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タイコの湖
325.サージの残滓再び
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「まさか、こんなところにサージ様の魔力が残ってるなんて!もう一度、サージ様の魔力に触れることが出来るなんて信じられないよ。やっぱり、まだ何処かに存在しているのは間違いないね」
ナレッジは、サージの魔力に触れることが出来た喜びを一気にまくし立てて、無属性の壁から溢れ出た魔力はサージのものだと断言している。そこに、どんな危険な状況に置かれても、いつもの一歩引いて周囲を見渡している冷静さはない。
「ナレッジ、本当にサージの魔力で間違いないのか?」
「僕が、サージ様の魔力を間違えるなんてあり得ないよ」
「それが本当なら、この結界をつくった精霊の1人はサージになるんだぞ」
上位精霊ならまだしも、名持ちである最上位の精霊によりつくられた結界に閉じ込められれば、俺の存在は消滅していたかもしれない。それを、俺達が破壊出来たことは奇跡としか言いようがない。
「そっ、それは。サージ様に限って、そんな」
最初はサージの魔力に触れたことを嬉しそうにしていたナレッジだったが、今置かれている状況を考えると喜んではいられない。
「でも、カショウと融合している精霊だって、サージ様の魔力を求めたんじゃないのかい。だからチュニックだって回復しているし、性能だって上がっているでしょ」
「俺は求めていない。それに、助けるなら最初からそうしろ!」
俺と融合した精霊は、何の見返りもなく俺を救ってくれた。しかし、今のサージの行動は違う。状況が悪くなってから、手の平を返したにしか見えない。ナレッジはサージのことを擁護したかっただけなのかもしれないが、上手く利用されているだけじゃないのか?そんな疑念が、不快さと嫌悪感を増大させる。
オヤの街では、ハーフリング族がオークを監禁して、魔石を取り出すための道具としていた。それと同じことを、最上位の精霊がやっているとは考えもしなかった。
ここは、漠然と思い描いていたファンタジーな世界なんかじゃない。神々が己の欲望を満たす為に創った世界ならば、そこに産まれるのは欲望に満ちただけの世界。
全てのものが、怪しく見える。
全てのものが、嘘に聞こえる。
全てのものが、悪意に満ちている。
全てのものが、信用出来ない。
全てのもの···。それは神でもあり、精霊でもあり、ヒトでもあり、魔物でもあり···。
終わることのない、負の思考のスパイラル。そして思考を重ねる度に蓄積された、負の感情が急速に膨れ上がる。
全てのもの中に、自分が含まれのか?自分が清浄であるはずがない。そんな強い心情·信念なんかは持ち合わせていない。だから、アシスに転生させられたのかもしれない。
イヤ、違う。不浄の世界を破壊する為に、俺は転生させられたのだ。今ならば、確信を持って言える。全てを破壊してしまえ!
俺の体が暴走を始めようとした時、チュニックが体を締め付ける。光が俺を包み込み、膨張しだした負の感情が和らいでくる。
「旦那様、なりません!」
コアの声はハッキリと聞こえてくるが、光に包まれた俺はコアや精霊達の姿も見えない。
そして目の前には、出来ないウインクをしてくる精霊サージが姿を現す。薄霧のように透けていた体は濃くなり、存在もハッキリと感じ取れるのは、サージの魔力取り込んだせいなのかもしれない。
「迷える子羊さん、暴走しちゃダメよ」
「なんだ、出来損ないのウインクの精霊」
不快感を感じさせた張本人が目の前に現れても、今は平静を保っていられる。利用されていることが不快ではあるが、我慢出来なくはない。
「失礼しちゃうわね。何とか暴走せずに踏み止まったことを褒めてあげようと思ったのに!」
「何しに出てきた?面倒なことに巻き込まれる予感しかしないから、もう出てこないでくれ。喜ぶのはナレッジだけで、俺にとっては迷惑でしかない」
「あら、そう。“地の力”と“天の理”で一対なんだから焦っちゃダメよ。それを忘れないでね♪」
「言いたかったのは、それだけか?」
「後ね、あのエルフの娘に感謝しなさい。大切にしてあげるのよ♪」
「どういう意味だ?おいっ、待て!」
しかし、精霊サージは出来損ないのウインクを残して姿を消してしまう。それに合わせて、俺を包み込んでいた光も徐々に収まり、俺の体を締め付けている感覚が蘇ってくる。
