【完結】白豚王子に転生したら、前世の恋人が敵国の皇帝となって病んでました

志麻友紀

文字の大きさ
31 / 38

【31】たった一人と国の価値 その2

しおりを挟む
   


「将来の皇妃にして愛する婚約者であるラルランド王国の王子の懇願を受けて、帝国の皇帝陛下は魔女の魔の手から王国の民を救う。もちろん、自分の息子であるカイ皇子も取りもどす。
 表向きのラルランド侵攻の理由はこんなところだ。いかにも民が熱狂しそうな“正義の戦い”じゃないか」

 ニヤリとリシェリードは人の悪い笑みを浮かべる。
「裏の“密約”としては、ラルランドに帝国軍はそのまま常駐し属国化する。一度目の魔女であった聖女が先導しての神殿と貴族の叛乱。それに今度の二度目の魔女の王国乗っ取りだ。今のラルランドには抵抗する力などないさ」

 カイ一人の救出のために軍は動かせないと難色を示す、将軍達や大臣もこれならば首を縦にふるだろう。大義名分のある正義の戦いと小国といえど豊かな土地であるラルランド一つが手に入るとなれば。
 「王子たるあなたが国を売られるというのか?」と侮蔑も露わに険しい表情となるオドンに、リシェリードは「王子? 王国? それがどうした」と返す。

「魔女の支配が続くのなら、どのみち王国の未来はない。魔道の能力がある者はオーブ造りのために強制的にかり出され、他の民は奴隷同然に搾取されたあげく、末路は化け物だ。
 そうなれば王や貴族の区別もあったものではないが、一番はそこに暮らす人々の安寧だ。彼らにはそれが王様だろうと、皇帝だろうと。自分達の暮らしを守り労ってくれる統治者であるならば、誰でもいい」

 三百年前、リシェリードが帝国の祖先たる騎馬民族をはじき出し、国を結界でおおったのは、略奪と破壊を繰り返すのみの彼らとは、相容れなかったからだ。

「今の帝国には“立派な”皇帝陛下がいる」

 リシェリードはいまだ自分を抱きしめたままのヴォルドワンをその腕の中から見上げて。

「ラルランドに遠征し、私を“戦利品”として連れ帰ったときに、責め立てる選帝侯達にそう“言い訳”しただろう? 
 ラルランドは戦わずして帝国と皇帝の威光に屈服して、王子を人質として差し出したと。もはやあの国は帝国の属国も同然だと」

 ヴォルドワンが気まずそうに目を反らすのに、リシェリードはくすりと笑う。「あなたの耳は聞こえすぎるな」と言われたので「文句は噂話好きのシルフィードに言ってくれ」と返す。
 「かの国を属国同然としてから、ゆるゆると併合していけばよい」とそこまで皇帝陛下が選帝侯や大臣達に言ったのを知ってることは、リシェリードは黙っておこうと思った。

 ヴォルドワンとしてはラルランドが帝国領に組み込まれようが、組み込まれまいが、リシェリードがそばにいれば結果的に良いと思っていただろう。
 リシェリードには王国を盾にとるような形で、己のそばにいろと強要し、自分の家臣たちにはいずれはラルランドは帝国のものとすると……その二枚舌のズルさをリシェリードは責める気もなかった。

 統治者なんてズルいものだ。賢王や善良王だなんて、そんな夢を民に見せている時点で十分に腹黒い。魔法王も同様と……リシェリードは自分のことに内心で苦笑する。
 リシェリードには“王国”という制度にこだわりはない。三百年前、自分が王となったのは、人々はその価値観しかなかったからだ。暴君が倒れたあとは、優れたものが自分達を指導する。それが王であり魔法王リシェリードだった。
 もし、リシェリードの治世が一年と短くなく、もっと長かったならば、別の可能性もあったのだが、それはともかく。

「そうだ。この際、ラルランドを属国とするなど“生ぬるい”。魔女の混乱が二度もあったどさくさに、ラルランドの王から帝国の皇帝へ王位を譲位させてしまえばいい。
 あの気弱な父と兄のことだ。元王侯としてのそれなりの待遇と生活が保障されていれば、あっさりと羊皮紙に署名するだろう。
 ああ、三百年のあいだにいつのまにか増えすぎた、穀潰しの貴族共はあっさり切り捨てていいぞ。どうせ奴らには、選帝侯達のように皇帝に楯突くような気概も財も私兵もないからな」

 三百年、魔法王が張った結界に守られるがまま、ただ進歩もなく安穏と過ごしてきた、自身が王に指名した従兄弟の子孫と、そして同じく貴族にした仲間達の末裔を、リシェリードはあっさりと切り捨てた。彼らは三百年前、共に国を創り上げた仲間ではない。それを受け継ぎ国を発展させるべき責任を放棄した者達だ。

「正直、三百年ラルランドが時を止めていたあいだに、帝国だけでなく周辺国とて技術の進歩はすさまじいだろうな。どちらにしろあの国はあのままではいられない。帝国に呑み込まれるのは運命だ……とは詩的過ぎるな。
 私もヴォー。お前の皇妃になる覚悟を決めたぞ。結婚式でもなんでもやるとよい」

 「リシェリ……」感激の声を漏らすヴォルドワンに対して、リシェリードはようやく求婚を受けたという、甘さはかけらもなく。

「併合してすぐにラルランドの民が帝国に馴染むわけがない。逆に帝国民からの差別もあって当然だ。
 皇妃としての私の仕事はそれだな。二つの民の融和のためならば、いくらでも綺麗ごとを並べて象徴でもなんでもなってやる」

