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【32】旧宮殿での対決
しおりを挟むアジーズに抱きあげられたまま、ラドゥは地上へと出た。ハレムの庭には彼の愛馬が待っており、ラドゥは鞍の前に乗せられて、旧宮殿へと向かう。
「あんたも刺客を送られたと聞いた」
「お前と同じだ。隠し通路を使い内廷の執務室に黄のシニチェリがなだれこんできた」
『無事か?』と訊くまでもないだろう。アジーズは傷一つ負わずに、ラドゥを助けにきたのだから。
執務室は黒のシニチェリ達が当然警護していたが、秘密通路からいきなり現れ斬りかかってきた黄のシニチェリ達三人を、アジーズ自ら雷光を振るうがごとく瞬時に斬り捨てたとあとで聞いた。
常勝の知略とともに、常に戦場で先陣を切る銀獅子の勇猛果敢は有名だ。彼の武勇伝にまた一つ伝説が加わった。
旧宮殿に入るのにアジーズは下馬することなく、宮殿内へそのまま白馬で踏み込んだ。警備をしていた黄のシニチェリは、すでに先に踏み入った黒のシニチェリ達によって取り押さえられていた。
サフィエは外の騒ぎなどまったく知らない様子で、宮殿の奥、天井から吊された豪奢な吊りソファにその身を投げ出して、手と足の爪の手入れを侍女達にさせていた。傍らでは宦官がウードを優雅にかき鳴らしている。
彼女からすれば優雅な日常の延長として、ここで現帝王と寵姫が、黄のシニチェリの“正義”の叛乱により粛正されたと、その報告をくつろぎながら聞くつもりだったのだろう。
その二人が“生きて”現れたのだ。サフィエは明らかに顔色を変えながらも、「陛下といえどわたくしの館に馬のままでこられるとは、ずいぶんなことですこと」と狼狽えることなく言い放った。
アジーズはそれに答えることなく、自分の後ろに付き従っていた黒のシニチェリ達に目配せをした。シニチェリ達が三人前へと出て、自分達が担いでいた男を床に投げ出した。ベルガンの身体が重い音を立ててどさりと落ちる。
「“前”母后よ。あなたの使用人が黄のシニチェリを率いて、ハレムに押し入り私の唯一の夫人を害そうとした」
「まあ、それは災難でしたこと。しかし、それはその者が私怨かなにか知りませぬが、勝手にやったこと。わたくしはなにも知りません」
「黄のシニチェリは、私も暗殺しようとした。おそらくは帝王と母后、宦官長しか知らない万が一の逃走用の隠し通路を使って」
「それはそこの“元”宦官長だった男も知っているということでしょう。長年母后としてこの国を見続け、あなたの祖母でもあるわたくしがどうして、帝王であるあなたを害すると?」
あくまで床に転がる宦官長が一人でやったことだというのだ。
そして、たしかにサフィエにとっては血の繋がった孫にあたるアジーズを、どうしてそれほどまでに排除したがるのかラドゥには不思議ではあった。
あとで訊ねれば、アジーズは「権勢欲だ」と言った。
「あの女には思い通りにならない帝王より、自分の意のままにある幼君のほうがいいのだ」
たしかにアジーズの他にも直系ということにこだわらなければ他に男子はいる。いずれも幼い子供ばかりだ。
「もう一つあの女はただ“気に入らない”のだ。自分の“管理”にない女の子供などを帝王にしたくない。それだけだ」
そこに孫だとか、血のつながりがあることは関係ない。どこまでも自分の都合良くふるまえる人間がいることをラドゥは知っていた。
自身もただ“醜い”というだけで、実の父に荒野へとうち捨てられたのだから。
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