目の前の炎

木山優真

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旅の始まり

1-3

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10月17日

俺は登山をしている、いやこれは例えなのだがこれは1年間ずっと家でゲームをしていた俺にとっては登山に等しい。ゼェゼェ言っている俺を横目に皆、すごいスピードで坂道を登る。なんでこいつらは疲れないのだろうか。少しゲームしかしていないかったのを後悔した。ここは戸塚区にある消防訓練センター。バス停からの距離もかなり遠いし、訓練センターは坂の上にある。

集合時間は10時。今は10時02分。父親から貰ったGショックで時間を確認して、少し遅れてしまったが別に大丈夫だろう思っていた。ようやく訓練センターの門が見えてきた。10時04分俺は門をくぐった。その瞬間耳元で笛が吹かれた。「ったく!うるせぇなあ!」咄嗟に声が出た。「今何時だ」低い声が響く。俺が口答えをしようとしたらまた低い声が響いた。「現場では1分1秒が命取りだ。お前消防舐めてるのか?人救いたいんだろ?」その低い声の主は教官の田中というやつだった。田中の言っている事は全く心に響かない。俺は人を救いたくて消防に入ったわけでもないし、給料が高ければそれで良いのだ。「はい、すみませんでした。」これだけ言って俺は立ち去ろうとしたのだが、リュックを掴まれた。「腕立て200回。」またまた低い声が飛んできた。これは無茶だ。今の体力で200回やったら倒れて死ぬ。「俺は違う仕事がある。おい、お前見とけ。」どうやら教官が俺を監視するのではなく、俺と同じ体力試験を受けに来た奴が監視するらしい。「なんで俺が… 早くやれ」胸元に目をやると池田という文字が見えた。こいつの苗字は池田というらしい。どこか熱気に満ちた顔だがその裏には冷静さが隠れていそうな顔。まさに消防士というような顔つきだ。「すまんな」とだけ言うと俺は鈍った体に鞭打って腕立て伏せを始めた。

あれからどれだけ時間が経ったのだろう。訓練センターの体育館から人が出てくる。訓練センターの門のど真ん中で腕立てをしている俺を鼻で笑いながら皆帰っていく。腕立て伏せを始めてから2時間経ったが今146回終わったところだ。池田はなにも言って来なかったがしびれを切らしたのか遂に声を掛けてきた。「お前なぜ消防士を目指した?」俺は早くしろとか催促の言葉を掛けられると思っていたので少し驚いたがその質問に瞬間的に返答する。「金、女、楽そう。」思い切り胸ぐらを掴まれ花壇に投げられる。「なぁ、お前そんな事の為に消防に入ろうと思ったのか?なぁ… お前… お前…」拳が飛んで来ることを覚悟して顔を下に向けた。だが拳が飛んでこない。恐る恐る顔を上にあげると教官の田中が池田の手を止めていた。「体力試験の段階で喧嘩するとは大したもんだよ。お前らもう体力試験終わってしまったから19日の面接と身体検査の日早く来い。」田中はそう言葉を放つと教官室とやらに帰っていた。俺は不合格とか言われると思っていたけど、別日に時間を設けてくれるのかと関心した。「無駄な手前掛けさせやがって。」池田はそう言って去って行った。確かに金、女、楽そうという言葉は軽すぎたかと思ったが本心はその3つだ。俺も池田の後を追うように訓練センターを出る。

そういえばカンニングをした時に隣に座っていた奴は合格しているのだろうか。そんな事をふと思う。今度の面接の日に見てみようと思いながら訓練センターの坂道を下る。また2日後にここに来る為にこの坂を登らないといけない。はっきり言って俺にとっては面倒臭い。
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