ツイノベ置き場

志麻友紀

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【白雪髭】※

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「鏡よ鏡よ鏡さん、世界で一番ダンディなのはだぁれ?」

 悪い魔女ならぬ悪い魔男は鏡に聞きました。それに鏡は答えました。

「世界で一番ダンディなのはもちろん、あのお方、白雪髭にございます」

 白雪髭とはこの王国の王子。艶やかな黒檀の黒髪に雪のように白い肌。そして艶やかな黒い口髭もダンディな美丈夫。当然、王宮の貴公子も騎士も、農夫達も王子のダンディさにメロメロです。
あ、言い忘れていました。この世界には男しかいません。

「こ、この私よりあんな若造がダンディなんて許せない」

 悪い魔男にして、この国の後妻の王妃である魔男はぷるぷると怒りに震えました。そして、白雪髭を王宮から追放した上に殺して、その証拠にその肝臓を持ってくるようにと猟師に命じました。

 猟師は白雪髭を森の散歩へと誘い出し、殺そうとしましたが、しかし、何も知らない彼の穏やかな微笑みと、その切れ長の瞳の眼差しに、どうしても殺すことができず、その長い足を包むブーツの靴にひたいを擦り付けるようにして自らの罪を告白し、彼に逃げるようにいいました。

 「感謝するよ」と白雪髭はダンディに手をひらりと挨拶して猟師から去り森の奥へと消えて行きました。猟師はそのすらりとした後ろ姿を呆然と見送ったあと、若鹿を仕留めてその肝臓を白雪姫の物だと偽って、悪い魔男に差し出しました。

 悪い魔男はその肝臓をステーキにしてペロリと平らげて、これで白雪髭の美は自分のものと高笑いしました。

 その頃の白雪髭は……。

「ああ、行かないで白雪髭。たとえ王妃様に八つ裂きにされようとも、あなたの御身を守りたい」
「わかっておくれ、小鳥さん。私のために、あなたのその綺麗な羽を散らしたくない」

 そうして、瞳を潤ませる小鳥さん……一晩かくまってくれた青年の額に、白雪髭はキスをして去っていきました。

 小鳥さんの次は、子鹿さん、子鹿さんの次は、若馬さんと、白雪髭は一つところに二晩ととどまらず、渡り歩きました。みな、白雪髭のダンディの信奉者。たとえ悪い魔男に殺されても構わないという気でした。が、白雪髭は彼らの命を散らしたくはないと、二度とは彼らの寝台に戻ることありませんでした。

 誰だ! やり○んというのは?いやいや、これこそダンディというのです。その証拠に一晩で去って行く白雪髭をひと夜だけの小鳥さんは子鹿さんや子リスさん達はけして恨むことありませんでした。彼があの黒い瞳に自分をうつし、黒いお髭の下の赤い唇で微笑んでくれた。それだけで幸せだったのでしたから。

 さて、白雪髭を殺し、その美……ダンディを自分のものにしたと思っていた、悪い魔男はさいど鏡に訊ねました。

「鏡よ鏡よ……」
「白雪髭です」

 鏡は全部を尋ねる前に面倒くさそうに答えました。同じ事を何度も言わせるなどばかり。それは鏡として職務タイマンではないのか?……はともかく。

 白雪髭が生きていることを知った悪い魔男は怒り狂い。今度こそ自分で息の根を止めようと、パン売りに身をやつして、次の小鳥さんだったか、子リスさんだったかの家に向かおうとしている白雪髭の背後から襲いかかり羽交いじめにしました。

 ちなみに白雪髭が小鳥さんや子鹿さんや子リスさんと彼らに呼びかけるのは、自分の信奉者がたくさんいすぎて顔と名前が覚えられないからの適当な呼び名です。よく考えるとひどい男ですが、白雪髭が甘い声でそうささやくと、この間は小鳥さんだったけど今度は子鹿、ま、いいや~と誰もが思ってしまうので

 ともかく、悪い魔男は白雪髭の口にパンをねじ込んで、そのパンで白雪髭の息は瞬時に止まってしまいました。毒リンゴ?それなに?そんなまどろっこしい方法より、物理が一番だよと、悪い魔男はいいました。誰に?

