精霊のジレンマ

さんが

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オヤの街のハーフリングとオーク

251.スキルの暴走

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 ソースイが黒剣の柄に手をかける。

「ントッ、ントッ、ントッ」

 急に目が泳ぎ、これもまたお決まりのフレーズを口にするハンソ。

「恐らく何かの異変が起こっているはずです」

 そう断言するソースイの言葉に、ナレッジがリッター達を動かす。


「カショウ、ソースイの言うとおりだね。底には亀裂が出来ていて、どんどん大きくなってるよ」

 長さは3m程の亀裂でロードが入れそうな幅は十分にあり、ロードの姿は見えない。そして亀裂の周囲は広範囲に渡って砂地に変わり、流れ落ちるようにして亀裂へと吸い込まれてゆく。
 その光景は砂時計の砂が落ちるようで、今置かれている状況のタイムリミットを思わせる。

「ナレッジ、亀裂の中の様子は分かるか?」

 再びナレッジが指示を出すと、リッター達が亀裂上から中の様子を探る。

「ダメだね。砂が舞っていて、全く先が見えないよ!どうする少しだけ中に潜ってみる?」

 迂闊に近付けば、何が起こるか分からない。しかし、伝わってくるのは視覚情報だけで、音は聞こえない。せめて音だけでも聞こえれば、亀裂の中の情報が分かるかもしれない。

 複雑な感情が入り混ざる。今までは、精霊達のスキルに満足していた。しかし、優秀なスキルや能力知ってしまったからなのか、現状に物足りなさを感じる。もっと良い方法がある、もっと上手く出来る。そんな感情が次第に大きくなる。

 苛立ちなのか上手くいかない事へのじれったさなのか、次第に鼓動が激しくなる。脈拍が早くなると、時間の流れさえも早くなったような気がする。

『カショウ、大丈夫?』

 ムーアが何か話しかけてくるが、鼓動や脈拍の音が邪魔して、ムーアの声が聞きとれない。だけど、こんな時の話なら、時間がないとか早くしないと靄が降ってくるしかないだろう。

『カショウ、聞こえてる?』

「分かってるよ」と返事しようとするが、呼吸が乱れて声にならない。早くしなければ、俺の体が暴走してしまう。少しでも先へと進まなければ、手遅れになってしまうんだろ!

 影からクオンとコアが飛び出してくる。

「カショウ、ダメ!」

 クオンの声が俺の頭の中に響いてくる。いつもの優しい声ではなく殺気がこもったような声。その瞬間に、俺の周りの音が元に戻る。

「何とか、間に合いましたわ」

「コア、何があったんだ?」

「ご主人様が、暴走しかけたのですよ」

「俺が暴走って?」

「恐らく、スキルの暴走です」

 アシスでは原初の精霊達が魔力を満たすことで、様々な属性が誕生した。だから上位スキルになればなる程に、精霊達の影響を強く受けることになる。特に原初の精霊達の属性である、火·水·地·風·光·闇·空·無の純属性の場合は、1人の精霊の影響を強く受けてしまう。火の精霊の影響を受ければ、好戦的な性格になってしまうと言えば分かりやすいかもしれない。

「俺が、精霊の影響を受けていたというのか?」

「正確には、古の滅びた記憶の1つである聴覚スキルの影響です」

「でも、聴覚スキルは八属性でもないし、ましてや魔物の持っていたスキルだぞ?」

「はい、純属性で間違いありません」

 コアは、簡単に純属性だと言いきってしまう。それは、アシスの理に反することでもある。迷い人の俺でも知っている事を、エルフ族の元族長であるコアが知らないわけがない。そんな俺の戸惑いの表情を見て、コアが話を続ける。

「聴覚スキルが純属性であるというのは、私の仮説だと思って下さい。しかし、八属性のスキル暴走は、私も数回ですが見たことがあります。だからこそ、ご主人様の状態はスキル暴走で間違いありません」

 ここまでハッキリと断言されれば、それを否定することは出来ない。俺よりも魔法やスキルに精通し、元エルフ族の族長であるコアを否定出来る程の知識や経験はない。

「影響を受け続けていた者は、どうなってしまったんだ?」

「精神が崩壊してスキルの制御出来なくなると、後は消滅するしかありません。暴走するスキルが違っても、結果は同じでした」

「でも、俺にはイッショもタダノカマセイレもいる。精神的な影響は受けないんじゃないか」

「残念ですけど、それは効果がありません。外部からの影響を受けるのであれば、イッショやタダノカマセイレがレジストしてくれます。しかし、これはご主人様の取り込んだスキルが起こす内部の問題です」

「どんなに優れた鎧を身に付けても、俺の中の病気に対しては意味がないのか」

「はい!」

 コアの言葉は短いが、その頷きは力強い。
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