 あくまで現実的なリシェリードに、感激の夢から一瞬で覚めて、なんとも言えない顔をしたヴォルドワンに、オドンが笑い声をあげる。

「いやいや、皇妃様にはまいりました。自らの息子を救いにいく父親である皇帝に、民は感激し熱狂いたしましょう。
 ラルランドの民を救い、魔女のもたらすだろう世界の破滅を防ぐ。その大いなる正義という錦の旗の名誉と、ラルランド一国を手に入れるという利には、大臣も将軍も納得するでしょう」

 オドンは続けて。

「すみやかに御前会議を召集いたしましょう。もちろん陛下の隣には皇妃様もお座りなされて」

 「私も出ていいのか?」とリシェリードが訊けば「もちろん」とオドンはうなずく。

「例の愚か者三人も、ようやく人間の言葉を取りもどしたようですが、皇妃様がいらっしゃれば会議で余分な差し出口をすることなく、大人しくしているでしょう」

 「今度は大臣に将軍まで揃ったところで、家畜の鳴き声はあげたくないでしょうな」との言葉にリシェリードも思わず吹き出してしまう。

「たしかに会議に出られなくとも、ヴォーに頼むつもりではあったんだ。
 魔法研究所の魔道士達の手を借りたい」

 種を吐きだした彼らは当然すぐに正気に戻った。議場を襲った魔道士達も、ピムチョキンにあやつられていたということで、その罪は問われないという。
 リシェリードとしてもここで優秀な魔道士達、多数を失うなどしたくない。

「魔法王国といいながら、ラルランドには帝国ほどに優秀な魔道士達はまとまっていないからな」

 宮廷魔道士達にしろ転移の魔法は短距離を休み休みの有様だった。今頃魔女にオーブを作る様に、そのなけなしの魔力を搾り取られているかもしれない。

「だが帝国の魔道士達と生み出されたオーブの力があれば、三百年前に成せなかったことが、今度こそ成せる。
 魔女の魂の完全なる封印を……」



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 ヴォルドワンとオドンの二人はリシェリードの寝室をあとにした。もう起きあがれると主張した彼だが「三日も寝ていたんだから、もうしばらく身体を休めなさい」というヴォルドワンの言葉に、しぶしぶと寝台に横になった。
 別宮の廊下、先歩くヴォルドワンをオドンが「陛下」と呼び止める。

「皇妃様がお語りになられた、三百年前のことですが……」
「忘れろ」

 ヴォルドワンがひと言告げれば、オドンは「はい、夢でも見たことにいたしましょう」とうなずく。

「その夢の内容を他人に話すこともいたしません」
「…………」

 自分一人の胸の内におさめて、けして漏らすことはないという老人の言葉に、ヴォルドワンはうなずく。

「さて、そんな“良き夢”を見た、ここからは老人のたわごとですが」

 そう彼は続けて。

「ずっと魔法王とは伝説の彼方にある、憎い敵でもありました。我らを拒む壁を創り上げた偉大なる王。そう、敵でありながら、ある意味では畏怖していたのかもしれませぬな。
 魔法など、魔道士でもない者からすれば、まったく途方もないものだ」

 「その魔法王があのように可愛らしい方とは知りませなんだ」とオドンはくすりと笑う。

「我ら帝国の者は、その魔法王に感謝せねばならないのかもしれませぬな。千々に乱れていた蛮族だった我らを一つにまとめ上げた英雄を、この北の地に送り込んでくれた。
 それがなければ我らはいまだテント暮らしに馬を駆って、他の民族から略奪を繰り返す暮らしをしていた」

 「偉大なる魔法王と、我が帝国の始祖たる初代皇帝陛下に最上級の敬意を」とオドンは深々と頭を垂れて、「さて、皇妃様の体調が戻られるのを待って、会議を開かねばなりませぬ。さっそく、方々にもうしつけて準備を……」と別宮を退出する挨拶をして、ヴォルドワンの前から去った。





しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

ぼくの婚約者を『運命の番』だと言うひとが現れたのですが、婚約者は変わらずぼくを溺愛しています。

夏笆(なつは)
BL
 公爵令息のウォルターは、第一王子アリスターの婚約者。  ふたりの婚約は、ウォルターが生まれた際、3歳だったアリスターが『うぉるがぼくのはんりょだ』と望んだことに起因している。  そうして生まれてすぐアリスターの婚約者となったウォルターも、やがて18歳。  初めての発情期を迎えようかという年齢になった。  これまで、大切にウォルターを慈しみ、その身体を拓いて来たアリスターは、やがて来るその日を心待ちにしている。  しかし、そんな幸せな日々に一石を投じるかのように、アリスターの運命の番を名乗る男爵令息が現れる。  男性しか存在しない、オメガバースの世界です。     改定前のものが、小説家になろうに掲載してあります。 ※蔑視する内容を含みます。

大事なものは鳥籠に

おもちDX
BL
アネラは五年前国外追放の身となり、それ以来辺境でひっそりと暮らしている。限られた人にしか会えない生活は寂しいけれど、隠れ住むしか生きるすべはない。 しかし突然アネラの元に第二王子リノエルがやってくる。リノエルはアネラの元婚約者で、アネラを追放した張本人だ。ずっと愛していたと告白され、急な展開にアネラはブチギレる。 「人を振っておいて、ふざけるなって言ってるんですーーー!!」 事情を抱えた第二王子×追放され逃亡した元貴族 Kindleにて配信していた『逃げる悪役令息アンソロジー』への寄稿作です。

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。 15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。 その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。 そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。 だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。 そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。 「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。 前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。 だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!? 「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」 初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!? 銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。

処理中です...