目の前の炎

木山優真

文字の大きさ
3 / 5
旅の始まり

1-2

しおりを挟む
10月12日

いつも通り俺は引きこもってゲームに熱中していた。10月12日がなんの日かも忘れて。俺はあの一次試験の日から家に引きこもっていた。なぜか合格しているという自信があったからだ。当時の学校の担任も最初のうちは電話を掛けてきたり、心配している素振りを見せてきたが不合格だったのか?と思ったようでもう電話もなにもしてこない。そういえば通っていた学校には合格発表が10月12日だという事を言っていなかった。それなら間違えられても同然だ。親にもてきとうな理由を付けているが、こっちも不合格だったと思ったらしく慰めの言葉と次は頑張ろうという言葉を掛けてきた。こっちにも合格発表が10月12日という事を言っていなかった。一次試験の日から我が子がずっと部屋に引きこもっていたらそれは親も心配するだろう… もう10月に入った頃くらいから親もなにも言ってこなくなっていた。

ゲーム中、眠気を晴らそうと思ってパソコン画面から目を逸らした。そしたら地面に無造作に置かれている横浜市消防局のパンフレットが目に入った。「あぁ… 今日だったな」と思いだし、ゲームのタスクを切って合格発表のページへ飛ぶ。面倒臭い受験者情報を入力して、受験番号が書かれているページへ。俺の番号は128。マウスを動かしてスクロールをする。101、103、104、108といった具合に案外合格してるじゃんと安心する。さらにスクロールして115、125… 顔がジワジワ赤らむ。「これ… やばないか…」一気に10人飛んだ事への焦りが隠せなくなる。俺は目を瞑ってスクロールする事を決めた。ゆっくりとマウスを動かした。そして目を開けた。

128、130…

「あった、あったわ」咄嗟にこの声が出た。にやけは止まらないが口からはこの言葉しか出なかった。必死に頑張っていた人は大声で叫んだりするのだろうが、なにせカンニングしただけの俺は奇跡、まぐれ当たりという感覚なだけだった。しかしやはり心のどこかでは嬉しかったらしく、親に大声で「消防受かった!!」と2階の自分の部屋から伝えた。なにを今更。頭おかしくなったか?と言わんばかりの返答が1階から返ってくる。もう見せた方が早いと1階にズタズタと降りて行って、パソコンの画面を父親と母親に見せつけた。そしたらポカーンという表情でパソコンを見た後、父親から抱き締められた。父親に抱き締められたのは初かもしれない。「良く頑張った、良く頑張ったぞ祐介」と言われた。父親に誉められのはいつぶりだろう。母親は泣いている。よほど嬉しかったらしい。そして父親は抱き締めた後、俺に時計をプレゼントしてくれた。それは新品の「Gショック」。うちは貧しいといえば貧しい家庭だったので高い物は誕生日にも買ってもらえなかった。パソコンだって自分のバイト代で買ってたし、チャリだって親のお下がりだった。「この時計は祐介が一次試験に合格した時に渡そうと思って買っていたんだ。祐介が落ちたと思っていたからもう捨てようかと思ってた。」と言われてハッとした。まだ一次試験に受かっただけなのだ。後は体力試験、面接、身体検査がある。日にちは消防側が指定するらしいのでそれまでやっぱり俺はゲームをすることにした。どうせ消防士になっても時間はあるだろうけど、やはりゲームがしたい。という事で俺は部屋に戻りゲームのタスクを開いた。

Gショックくれるくらいなら新品のPCが欲しい。消防士になったらゲームをする時間なんて無くなるのだろうか、それは絶対に避けたい。なんて思いながら俺は画面の中の世界で武器と弾薬をかき集めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

処理中です...