精霊のジレンマ

オヤの街のハーフリングとオーク

204.オークとハーフリング

「ハーフリングがオークの事をカモにしてるのか？」

「そうでさっ！オヤの街のハーフリングはオークの魔石で莫大な利益を上げていやす」

「オークってどんな魔物なんだ？俺の知っているオークは、イノシシとブタの合の子のような巨体の魔物だけど、アシスでは違うのか？」

「何言ってるんすか？オークって言えば、それしかいないっすよ！」

チェンの話では、俺の知っているオークとは大きくは違わない。オニ族とは変わらない巨体で、身体能力は高く好戦的な魔物になる。
その上、繁殖能力が高くて一年で成人と呼べるまでに成長して、さらに繁殖を繰り返す。だから一度オークが発生すると爆発的に増加してしまう。

一度オークが大量発生してしまうと、後先考えずに全ての者に襲いかかり喰い尽くしてしまう。動物だけでなく植物も喰らう。精霊だけでなく魔物にも襲いかかるり、その恵まれた体躯と筋力で全てを粉々に粉砕し喰らう。

しかし、ここからは俺が知らないアシスのオークになる。オークは吸収スキルを持っていて、何にでも噛みつく。その攻撃が一番の脅威でもあり、異常性に唖然とさせられる。

「オークの口の中に入った瞬間に、吸収が始まるんでオークの噛みつき攻撃には気を付けて下さいね。ボロい短剣くらいなら丸飲みでさっ」

「でも、少しはダメージを与えれるんだろ？」

「強力な吸収スキルっすからね、ダメージが与えれるのは一瞬だけで、傷付いたと同時に口から吸収が始まって回復するから、それで倒すのは難しいでさっ！喰らいつかれた武器は、一瞬でボロボロなって使い物にならなくなるらしいっすから」

「オークの吸収スキルは、そんなに凄いのか？」

俺の魔力吸収スキルは、そこまで早く吸収する事は出来ない。もっと熟練度が上がれば可能になるのかもしれない。しかし熟練度の高いオークだけが出来る芸当ではなく、どのオークも使うことが出来るスキル。それだけにオークの吸収スキルの異常性が分かる。

「あっしも話でしか聞いた事がないっすからね。魔法でも食べるって話でさっ」

「魔法も吸収できるのか···」

それを聞くと、俺の魔力吸収スキルはハーピーから吸収したスキルでもあり、純粋な無属性スキルではない。ハーピーとオークを比べると、俺の魔力吸収スキルは下位互換なのかもしれないとも感じてしまう。

「あっ、でも口に入れないと吸収は出来ないらしいっすよ。それに回復するだけで、吸収した分だけ強くなるわけじゃないっすから」

「そうだな。そんな事が出来るなら、とんでもない化物が出来上がってるよな」

チェンの話に少しだけ安心する。ハーピークイーンは、仲間の力を吸収する事で力を得ようとしていた。それならば、オークの吸収とは、異種のスキルになる。

そして、気になる事はもう１つ。それは、古の滅びた記憶が何になるか。ゴブリンは嗅覚、コボルトは視覚、ハーピーは味覚となれば、オークは何になるのだろう。触覚か聴覚の何れかになるとは思うが、そのどれになってもオークキングはさらに強化され、かなりの手強い相手になる。

「オークは強いだけに、魔石に多くの魔力を溜められるんでさっ。そのオーク族の魔石を独占して荒稼ぎしているのがハーフリング族で、今や一番の金持ちの成金族っすよ」

そこで、俺は改めて現実に引き戻される。ハーフリングはオークをカモにしている！

「ハーフリングは、オークより強いのか？」

「個々の力は圧倒的に、オークが上でさっ」

「だけど、それではオークの繁殖は止めれないだろ。増える以上に倒さなければ、オークが草原から溢れ出してしまう」

「それは、あっしにも分からないでさっ。ホビットは特に秘密主義っすからね。ハーフリングの街の事も、草原で起こっている事も不明な事だらけでさっ。でもイスイはオヤの街と近いっすから、情報はある方っすよ」

「そんな所に俺達が行っても大丈夫なのか？オークだけじゃなくて、ハーフリングから疎まれるんじゃないか」

「今までも、オヤの草原のオークを調べに行った探索隊は多くいるから大丈夫でさっ。各種族だったり、有力な商会から探索隊が出ていて揉め事になった事はないっすね」

「それで、何か分かっているのか？」

「ええっ、まともに戻ってきた者はいないって事だけでさっ」

「それって、迷いの森と大して変わらないんじゃないのか？」

「カショウの旦那は普通じゃないから大丈夫っすよ。あっしが保証しやす！」