1 / 1
第一話
しおりを挟む「昔はさ、こんなに課金課金ってうるさくなかったじゃん。なんで最近のゲームはこう、やたらとしぼりとってくるのやら」
「じゃあやめたら?」
「昔はさ、一定金額払ったらそりゃあもう遊び放題だったわけよ」
「しらないってば」
「お前だって父さんがゲーム好きなのは知ってるだろ?」
「じゃあ文句言わずにやっててください」
「……冷たい娘だこと」
リビングのソファに並んで座って、方やテレビゲーム、方や友達(?)と連絡を取り合っている。
自慢でかわいい娘なのだが、思春期なのか反抗期なのか、最近父親に冷たい気がする。それはそれで可愛いのだが。
と、あまりにも夢中になってるようだから父として保護者として相手が気になるってもんで。
「……彼氏、とかじゃないよな?」
ツンケンした顔でスマホをタプタプしている娘に声をかけた。いかんせんまだ中学生という若さで彼氏なんてできたら、お父さん困っちゃう。
「お父さんに関係ないじゃん」
「気になるお年頃なんですよ」
「……友達」
「……まだ?」
「もうっ!それ以上聞いてくるならどっか行って!」
「痛い痛い!」
ソファに上げていた足でこっちをガスガスと蹴ってきた。行儀は悪いが家の中なのでうるさく言うことはしない。
相手を探るのを諦めて、ポーズしていたRPGの続きをする。
娘と二人暮らしのこの一軒家。
元々この子の母親、俺の妻と三人で暮らしていたのだが、三年前の冬に交通事故で亡くなってしまった。
妻は一つ上の先輩の友達で、先輩が中心となって開かれた飲み会に参加したときに知り合って、そのまま意気投合して交際。何をするにもポジティブ&楽観的な人で、結婚もプロポーズなんてかしこまったことはせず、ノリで市役所に連れていかれて、その場で印鑑を押して提出した。後に聞いたら「一緒なら楽しそうだしうまくいく気がするから」と感覚派丸出しの言葉を頂戴しました。
実際結婚生活は順風満帆で、娘ができてからも忙しかったりドタバタしたところもあったけど、妻の楽しそうで嬉しそうな笑顔を見ると、なんでも良かった。今でも鮮明にあの笑顔は思い出せる。
しかし職場で妻の事故の知らせを聞いたとき、顔から血の気が引いていくのがはっきりと分かり、病院に駆けつけた時には、もうすでに息を引き取った後だった。
娘も小学校の高学年に入り、これからさらに忙しくなるなぁと前の日の夜に話していたばかりだったこともあってか、いろいろと頭の整理ができなかった。
しかし世の中は妻の死の余韻に浸るというか引きずっている暇も与えてくれず、葬儀やらなんやらを済ませた一週間後には、また仕事に復帰していた。俺自身、娘を守らねばと考えるしかなかった。今思えば、娘がいたから今の自分がいるのかもしれない。
あの楽観的を具現化したような性格の妻のことだから、あの世でも「死んじゃった。メンゴ」とか言ってるような気がしてならなかったし、もしかしたらまたひょっこり玄関からやってくるのではないかと思っていたこともあった。まぁ現実はそんなに楽観的ではないらしい。
そんなこんなでよく言うシングルファーザーとなった俺は、男で一つで娘を養っていくことを決めた。実家や妻のお義母さん達からはあーだこーだ言われもしたけど、なんとなく妻に怒られそうな気がしてやんわりと断った。それでも娘のことが心配なのか、時々連絡が来るけど、今となっては回数も減った。連絡の内容は娘のことばかりで、少しは俺の心配もしてほしいもんだと愚痴をこぼしたこともあったが、「自分で決めたんなら頑張りなさい」と一蹴されてしまった。そりゃそうだ。
そして今に至っている。
ふとテレビの上にかけている時計を見ると、二十二時を回っていた。
んーっと伸びをすると、いつの間にかスマホを置いて、俺がしているゲームをぼんやりと見ていたであろう娘と視線が合う。
「そろそろ寝るか」
「ん」
ソファを立ち、俺はゲームを消し、娘はスマホを持って、階段を上って二階にあるそれぞれの部屋へと向かう。特に約束事として決めているわけはないのだが、各自の部屋に戻る時間は一緒になっている。なんとなく気が付いたらそうなっていた。娘も嫌々そうしているわけではないので、俺としてはこれでいいと思っている。
「じゃあおやすみ」
「おやすみ」
娘が部屋に入るのをドアが閉まる音で確認し、俺も自分の寝室に入った。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった
海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····?
友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる