精霊のジレンマ

さんが

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オヤの街のハーフリングとオーク

250.2つの聴覚

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 崩れるように沈んでゆく地面は、俺の足元にも影響を及ぼす。亀裂から浸透した黒い靄が、地下深くにあるオヤの街へと影響を与えたのかもしれない。

「エトッ、エトッ、エトッ」

 沈んでゆく地面の中央から聞こえるハンソの声。そして、目の前にいるロードに戸惑っている。しかし、それ以上にロードから戸惑いの感情が伝わってくる。ロードの目の前で右手と左手の人差し指だけを伸ばして、胸の前でツンツンと合わせる精霊。見事に足元をすくわれてしまった。しかも、どうしようもない残念っぽい精霊に!

「なんなんだコイツ!」

 その衝撃にロードは何も出来ずに、立ち尽くしたままでいる。

 そんなハンソとロードを横目にしながら、キングを目指す。俺には翼があり、地面が崩れようが沈もうが関係ない。しかし地面が沈み崩れる範囲はまだまだ広がりをみせ、急がなければキングも巻き込まれてしまう。

 名付けした事で力を増したラガートの翼と、リズとリタの純白の翼は、今までにない速度を示す。このままだと俺は、マジックソードを持っているだけの存在となってしまう気がする。
 ふとそんな考えも頭をよぎるが、まだキングは呆然と立ったままで動かない。キングには正面から近付く俺の存在は見えているだろうし、明確な殺意の感情の声は聞こえないわけがない。

 俺には守護者を一撃で倒せるだけの力がある。いくらオリジナルであっても、無傷ではいられない。そう心の中で強く念じても、それでもキングからは一切の感情の声は聞こえてこない。それが逆に不気味で、罠にさえ感じてしまう。

“大丈夫、変わらない”

 その不安をクオンが払拭してくれる。クオンの聴覚もキングの体の音を聞いている。いくら平静を装っても、俺達と対峙した時や会話をしている時に、僅かに鼓動や脈拍が変化する。しかし、今のキングからはその変化が全く聞き取れない。

「流石、クオンだな。頼りになる。」

“ウン、一番精霊はクオン”

 クオンのお墨付きが出たことで、躊躇うことなくキングの腹にマジックソードを突き刺す。何の抵抗を受ける事もなくマジックソードはキングの体を貫き、いつもと変わらない感触が伝わってくる。
 パキンッと砕けるような軽い感触は、魔石が砕けたことを教えてくれる。そして、キラキラと降り注ぐ魔石の欠片を俺の体が吸収する。

 いつもと同じように魔石の吸収···。

『カショウ、どうしたの?』

「いつもの魔石の吸収じゃない」

『でも、間違いなくオリジナルのキングでしょ。明らかに強さは、守護者とは別格だったわよ』

 ムーアが空を見上げると、キングに集められて積乱雲のように集まっていた靄は、徐々に広がり始めている。

「だけど、吸収したのはスキルの感触は守護者と変わらない。とてもオリジナルのスキルとは思えない。何かが違う」

 さらに靄は拡散され、上空を靄が覆ってしまうと光を遮り、辺りは次第に暗くなってくる。

『靄の拡散が止まった?』

「徐々に靄の高さが低くなってきていルワ」

 その時、靄の雷が落ちる。ロードと黒槍に落ちた雷と比べれば一本一本の筋は細いが、数は多く広範囲へと落ちる。そして、強烈な異臭が立ち込める。

 それに逸早く気づいたブロッサが慌てて消臭剤を撒き、シナジーが拡散する。

「カショウ、この異臭は今までのものよりも遥かに強烈ヨ。長くは持たないワ」

「靄の外に抜けるまで持ちそうか?」

「靄が落ちてきているから難しいワ、持って半分くらいマデ」

「他に何か良い方法はないのか?」

『元凶を潰すしかないわね』

 ここに残されているのは、沈んでゆく地面の奥底にいたロードだけ。地面の沈下はまだ続いており、術者を追いかけるように靄も移動しているのかもしれない。

 俺達の視線は自然と沈みゆく地面を眺める。地面は何かに吸い込まれるかのようにすり鉢型となり、中心にいたはずのロードもハンソの姿もは見えない。

「ソースイ、ハンソはどうなった?」

 久しぶりに、普通の形でハンソが召喚される。しかしハンソはそれに気付かず、体を丸めて衝撃に備えている。

「ハンソ、ロードはどうなった?」

「エトッ、エトッ、エトッ」

 いつも通りのお約束の言葉が繰り返されて、ハンソが正常だということだけは分かる。

「ハンソを黒槍で殴り付けて、気付けば居なくなっていたそうですが···」
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