異世界へはロイヤルカーペットにのって

志麻友紀

文字の大きさ
20 / 52

【20】わざとらしいお出迎え

しおりを挟む

   

「王におかれては無事のご帰還、なによりにございます」

 黒髪の美女の横に立つ、黒い髭の男がうやうやしく挨拶をした。だが、その目はちっとも笑っていないし、その言葉も口先だけのものだと、リョウは感じる。
 彼の臙脂のターバンに付けられた孔雀の羽が揺れる大きなダイヤモンド。首に幾つもつけられた首飾りに、胸に手を当てて挨拶したときに見えた腕輪も、さらには親指から小指まで全部の指にはめられていたごつい指輪。そこにはルビーにサファイア、エメラルドに、これでもかと宝石がぎらぎらと輝いていた。
 金糸銀糸の衣装も王であるシャルムダーンより、よほど豪奢というより、派手過ぎる。とにかくまるで自分の財産を見せつけるよう。

「出迎えご苦労、宰相カルムジャーよ」

 シャルムダーンが大様に応える。
「よくぞご無事でこのアイーシャの元へと戻られました、シャルムダーン様」
 そして、黒髪の美女が前へと出る。たったさっきまでリョウを睨みつけていた、黒真珠の瞳はうるうると潤み。
 王とは呼ばず彼の名を呼んだ。そのことで自分と王は親しいのだと、わざとらしく示すようではあった。

「シャルムダーン様がご出陣のあいだ、アイーシャは心配で心配で、神にずっとそのご無事をお祈りしておりました」

 さらに甘えるようなねっとりとした声で、シャルムダーンにしがみつこうとした。
 そのとき彼女からムスクの強い香水の香りがして、リョウはヴェールの内側で思わず顔をしかめたが。

「アイーシャも出迎えご苦労」

 シャルムダーンはさりげなく、自分の腕に手をかけようとする彼女を避けた。
 だけでなく、リョウを自分の腕に乗せるようにふわりと抱きあげたのだ。いちおうこれでも170はきっかりある。ギリある、男子を抱きあげるとは、さすがガチムチの腕とか、感心してる場合ではない! 
 なんで公衆の面前でこんな子供抱っこされたの? と固まるリョウと、潤んでいた黒真珠の瞳のまま、さっきの様にキイッと睨みつけるアイーシャ。
 潤んだ瞳がぎらぎら輝いて、さらに怖いんですけど! 

「救世主たるリョウだが、初めての討伐で疲れている。戦勝祝いの宴は三日後に開くことにする」

 そう、言い捨てて、リョウを抱えたまますたすたとシャルムダーンはテラスを去った。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 シャルムダーンに抱かれたまま、リョウは宮殿の奥へと連れられた。小部屋をいくつか抜けて、たどりついたのは臙脂や薔薇色を基調とした草花のタイル女性らしい部屋だった。
 部屋の奥には天蓋付きの大きなベッドがあり、その前に小卓を囲んだ椅子に、それから天井からつり下げられた可愛らしいブランコのようなソファーがあった。
 ベッドや卓のクッション、吊りソファーには青紫や赤紫が混じった地に金や銀の刺繍が施され、クッションの端に揺れる金銀の房も華やか。すべての意匠が花や蝶の模様がどこか可愛らしい。

「そなたのために急いで部屋を用意させた。気に入ったか?」
「寝られれば十分です」

 なにしろ暮らしていたのは、六畳一間の役所近くのアパートだ。当然、丁寧な暮らしだの、お洒落なインテリアで部屋を飾るなんて縁遠い暮らしをしていた。
 シングルのパイプベッドにパイプハンガー、プラスチックの衣装ケースに、三段ボックスに本が詰め込まれている。そんな生活だったからして。

「ただ、ちょっと……」
「ちょっと?」
「広すぎるのと華やかすぎて、落ち着かないぐらいですね」
「そなたはわが后なのだから、これぐらいはあたりまえだ。いや、取り急いで用意させた調度であるから、他に欲しいものがあればなんなりと」
「今のところはありませんし、僕はあなたの后ではありませんからね!」

 やはりこの部屋が女性的なのは、そういうことだったのかと、リョウは思う。
 それで部屋の装飾が気に入らないなんて口にしたら、さらにもったい無いことになりそうだったので、文句を言うことはなかったが。
 今さら花や蝶々がなんだというのだ。アパートで寝ていた布団だって、実家からもらってきたフルーツ柄のカバーであったし。
 それから、自分の世話係だという、小姓の少年を紹介された。名前はハキム。くりくりとした瞳のちょっと子リスを思わせる、愛嬌のある顔立ちの子だった。
 シャルムダーンはうるさい宰相や大臣どもとの話しをせねばならんと……名残惜しそうに部屋を出て行った。

「お疲れでしょう。お茶とお菓子をただいまお持ちします。おかけになってお待ちください」
「ありがとう」

 ハキムはさっそくテキパキと働き始めた。リョウは誘われるように吊りソファーへと腰掛けた。ゆらゆらとゆっくり揺れるのは、意外に心地よい。なるほどこれはロッキングチェアーにおじいさんやお婆さんが揺られているのと、同じか。とはいえ、リョウはそのロッキングチェアにも揺られたことはないけど。

「お待たせしました」

 ハキムが銀の盆を手に戻ってきた。差し出されたお茶はちょうど良い温度で、ミントのすっきりとした風味に、ほうっと息をつく。

「おいしい」
「お疲れのようでしたから、疲労に効く薬草茶をお入れしました。こちらのお菓子もどうぞ。中に入ってるナツメヤシもお疲れを取る効果があるのですよ」

 少年の屈託のない笑顔と気遣いに、微笑んでリョウは勧められた、菓子を口にした。ナツメヤシを飴で固めたそれは甘かったが、今はその甘みが疲れを癒すようだった。茶のめばミントのすっきりした風味がそれをさらりと流してくれる。

「失礼します」

 お茶とお菓子を出したと思ったら、すぐに部屋をでていったハキムは、今度は見事な彫金がほどこされた銀の盥にお湯を張ったものと、タオルを腕にかけてやってきた。
 それを足元に置くと、リョウのサンダルを脱がせて、お湯で足を洗い始める。

「い、いや、そんなことは自分で……」
「これがハキムのお仕事ですから」
「…………」

 にっこりと微笑まれてリョウは黙りこむ。
 たしかにダラハの街の豪商ワディの館でも、あの館の小姓に同じ事をされた。客人の砂で汚れた足を洗うのは自分の仕事だからと、困った顔をする少年に仕方ないと足を洗われた。
 現代人ならばなんでも自分でやるのは当たり前というか、使用人なんているのはそれこそ一握りの頂点のセレブだけだろう。
 跪かれて足を洗われるなんて、どうにも抵抗があるが、これがここでの彼らの仕事だというなら、奪うわけにはいかない。
 どうせ、ここにいる間のことだとリョウは、仕方ない……とまたくり返したのだった。




しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる

彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。 国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。 王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。 (誤字脱字報告は不要)

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

処理中です...