 息が止まり瞳を閉じた白雪髭の姿に、信奉者の小鳥さんや子鹿さんや子リスさん達は嘆いて、職人に特注させてガラスの棺を作らせて、その中に彼の身体を納めました。その姿はまるで眠っているよう、黒い艶やかな髪も白い肌も、黒いお髭も、赤い唇はうっすらと微笑みを浮かべてさえいるようで。

 白雪髭が亡くなったことを小鳥さんや子鹿さんや子リスさん達が嘆いていると、そこに“なぜか”隣国の王子様ならぬ、王様が通りかかりました。童話では高貴な方がなんでこんなに偶然に通りかかるのか、ホント不思議ですね。

 「お前達、なにを嘆いている?」と声をかけた王様の姿に、小鳥、鹿、リスたち(たくさん)は言葉を失いました。
 その王様はロマンスグレーのそれはそれは渋々のダンディだったのです。白雪髭もダンディですが、もう年季が違ういぶし銀のダンディです。これぞキングダンディです。王様ですし。

 王様はガラスの棺に眠る白雪髭を見て「ああ、これはなんと端正な」とため息をつき、一目で恋に落ちました。「彼こそ我が后に相応しい」ロマンスグレーの王様にはお后様がいませんでした。いままで一人も。そうロマンスグレーになるまで。

 ガラスの棺の蓋を開けさせて、ロマンスグレーの王様は白雪髭を抱きおこしました。その瞬間、白雪髭の喉に詰まっていたパンがぽーんと勢いよくその口から宙に飛びだし、白雪髭は目を覚ましました。
黒曜石の目を彼が開くと、目の前には自分以上にダンディなロマンスグレーの王様。

 「あなたは……」白雪髭が白い頬を染めると、ロマンスグレーの王様は我慢出来ずに、彼に口づけました。ただ触れるだけでなく、舌もがっつり絡ませるこい奴を。白雪髭は一瞬目を見開きましたが、すぐにとろりとその瞳を潤ませました。そして、唇が離れたときにため息をとともにいいました。

「私の初めての口づけを奪うなんて……責任をとってください」

 そう、白雪髭はファーストキスもまだだったのです。小鳥さんや子鹿さんや子リスさんとは?ええ、彼らとはただ一緒のベッドにお手々を繋いで眠る清いお友達だったのです。

「もちろん責任はとる。わが后よ……」

 ロマンスグレーの王様はテノールの白雪髭の美声とまた別のバリトンの美声で応え、再び口づけ、ガラスの棺の中、花に囲まれたその身体を暴きました。
ここが王都の広場のど真ん中で、小鳥さんや子鹿さんどころか、街の人々が見てるんですが。

 高貴な方々などには羞恥などという下々の持つ卑屈な感情などないのでしょう。青空の下、白雪髭の引き締まった身体と、ロマンスグレーの王様の年輪を経たぶ厚い肉体が絡み合います。飛び散る花びらに白雪髭のテノールの美しい嬌声。

 小鳥さんや子鹿さん達は両手で目を隠すふりをしながら、開いた指の隙間からバッチリみてました。
そこに騒ぎを聞きつけた、悪い魔男がやってきました。ガラスの棺の中で絡み合う、二つの黄金律の身体が合体し、そこからはっする光に魔男の目は灼かれて叫びました。目が目がぁ!

 魔男の身体はさらさらと砂のように崩れ去り消えてしまいました。二人の愛の勝利です。
白雪髭の王国とロマンスグレー王様の王国は一つとなり、国は永遠に栄えたそうです。

 ダンディの伝説とともに……。





【完】




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