251 / 329
オヤの街のハーフリングとオーク
251.スキルの暴走
しおりを挟む
ソースイが黒剣の柄に手をかける。
「ントッ、ントッ、ントッ」
急に目が泳ぎ、これもまたお決まりのフレーズを口にするハンソ。
「恐らく何かの異変が起こっているはずです」
そう断言するソースイの言葉に、ナレッジがリッター達を動かす。
「カショウ、ソースイの言うとおりだね。底には亀裂が出来ていて、どんどん大きくなってるよ」
長さは3m程の亀裂でロードが入れそうな幅は十分にあり、ロードの姿は見えない。そして亀裂の周囲は広範囲に渡って砂地に変わり、流れ落ちるようにして亀裂へと吸い込まれてゆく。
その光景は砂時計の砂が落ちるようで、今置かれている状況のタイムリミットを思わせる。
「ナレッジ、亀裂の中の様子は分かるか?」
再びナレッジが指示を出すと、リッター達が亀裂上から中の様子を探る。
「ダメだね。砂が舞っていて、全く先が見えないよ!どうする少しだけ中に潜ってみる?」
迂闊に近付けば、何が起こるか分からない。しかし、伝わってくるのは視覚情報だけで、音は聞こえない。せめて音だけでも聞こえれば、亀裂の中の情報が分かるかもしれない。
複雑な感情が入り混ざる。今までは、精霊達のスキルに満足していた。しかし、優秀なスキルや能力知ってしまったからなのか、現状に物足りなさを感じる。もっと良い方法がある、もっと上手く出来る。そんな感情が次第に大きくなる。
苛立ちなのか上手くいかない事へのじれったさなのか、次第に鼓動が激しくなる。脈拍が早くなると、時間の流れさえも早くなったような気がする。
『カショウ、大丈夫?』
ムーアが何か話しかけてくるが、鼓動や脈拍の音が邪魔して、ムーアの声が聞きとれない。だけど、こんな時の話なら、時間がないとか早くしないと靄が降ってくるしかないだろう。
『カショウ、聞こえてる?』
「分かってるよ」と返事しようとするが、呼吸が乱れて声にならない。早くしなければ、俺の体が暴走してしまう。少しでも先へと進まなければ、手遅れになってしまうんだろ!
影からクオンとコアが飛び出してくる。
「カショウ、ダメ!」
クオンの声が俺の頭の中に響いてくる。いつもの優しい声ではなく殺気がこもったような声。その瞬間に、俺の周りの音が元に戻る。
「何とか、間に合いましたわ」
「コア、何があったんだ?」
「ご主人様が、暴走しかけたのですよ」
「俺が暴走って?」
「恐らく、スキルの暴走です」
アシスでは原初の精霊達が魔力を満たすことで、様々な属性が誕生した。だから上位スキルになればなる程に、精霊達の影響を強く受けることになる。特に原初の精霊達の属性である、火·水·地·風·光·闇·空·無の純属性の場合は、1人の精霊の影響を強く受けてしまう。火の精霊の影響を受ければ、好戦的な性格になってしまうと言えば分かりやすいかもしれない。
「俺が、精霊の影響を受けていたというのか?」
「正確には、古の滅びた記憶の1つである聴覚スキルの影響です」
「でも、聴覚スキルは八属性でもないし、ましてや魔物の持っていたスキルだぞ?」
「はい、純属性で間違いありません」
コアは、簡単に純属性だと言いきってしまう。それは、アシスの理に反することでもある。迷い人の俺でも知っている事を、エルフ族の元族長であるコアが知らないわけがない。そんな俺の戸惑いの表情を見て、コアが話を続ける。
「聴覚スキルが純属性であるというのは、私の仮説だと思って下さい。しかし、八属性のスキル暴走は、私も数回ですが見たことがあります。だからこそ、ご主人様の状態はスキル暴走で間違いありません」
ここまでハッキリと断言されれば、それを否定することは出来ない。俺よりも魔法やスキルに精通し、元エルフ族の族長であるコアを否定出来る程の知識や経験はない。
「影響を受け続けていた者は、どうなってしまったんだ?」
「精神が崩壊してスキルの制御出来なくなると、後は消滅するしかありません。暴走するスキルが違っても、結果は同じでした」
「でも、俺にはイッショもタダノカマセイレもいる。精神的な影響は受けないんじゃないか」
「残念ですけど、それは効果がありません。外部からの影響を受けるのであれば、イッショやタダノカマセイレがレジストしてくれます。しかし、これはご主人様の取り込んだスキルが起こす内部の問題です」
「どんなに優れた鎧を身に付けても、俺の中の病気に対しては意味がないのか」
「はい!」
コアの言葉は短いが、その頷きは力強い。
「ントッ、ントッ、ントッ」
急に目が泳ぎ、これもまたお決まりのフレーズを口にするハンソ。
「恐らく何かの異変が起こっているはずです」
そう断言するソースイの言葉に、ナレッジがリッター達を動かす。
「カショウ、ソースイの言うとおりだね。底には亀裂が出来ていて、どんどん大きくなってるよ」
長さは3m程の亀裂でロードが入れそうな幅は十分にあり、ロードの姿は見えない。そして亀裂の周囲は広範囲に渡って砂地に変わり、流れ落ちるようにして亀裂へと吸い込まれてゆく。
その光景は砂時計の砂が落ちるようで、今置かれている状況のタイムリミットを思わせる。
「ナレッジ、亀裂の中の様子は分かるか?」
再びナレッジが指示を出すと、リッター達が亀裂上から中の様子を探る。
「ダメだね。砂が舞っていて、全く先が見えないよ!どうする少しだけ中に潜ってみる?」
迂闊に近付けば、何が起こるか分からない。しかし、伝わってくるのは視覚情報だけで、音は聞こえない。せめて音だけでも聞こえれば、亀裂の中の情報が分かるかもしれない。
複雑な感情が入り混ざる。今までは、精霊達のスキルに満足していた。しかし、優秀なスキルや能力知ってしまったからなのか、現状に物足りなさを感じる。もっと良い方法がある、もっと上手く出来る。そんな感情が次第に大きくなる。
苛立ちなのか上手くいかない事へのじれったさなのか、次第に鼓動が激しくなる。脈拍が早くなると、時間の流れさえも早くなったような気がする。
『カショウ、大丈夫?』
ムーアが何か話しかけてくるが、鼓動や脈拍の音が邪魔して、ムーアの声が聞きとれない。だけど、こんな時の話なら、時間がないとか早くしないと靄が降ってくるしかないだろう。
『カショウ、聞こえてる?』
「分かってるよ」と返事しようとするが、呼吸が乱れて声にならない。早くしなければ、俺の体が暴走してしまう。少しでも先へと進まなければ、手遅れになってしまうんだろ!
