精霊のジレンマ

さんが

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オヤの街のハーフリングとオーク

272.帰還

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 どうしてこうなったのか···。後悔しても時既に遅し。後ろには数百のオーク達と、それを囲むように万を超えるウィプスが列なっている。

「オークもウィプスも、ほぼ全てじゃないか」

『それは、あなたの提示した契約条件のせいでしょ』

 俺がオークに提示した契約は、フタガの岩峰に棲みかを与える代わりに、岩峰をハーピーより守るというもの。領主であるチェンの役目はフタガの岩峰を守ることにあり、それには如何なることをしても構わないというお墨付きを得ている。だからハーピーから岩峰を守る為にオークを利用しても、それは一向に問題にはならない。

 もちろん俺の純白の翼と黒翼は見せている。ヒト族ではあるが精霊化と魔物化を同時に起こし、何を引き起こすか分からないという未知の存在。契約する相手としては、あまりにも存在が不安定過ぎて、俺が居なくなれば契約も無くなってしまう。
 それに岩峰は険しく、翼がなければ頂上まで登ることは出来ない場所も多い。翼の無いオークを頂上まで運んでしまえば、2度と降りることは叶わない。オークに近付く者も少なくなるが、これまでよりも行動は制限される。

 しかし守護者であるキングとロードは、俺の提案をあっさりと受け入れてしまった。解放されたオーク達も、ほとんどがそれに倣うように契約を受け入れてしまう。

「普通ならもっと反発してくる者がいてもイイだろ。条件だけ見れば悪い面も多い」

『弾かれた者同士で、通ずるものがあったんじゃないの?』

「旦那、あっしは聞いていないですぜっ」

 急に契約を知らされたチェンは慌てて抗議してくるが、その時にはすでにオーク達とは契約を済ませてしまっている。

「ハーフリング族もエルフ族も文句はつけてこないから心配するな。後は蟲人族を納得させるだけだから、それは領主としての務めだと思って諦めろ。それにチェンの責任でもあるんだぞ」

「そんな事を言われても、あっしにはどうしようもないっすよ」

「言っておくけどな、それも決め手になっているんだからな!」

 そして、チェンは自慢の大鎌を見つめる。大鎌だけでなく、ソースイの黒剣や漆黒の盾、ホーソンが好奇心を満たすために離さずに持っているオークの片鎌の黒槍。

「これが魔物達に伝わっている武器だなんて言われても···」

「その武器から所有者として認められているんだぞ」

 俺が持つ精霊樹の杖では、オーク達に力を示す事が出来たとしても与える印象は良くない。しかしフタガの岩峰の領主たるチェンが、魔物達の武器である大鎌から持つ事を認められた存在であることの意味は大きい。
 そしてオーク達は俺よりもチェンの事を疑わず、仮に俺がどうなろうもチェンの領地である限りは大丈夫であるという安心感を与えている。

「悪い風に考えるな。もうボッチの領主卒業だぞ」

『そうね、アシス初の魔物を従える領主様の誕生じゃない!』

「姐さんまで、酷いっすよ」

『だから、精霊も付けてあげたでしょ!』

 そう言うとムーアは、オーク達を取り囲むウィプス達を眺める。

 オーク達の契約は俺が提示したが、ウィプス達に対してはムーアがすでに話を付けている。俺達に助けられ力を目の当たりにしたウィプス達には、最初から契約を拒否出来ない雰囲気が出来上がっている。
 大半のウィプスは、オークを監視することを建前としてフタガの岩峰に住み着くことになり、ルーク達に憧れを持った少数のウィプスだけが召喚精霊として付いてくることになると思うが、それは精霊達に任せている。

『チェン、大量のウィプス達よ。それでも私に文句でもあるの?数は力よ!』

「そっ、そんなっ。力で脅せって言うんすかっ?」

『私は何も言ってないわ。ただ早くしないと騒ぎが大きくなるわよ!』

 ムーアに言われて、チェンは慌ててイスイの街を目指して飛んで行く。


『カショウ、ロード達との契約はどうなの?』

「今のところ上手く共存出来てるとは思うけど、ライバル意識が高そうだから暴走しないか気を付けないとな」

 オークやウィプス達が棲みかを求めたのに対して、戦闘狂であるロード達はの望みは己の力を示す事。他種族よりも力を誇示することで種の存在を主張しようとしているのか、それとも種族という縛りから解放された自我なのかは分からない。

「ご心配無く。私が筆頭となって、レンもニッチもまとめますので」

 そして、存在をアピールするようにラガートが黒翼が広がる。

「その自信はどこから来るんだ?」

「翼があれば武器は不要。力の差は歴然です!」

「頼もしいな。だけど、まずはオークを岩峰の上へと運ぶことから始まる。早く戻って、文句が出る前に終わらせるか!」
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