ブロッサ、爺エルフを回復させて起こしてやってくれ」

「分かっタワ」

そう言うと、ポーションを取り出して丁寧に傷を治してゆく。最初こそ丁寧な扱いをしていたが、次第に扱いが雑になっている。最後はヤカンのような物を取り出して、爺エルフの顔に目掛けてを水をかけ始める。顔を左右に振って苦しみ始めるが、ブロッサのヤカンの水は爺エルフの顔を追いかける。

「起きなさい、聞こえてるデショ。分かってるノヨ。回復したのに、死にたくなっタ」

「ゴフッ、ゴフッ、ゴホッ、ゴホッ」

爺エルフが飛び起きる。回復の途中で爺エルフの意識は戻ったが、それを誤魔化そうとして死にかけたみたいだ。

「折角回復させてあげたのに、次やったら回復不能の体にしてあげるワヨ」

回復不要でなく不能というところがブロッサの怖いところで、それは長寿のエルフにとっては永遠に苦しみ続ける事を意味する。

「爺さん、どう責任をとるつもりだ」

「いきなり責任とは、何の事じゃ?」

爺エルフに眠ったままのコアピタンスを見せる。

「姫様、姫様、姫様!」

爺エルフが慌ててコアピタンスに駆け寄るが、コアピタンスは微動だにしない。死んではいないが、弱々しい魔力はコアピタンスのものとは思えない。

「死んではいないけど意識はなイワ。多分、意識はもう戻らナイ」

「姫様、姫様、姫様!」

ブロッサの言葉に一瞬だけビクッと反応した爺エルフだが、再び“姫様”と狂ったように叫び続ける。

“嘘、信じられない”

しかし、爺エルフの鼓動や脈拍は大きく変わっていない事をクオンの聴覚スキルは聞き逃さない。むしろブロッサに声をかけられた時の反応の方が大きい。それはシナジーの温度感知スキルも同じで、爺エルフの反応を嘘と感じ取っている。

そして、極めつけは爺エルフから感じる毒の臭い。何かを狙っていたような狡猾さを感じ、今の結果は爺エルフにとっては悪くない事なのかもしれない。

「爺さん、あんたのせいだな!」

「何故、私のせいになる。私は何もしてはおらん!」

俺は爺エルフの毒針のような物を忍ばせた袖を見ながらニヤリと笑って告げる。

「爺さん、どこまで覚えているんだ?」

「プラハラードじゃ」

今まで自分の名前を名乗らなかった爺エルフが、自ら名前を告げる。それが今まで存在自体を見下していた俺達を、対等の交渉相手として認めたのだろう。

「そうかい、プラハラード爺さん。あんたはどこまで覚えているんだ?」

「爺さんは余計じゃ。何かに襲われたことは覚えているが、何があったかはハッキリと覚えておらん」

しかしプラハラードの僅かに脈拍が速くなるのをクオンが聞き取り、体温が上昇するのをシナジーが探知する。プラハラードは、明らかに俺の話に動揺している。

「あんたが何かを暴走させてしまったんだろ。そして、コアピタンスは眠ったままになった、それが全てじゃないか」

「儂は何もしておらん」

「何をしようとしたかは覚えているけど、何が起こったのかは分からないんだろ!」

「···」

俺の念押しする問いに対して、プラハラードは何も答えない。

「そうか、何が暴走したのか心当たりがあるのかと思っていたが、あんたは知らないのか?知ってるのは、族長のコアピタンスだけって事か」

「ああ、姫様なら何かを察知しておったのかもしれんが、儂は聞いておらん」

俺がプラハラードの毒針に触れないで話を進めた事に対して、俺の話に合わせて答えてくる。それは俺は何が起こったか知らないという主張を認め、自分は何も知らないと改めて主張している。

「洞穴から戻った俺達を毎日見に来ていたのも、これが理由なんだろう。それを見抜いたのは結局コアピタンスだけってことか」

「そうなのかもしれんが、それは姫様しか分からん事じゃ」

これでお互いに、これ以上の詮索は不要となる。

「それで、あんたはどうするんだ?俺には、毒の精霊ブロッサがいる。アシスを旅すれば、コアピタンスを元に戻す方法が見つかるかもしれない」

「好きにするがイイ。しかし、これはエルフ族の問題で他種族の力は借りんわ!」

「じゃあな、こっちの好きにさせて貰う。これ以上あんたと話すのは時間の無駄でしかない」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)

愛飢男
ファンタジー
最強の攻撃、それ即ち超硬度超質量の物体が超高速で激突する衝撃力である。 ってことは……大型トラックだよね。 21歳大型免許取り立ての久里井戸玲央、彼が仕事を終えて寝て起きたらそこは異世界だった。 勇者として召喚されたがファンタジーな異世界でトラック運転手は伝わらなかったようでやんわりと追放されてしまう。 追放勇者を拾ったのは隣国の聖女、これから久里井戸くんはどうなってしまうのでしょうか?

悪魔になったらするべきこと?

ファウスト
ファンタジー
剣と魔法の世界。そこで魔法を教える学校に通う主人公ルナ・フラウステッドは魔法使いに憧れてる女の子。次の進級で実技に行く段階になった彼女だったがどうしてか魔法を上手く使えない落第生となってしまった。そんな時、偶然にも雇われた家庭教師の先生が言う方法に運命を任せたところ・・・。 「悪魔になっちゃった!?」 悪魔に変化!だけでも中身はそのままの彼女の運命やいかに! 彼女を狙う影、彼女の体の行く末、それを見守る保護者たち。 彼女はいったいどうなってしまうのだろうか。 これは悪党から両親と自分の将来を守るために悪魔になった少女がその身の上と体の特殊さから 様々な騒動に巻き込まれるお話である。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

処理中です...