影からクオンとコアが飛び出してくる。
「カショウ、ダメ!」
クオンの声が俺の頭の中に響いてくる。いつもの優しい声ではなく殺気がこもったような声。その瞬間に、俺の周りの音が元に戻る。
「何とか、間に合いましたわ」
「コア、何があったんだ?」
「ご主人様が、暴走しかけたのですよ」
「俺が暴走って?」
「恐らく、スキルの暴走です」
アシスでは原初の精霊達が魔力を満たすことで、様々な属性が誕生した。だから上位スキルになればなる程に、精霊達の影響を強く受けることになる。特に原初の精霊達の属性である、火·水·地·風·光·闇·空·無の純属性の場合は、1人の精霊の影響を強く受けてしまう。火の精霊の影響を受ければ、好戦的な性格になってしまうと言えば分かりやすいかもしれない。
「俺が、精霊の影響を受けていたというのか?」
「正確には、古の滅びた記憶の1つである聴覚スキルの影響です」
「でも、聴覚スキルは八属性でもないし、ましてや魔物の持っていたスキルだぞ?」
「はい、純属性で間違いありません」
コアは、簡単に純属性だと言いきってしまう。それは、アシスの理に反することでもある。迷い人の俺でも知っている事を、エルフ族の元族長であるコアが知らないわけがない。そんな俺の戸惑いの表情を見て、コアが話を続ける。
「聴覚スキルが純属性であるというのは、私の仮説だと思って下さい。しかし、八属性のスキル暴走は、私も数回ですが見たことがあります。だからこそ、ご主人様の状態はスキル暴走で間違いありません」
ここまでハッキリと断言されれば、それを否定することは出来ない。俺よりも魔法やスキルに精通し、元エルフ族の族長であるコアを否定出来る程の知識や経験はない。
「影響を受け続けていた者は、どうなってしまったんだ?」
「精神が崩壊してスキルの制御出来なくなると、後は消滅するしかありません。暴走するスキルが違っても、結果は同じでした」
「でも、俺にはイッショもタダノカマセイレもいる。精神的な影響は受けないんじゃないか」
「残念ですけど、それは効果がありません。外部からの影響を受けるのであれば、イッショやタダノカマセイレがレジストしてくれます。しかし、これはご主人様の取り込んだスキルが起こす内部の問題です」
「どんなに優れた鎧を身に付けても、俺の中の病気に対しては意味がないのか」
「はい!」
コアの言葉は短いが、その頷きは力強い。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
悪魔になったらするべきこと?
ファウスト
ファンタジー
剣と魔法の世界。そこで魔法を教える学校に通う主人公ルナ・フラウステッドは魔法使いに憧れてる女の子。次の進級で実技に行く段階になった彼女だったがどうしてか魔法を上手く使えない落第生となってしまった。そんな時、偶然にも雇われた家庭教師の先生が言う方法に運命を任せたところ・・・。
「悪魔になっちゃった!?」
悪魔に変化!だけでも中身はそのままの彼女の運命やいかに!
彼女を狙う影、彼女の体の行く末、それを見守る保護者たち。
彼女はいったいどうなってしまうのだろうか。
これは悪党から両親と自分の将来を守るために悪魔になった少女がその身の上と体の特殊さから
様々な騒動に巻き込まれるお話である。
異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)
愛飢男
ファンタジー
最強の攻撃、それ即ち超硬度超質量の物体が超高速で激突する衝撃力である。
ってことは……大型トラックだよね。
21歳大型免許取り立ての久里井戸玲央、彼が仕事を終えて寝て起きたらそこは異世界だった。
勇者として召喚されたがファンタジーな異世界でトラック運転手は伝わらなかったようでやんわりと追放されてしまう。
追放勇者を拾ったのは隣国の聖女、これから久里井戸くんはどうなってしまうのでしょうか?
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜
あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい!
ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様にて、先行公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~
夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。
全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった!
ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。
一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。
落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる