精霊のジレンマ

さんが

文字の大きさ
223 / 329
オヤの街のハーフリングとオーク

223.カンテのサムズアップ①

しおりを挟む
赤いオークはウィプス達の攻撃を受けながらも、立ち止まることなく少しずつ前進してくる。しかし、僅かに違うのは回復が追い付いていない。

「ウィプス達も進化しているな」

『そうね、時間をかければ3人でも倒せるかもしれないわね』

サンダーストームでダメージを与えても、一瞬で回復されていた。しかし、その傷の治りが僅かに遅くなっている。消えるようにして無くなった傷が、ジワジワと無くなるような感じで、明らかに違いが出ている。

「時間をかけても、良いことはないだろうな」

『チェンのお陰で、進化しした性能を十分に試せたでしょうしね』

そう言って俺が前に進むと、3人の戦い方がガラッと変わる。ルークの体が一際青く輝くとオークに近接戦闘を仕掛ける。それに呼応して、メーンもサンダーストームを放つのを止めると、オークの様子を見るように動き出す。
サンダーストームを放つのはカンテ1人となってしまうが、魔法の威力は落ちていない。瞬時に抜けた分の魔法を補い、2人が抜けた事すら感じさせない。

「まだまだ、これからが本番だって言ってるのか?」

『私達に見せる為に待ってたのかもね』

ルークもメーンも広範囲魔法は得意ではない。それでも2人分のサンダーストームを一瞬で補ってしまうのだから、カンテも余力がなければ出来ない。そして、カンテはこちらを見ると小さな手でサムズアップしてくる。

『余裕ありって事で、やらせてあげましょうか』

「危険だと感じたら止めに入るからな!」

俺の声に、ルークの体の青い輝きが増す。それと反するようにメーンの白い体は少しずつ暗くなってゆくが、手に持つライフル銃に魔力が込められている。

オークに近付いたルークからは、零距離射撃するかのように雷が放たれる。放電されたような細くはあるが、ハッキリと分かる閃光が何本もオークの体へと突き刺さる。
だが、動きの鈍ったオークにとっても近付いてくるルークは願ってもない事で、ルークの魔力を少しでも吸収しようとする。ルークの動きを追いかける必要はなく、吸収する範囲を広げてやればイイとばかりに大きく息を吸い込む。
そして、オークがルークへと意識を集中させている間に、メーンは草むらの中に潜んで姿を隠してしまう。

『ルークは、囮になってるのかしら?』

「本来のルークの攻撃なら、体当たりをするんだろうけどな。一応は、慎重になってるんじゃないか?」

「俺様がいないと、まだまだだな!ルークの放電は出力を絞っておる。あれだけの魔力なら本来の威力は、あんなもんじゃない」

確かにルークが帯びた魔力からすれば、攻撃は弱いのは分かる。問題は、その後の狙いは何になるかだが、イッショはそこには触れない。

「イッショがマメに仕事をしているのは分かったけど、それならウィプス達の狙いは何なんだ?」

「それは、見ていれば分かる。それに、俺はマメじゃないぞ!」

「悪い悪い、マメじゃなくて豆柴だったな」

しばらくはルークが囮となってオークの周りを動いていたが、ここでカンテが動く。サンダーストームを放ちながら、サンダービームを連続して放つ。

「今、魔法を2つ同時に使った···よな」

『ええ、同時発動を連発してるわよ』

「ムーアは出来るのか?」

『出来るわよ。その内にね···』

俺達が驚いている間も、カンテの放つサンダービームがオークに襲いかかり、さらにオークの動きを奪おうとしている。そして、矢継ぎ早に放たれるカンテのサンダービームは、的確に手足の関節を襲いダメージを与えている。
サンダーストームに追加されるサンダービームのダメージは傷口を抉り焼け焦げさせ、オークの回復力であっても直ぐには回復出来ない。それでもオークはカンテを無視して、ルークを吸収する事だけに執着しているように見える。

「痛みは影響しないのか?オークのスキルよりも、痛覚耐性の方がちょっとイカれてるな」

『もう感覚が、麻痺してるのかもね。今は圧倒しているけど、このままで致命傷を与えれると思う?』

「そのうち拮抗してしまう事は、ウィプス達も分かっているだろ。でもカンテは余裕そうだから、これ以外に狙いがあるんだろうけど」

そんな俺とムーアの心配する視線に気付いたのか、2つの魔法を操りながらもカンテは再びサムズアップしてくる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

ガチャから始まる錬金ライフ

あに
ファンタジー
河地夜人は日雇い労働者だったが、スキルボールを手に入れた翌日にクビになってしまう。 手に入れたスキルボールは『ガチャ』そこから『鑑定』『錬金術』と手に入れて、今までダンジョンの宝箱しか出なかったポーションなどを冒険者御用達の『プライド』に売り、億万長者になっていく。 他にもS級冒険者と出会い、自らもS級に上り詰める。 どんどん仲間も増え、自らはダンジョンには行かず錬金術で飯を食う。 自身の本当のジョブが召喚士だったので、召喚した相棒のテンとまったり、時には冒険し成長していく。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)

愛飢男
ファンタジー
最強の攻撃、それ即ち超硬度超質量の物体が超高速で激突する衝撃力である。 ってことは……大型トラックだよね。 21歳大型免許取り立ての久里井戸玲央、彼が仕事を終えて寝て起きたらそこは異世界だった。 勇者として召喚されたがファンタジーな異世界でトラック運転手は伝わらなかったようでやんわりと追放されてしまう。 追放勇者を拾ったのは隣国の聖女、これから久里井戸くんはどうなってしまうのでしょうか?

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

処理中です...