目の前の炎

木山優真

文字の大きさ
上 下
5 / 5
旅の始まり

1-4

しおりを挟む
10月19日

戸塚駅から二軒家のバス停までバスに乗る。バスに乗ると見たことがある顔があった。池田だ。他は高齢の爺さん婆さんしか乗っていない。それもその筈、訓練センターの周りにはなにもないし、他の「真面目な」消防士を志願している奴らは集合時間が10時なのだ。だが俺と池田が揉めてしまった為に体力試験が17日にできず、今日の面接前に行うという事だった。揉め事というか俺が遅刻したせいで池田を巻き込んだっていうだけなのだが…

そんなこんなで訓練センター直近のバス停に着いた。直近といってもかなり遠い。17日のようにまた登山を始める。池田は凄いスピードで登っていく。大丈夫、今日は遅刻しない。池田の姿が小さくなっているが9時集合で今は8時56分。そして門をくぐる。今日は間に合った。だが、またリュックを掴まれた。「1分遅刻」この聞きたくない声。教官の田中だ。「消防は5分前行動が重要だ。お前のために今日時間を取ってやったんだぞ。まぁいい、いずれか分かるよ。来い。」そう田中が言い、俺は体育館に案内され体力テストを行った。内容としては高校のスポーツテストと同じだった。だが体が鈍っている俺にはかなりきついものだった。

「消防士になったらどういうことがしたいですか?」こう言われて明確に答えられる奴は居るのだろうか。俺は「火を消したいです。」と答えた。今は面接の時間。個室で一人一人呼ばれて面接をする。俺は何も考えずに「火を消したいです。」と言うと面接官は顔をしかめながら「消防を何故目指したんですか?」と続けてきた。「東日本大震災の原発で活躍していた消防士を見て、私も人を守る仕事に就きたいと思い地元横浜の消防に就職しようと思いました。」と言う。この文だけはあらかじめ考えていた。震災とかそういう単語を使うと受かりやすいというネットに書いてある記事を見たからだ。「分かりました。以上です。お疲れ様でした。」と面接官が言う。俺の面接は他の人より早く終わった。もうこれは落ちたなと思いながら部屋を出た。すぐ不合格と伝えられる事はないので俺は身体検査へ向かった。

これから身体検査ということで高卒程度の一次試験合格者が体育館に集まった。教官の説明を聞きながら俺は周囲に目をやる。あのカンニングさせてもらった奴を探していた。だが見つからない。一次試験合格者は170人くらいだろうか。何回も何回も周りを見たがやはりいない。辞退したという可能性もあるが、あの時俺が「ウ」から「ア」に変えたから奇跡的に合格したのかもしれない。俺はにやけが止まらない。今にでも誰かに自慢したい。私語は厳禁なので誰にも話しかけられないのが辛い。

なんか試験、カンニングしたんだけどカンニングした相手落ちてちょっとだけ答え変えた俺だけ受かったの草生えるw「ツイート…と。」バスに乗り、即座にツイートして俺は満足感に浸っている。後は最終合格発表を待つだけだ。家に帰ったらバトルロワイヤルをするか戦略系ゲームをするかどうしようかと考えていたらいつの間にか俺は眠りに着いていた。

    
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...