だが、少しだけ感覚が違う。チュニックが締め付けているのではなくコアが俺に抱き付き、そして自身の口で俺の口を塞いでいる。
ナレッジは、サージの魔力に触れることが出来た喜びを一気にまくし立てて、無属性の壁から溢れ出た魔力はサージのものだと断言している。そこに、どんな危険な状況に置かれても、いつもの一歩引いて周囲を見渡している冷静さはない。
「ナレッジ、本当にサージの魔力で間違いないのか?」
「僕が、サージ様の魔力を間違えるなんてあり得ないよ」
「それが本当なら、この結界をつくった精霊の1人はサージになるんだぞ」
上位精霊ならまだしも、名持ちである最上位の精霊によりつくられた結界に閉じ込められれば、俺の存在は消滅していたかもしれない。それを、俺達が破壊出来たことは奇跡としか言いようがない。
「そっ、それは。サージ様に限って、そんな」
最初はサージの魔力に触れたことを嬉しそうにしていたナレッジだったが、今置かれている状況を考えると喜んではいられない。
「でも、カショウと融合している精霊だって、サージ様の魔力を求めたんじゃないのかい。だからチュニックだって回復しているし、性能だって上がっているでしょ」
「俺は求めていない。それに、助けるなら最初からそうしろ!」
俺と融合した精霊は、何の見返りもなく俺を救ってくれた。しかし、今のサージの行動は違う。状況が悪くなってから、手の平を返したにしか見えない。ナレッジはサージのことを擁護したかっただけなのかもしれないが、上手く利用されているだけじゃないのか?そんな疑念が、不快さと嫌悪感を増大させる。
オヤの街では、ハーフリング族がオークを監禁して、魔石を取り出すための道具としていた。それと同じことを、最上位の精霊がやっているとは考えもしなかった。
ここは、漠然と思い描いていたファンタジーな世界なんかじゃない。神々が己の欲望を満たす為に創った世界ならば、そこに産まれるのは欲望に満ちただけの世界。
全てのものが、怪しく見える。
全てのものが、嘘に聞こえる。
全てのものが、悪意に満ちている。
全てのものが、信用出来ない。
全てのもの···。それは神でもあり、精霊でもあり、ヒトでもあり、魔物でもあり···。
終わることのない、負の思考のスパイラル。そして思考を重ねる度に蓄積された、負の感情が急速に膨れ上がる。
全てのもの中に、自分が含まれのか?自分が清浄であるはずがない。そんな強い心情·信念なんかは持ち合わせていない。だから、アシスに転生させられたのかもしれない。
イヤ、違う。不浄の世界を破壊する為に、俺は転生させられたのだ。今ならば、確信を持って言える。全てを破壊してしまえ!
俺の体が暴走を始めようとした時、チュニックが体を締め付ける。光が俺を包み込み、膨張しだした負の感情が和らいでくる。
「旦那様、なりません!」
コアの声はハッキリと聞こえてくるが、光に包まれた俺はコアや精霊達の姿も見えない。
そして目の前には、出来ないウインクをしてくる精霊サージが姿を現す。薄霧のように透けていた体は濃くなり、存在もハッキリと感じ取れるのは、サージの魔力取り込んだせいなのかもしれない。
「迷える子羊さん、暴走しちゃダメよ」
「なんだ、出来損ないのウインクの精霊」
不快感を感じさせた張本人が目の前に現れても、今は平静を保っていられる。利用されていることが不快ではあるが、我慢出来なくはない。
「失礼しちゃうわね。何とか暴走せずに踏み止まったことを褒めてあげようと思ったのに!」
「何しに出てきた?面倒なことに巻き込まれる予感しかしないから、もう出てこないでくれ。喜ぶのはナレッジだけで、俺にとっては迷惑でしかない」
「あら、そう。“地の力”と“天の理”で一対なんだから焦っちゃダメよ。それを忘れないでね♪」
「言いたかったのは、それだけか?」
「後ね、あのエルフの娘に感謝しなさい。大切にしてあげるのよ♪」
「どういう意味だ?おいっ、待て!」
しかし、精霊サージは出来損ないのウインクを残して姿を消してしまう。それに合わせて、俺を包み込んでいた光も徐々に収まり、俺の体を締め付けている感覚が蘇ってくる。
だが、少しだけ感覚が違う。チュニックが締め付けているのではなくコアが俺に抱き付き、そして自身の口で俺の口を塞いでいる。
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