異世界へはロイヤルカーペットにのって

志麻友紀

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【1】赤い絨毯は異世界への直行便

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 彼の名はサエナリョウと言う。
 誰だ? 冴えないリョウと言ったのは? 
 それは幼い頃から変わらないあだ名だ。
 いまいち冴えないリョウ。
 どうせ平凡だ。それに彼自身も平凡な人生を望んでいる。
 独身。二十七歳。三十路には近すぎもなく遠くもなく、微妙なお年頃だ。恋人なし、当然結婚の予定もない。
 今日も町役場の窓口で、耳の遠い老女を相手にゆっくりと聞こえるように声を張り上げていた。
 そこにばさっばさっとの大きな音が響いてかき消された。いきなりの突風が老朽化した木造の役所の窓を叩く。
 思わず役所の外に目をやって、リョウは目を剥いた。
 役所の駐車場にドラゴンが降りたっていた。
 そうドラゴンだ!? どう見たってあれは金ぴかのドラゴン。西洋風の長い首にコウモリのデカい翼を持つあれだ、あれ。
 しかも、その金ぴかドラゴンの背から降り立ったのが。
 アラブの王様だった。
 いや、そうとしか表現出来ないだろう。
 宝石じゃらじゃらのターバンを頭に被り、そこから金の波打つたてがみみたいな髪がこぼれている。首にも腕にもこれまたじゃらじゃらした黄金に色とりどりの宝石。
 これが少しもくどすぎずに似合っているのが、ご本人がこれまたド派手だからだ。金の髪は言うにおよばず、その切れ長の瞳も金色。高い鼻に、上唇は薄く、下唇はほどよい厚みの肉感的な唇には不敵な微笑み。
 素肌には長いジレベストをまとい。その褐色の肌と腹筋を見せつけている。ゆったりとしたパンツに包まれた足は長い。
 そして、ジレと同様に金糸銀糸の刺繍がびっしりと施された靴が地についたとたんに、彼の足元から赤い絨毯が伸びた。
 そう、要人を空港などで出迎えるときに敷かれるあれだ。あれが全自動で役所へと真っ直ぐ伸びてくる。
 誰もがぽかーんとそれを見ている。

「それでこれはなんて書いてあるのかい?」

 対応している老女に話しかけられて、我に返る。耳の遠い彼女にはさっきの羽音と窓を叩く風の音が聞こえなかったようだ。

「お役所の言い方は難しくていけないよ。文字も細かいし」
「読んでお聞かせしますね」

 リョウは再びゆっくりとわかる様に話し始めた。

「おい」

 いきなり頭から声をかけられて、椅子に座っていたリョウは、そちらを見て、先ほどと同じく再び大きく目を見開いた。
 アラブの王様がなぜか目の前にいる。
 そして、二階の窓口にいる自分の前まで赤絨毯が敷かれていた。
 え? ここまであの自動絨毯伸びたの? とどうでもいいことを考えた。

「しばらくお待ちください。今、こちらの方をお相手していますので」

 王様がなにか口を開きかけたが、リョウはぴしゃりとそれを封じて、老女に向き直った。

「お待たせいたしました。お話の続きを」

 さすがに駐車場の王様登場の騒ぎに気付かなかった老女も、リョウの横に突っ立った異国の美丈夫をぽかんと見ている。

「いや、あたしよりその観音様のお話をまず聞いたほうがいいよ」
「はぁ……」

 なるほど老女の目にはこの金ぴかのアラブの王様が観音様に見えていると。

「うちの死んだ爺さんも信心深くてねぇ」
「それは良いお爺様だったのですね」
「観音様には良くても、あたしにはクソ爺だったけどね」

 憎まれ口を亡夫に叩きながらも笑顔を浮かべた婦人にこちらも笑顔で返して、さてとばかりに横に顔を向けた。
 するとアラブの王様は自分を呆然と見ている。心なしか、その褐色の絶妙なラインの頬も色付いているような。
 そして唐突に言った。

「俺と結婚しろ」
「嫌です」

 リョウは即答した。彼は金色の瞳を大きく見開く。

「このシャルムダーンの求婚を断ると?」

 最近のニュースでは聞いたことのない名前だなと、リョウは考える。どっかのアラブの首脳が来日したなんてのも見てないし。
 もっとも、ドラゴンに乗ってやってくる王様なんて聞いたこともない。
 今流行の異世界からとか。
 はは、まさかね……とリョウは心の中で乾いた笑いを漏らす。
 サブスクでなにげにずらずらと並んでいる異世界転移や転生とやらのアニメ。中身は見た事はないがタイトルだけは妙に長いのだけは記憶している。

「なぜだ?」
「いきなりやってきて、結婚してくださいと言われたって、はいそうですかと受ける者はいません。俺はあなたがどこのどなたなのか知らないんですから」
「俺はラナトゥーラの王だぞ!」

 やっぱり王様だったかと思うが、しかし。

「そんな国、知りません」

 リョウは冷たく返した。続けて。

「だいたい、あなたも僕も男ですよね?」
「問題ない。我が神々は全ての愛を祝福している」

 一神教じゃないのか? と思う。それも同性愛も禁止してないと。

「だからそなたを連れていく」
「は? それって拉致っていうんじゃ……」

 言いかけた声がひゃああああっ! という悲鳴に変わったのは、王様シャルムダーンとリョウが踏みしめている赤絨毯がいきなりしゅるしゅると巻き戻り始めたからだ。
 そしてリョウはその赤い絨毯のベルトコンベアにより、強制的に竜の背に運ばれた。後ろから抱きかかえるようにシャルムダーンが乗り込む。

「これって誘拐ですよ!」
「王はそのような罪に問われない!」

 高速で空を飛ぶ竜の背でリョウは声をあげる。

「国際法ってのがあるでしょうがぁああ!?」
「国同士の取り決めか? 今は世界存亡の時、救世主の召喚は許される!」
「救世主!? それでなんで僕に結婚申し込こんだんですか!」
「俺の花嫁になる気になったか?」
「こんな状況でなるわけないじゃないですか!」
「残念だ」

 空高く舞い上がった金竜は、青空にうかぶ黄金に輝く扉に飛びこんだ。
 背後で扉がパタンと閉まる。その瞬間にリョウは願った。

 「神様とやらがいらっしゃるなら、異世界に行って“理不尽に合わない程度”の力をください!」
「いいよ」

 やけに軽い声が、リョウの脳内に響いた。

「理不尽に合わない程度なんて、遠慮深くていいね。そういう『良い子』には、特別にとっても強い力を授けてあげよう」

 「いわゆるサイツヨ?」なんて頭に響き続けるそれに。

「ほどほどで、いいんですぅうううう!!」

 リョウは叫んだのだった。




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