父と娘の他愛ない日常

山田シュウ

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第一話

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「昔はさ、こんなに課金課金ってうるさくなかったじゃん。なんで最近のゲームはこう、やたらとしぼりとってくるのやら」
「じゃあやめたら?」
「昔はさ、一定金額払ったらそりゃあもう遊び放題だったわけよ」
「しらないってば」
「お前だって父さんがゲーム好きなのは知ってるだろ?」
「じゃあ文句言わずにやっててください」
「……冷たい娘だこと」

 リビングのソファに並んで座って、方やテレビゲーム、方や友達(?)と連絡を取り合っている。
 自慢でかわいい娘なのだが、思春期なのか反抗期なのか、最近父親に冷たい気がする。それはそれで可愛いのだが。
 と、あまりにも夢中になってるようだから父として保護者として相手が気になるってもんで。
 
「……彼氏、とかじゃないよな?」

 ツンケンした顔でスマホをタプタプしている娘に声をかけた。いかんせんまだ中学生という若さで彼氏なんてできたら、お父さん困っちゃう。

「お父さんに関係ないじゃん」
「気になるお年頃なんですよ」
「……友達」
「……まだ?」
「もうっ!それ以上聞いてくるならどっか行って!」
「痛い痛い!」

 ソファに上げていた足でこっちをガスガスと蹴ってきた。行儀は悪いが家の中なのでうるさく言うことはしない。
 相手を探るのを諦めて、ポーズしていたRPGの続きをする。


 娘と二人暮らしのこの一軒家。
 元々この子の母親、俺の妻と三人で暮らしていたのだが、三年前の冬に交通事故で亡くなってしまった。
 妻は一つ上の先輩の友達で、先輩が中心となって開かれた飲み会に参加したときに知り合って、そのまま意気投合して交際。何をするにもポジティブ&楽観的な人で、結婚もプロポーズなんてかしこまったことはせず、ノリで市役所に連れていかれて、その場で印鑑を押して提出した。後に聞いたら「一緒なら楽しそうだしうまくいく気がするから」と感覚派丸出しの言葉を頂戴しました。
 実際結婚生活は順風満帆で、娘ができてからも忙しかったりドタバタしたところもあったけど、妻の楽しそうで嬉しそうな笑顔を見ると、なんでも良かった。今でも鮮明にあの笑顔は思い出せる。
 しかし職場で妻の事故の知らせを聞いたとき、顔から血の気が引いていくのがはっきりと分かり、病院に駆けつけた時には、もうすでに息を引き取った後だった。
 娘も小学校の高学年に入り、これからさらに忙しくなるなぁと前の日の夜に話していたばかりだったこともあってか、いろいろと頭の整理ができなかった。
 しかし世の中は妻の死の余韻に浸るというか引きずっている暇も与えてくれず、葬儀やらなんやらを済ませた一週間後には、また仕事に復帰していた。俺自身、娘を守らねばと考えるしかなかった。今思えば、娘がいたから今の自分がいるのかもしれない。
 あの楽観的を具現化したような性格の妻のことだから、あの世でも「死んじゃった。メンゴ」とか言ってるような気がしてならなかったし、もしかしたらまたひょっこり玄関からやってくるのではないかと思っていたこともあった。まぁ現実はそんなに楽観的ではないらしい。
 そんなこんなでよく言うシングルファーザーとなった俺は、男で一つで娘を養っていくことを決めた。実家や妻のお義母さん達からはあーだこーだ言われもしたけど、なんとなく妻に怒られそうな気がしてやんわりと断った。それでも娘のことが心配なのか、時々連絡が来るけど、今となっては回数も減った。連絡の内容は娘のことばかりで、少しは俺の心配もしてほしいもんだと愚痴をこぼしたこともあったが、「自分で決めたんなら頑張りなさい」と一蹴されてしまった。そりゃそうだ。
 そして今に至っている。

 ふとテレビの上にかけている時計を見ると、二十二時を回っていた。
 んーっと伸びをすると、いつの間にかスマホを置いて、俺がしているゲームをぼんやりと見ていたであろう娘と視線が合う。

「そろそろ寝るか」
「ん」

 ソファを立ち、俺はゲームを消し、娘はスマホを持って、階段を上って二階にあるそれぞれの部屋へと向かう。特に約束事として決めているわけはないのだが、各自の部屋に戻る時間は一緒になっている。なんとなく気が付いたらそうなっていた。娘も嫌々そうしているわけではないので、俺としてはこれでいいと思っている。

「じゃあおやすみ」
「おやすみ」

 娘が部屋に入るのをドアが閉まる音で確認し、俺も自分の寝室に入った。
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