19 / 52
【19】あらためて、王宮。
しおりを挟む『それでね主、アタシったら恥ずかしいことに、酔っぱらって、朝目覚めたら、あのボウヤの首を枕にして寝ていたのよ!』
ダラハの町を飛び立って、銀竜アズラエルの背の上、リョウは彼? いや、彼女なのか? ともかく、アズラエル姐さんの、相変わらずの弾丸トークを聞いていた。
アズラエルに乗って王宮に帰ることに、シャルムダーンは不満げだった。彼は当然イスラフェルと相乗りで帰るつもりだったらしいが。
「僕には僕の竜が“神様”より与えられましたから」
『そうよ、アタシの主がアタシの背に乗らないで、その破廉恥雄の背にまたがるなんてあり得ないわ!』
アズラエルの声も重なって、こうして空へと舞い上がったのだが。
そのとたん。
『ねぇ、ねぇ、主、訊いてよ~』
と、始まったわけだ。
『本当にあの若い雄は頑固なのよ。アタシのことを愛してるといいながら、アタシのことをどうしても“妻”だって、上に乗るのは自分だって言い張るのよ!』
ボウヤとはイスラフェルのことだ。アズラエルは五百歳、イスラフェルは生まれて百歳のまだまだお尻に卵の殻がついている“ボウヤ”だとアズラエル姐さんは言い張るわけだ。
そして、人間が宴のあいだじゅう、竜達にも羊や鶏。そして最上位のイスラフェルとアズラエルには、酒樽にはいったワインもふるまわれたのだという。
『お肉は美味しかったし、ワインも極上だったわよ。アタシは頑固なボウヤとの言い争いにも疲れて、酒樽に顔をツッコんでごくごくワインを呑んだわけ。それで眠くなっちゃって』
このオネェドラコン、その酒で一度失敗して闇堕ちしたのを忘れたのか? と思ったら。
『あ、人間達がいくら感謝で捧げてくれた酒樽とはいえ、なにがあるかわからないって、あのボウヤが先に毒味して、なにも入ってないって確認してくれたのよ。ああいうところは紳士だし、いいい雄なのにさ。なんで、アタシが上になるのは嫌だっていうのかしら、ホント頑固』
ため息をつくアズラエル姐さんに、リョウはぼつりとつぶやく。
「男らしいから、下になるののが嫌なんだと思うけど?」
『なんでぇ? アタシを愛しているなら、出来るはずでしょ!』
「君だって、イスラフェルのこと好きなら、年上として、そこは譲ってやってもいいんじゃないか?」
『年上だからこそ、譲れない矜持ってものがあるのよ!』
そんな一人と一竜の様子をぴったり隣で飛行しながら、こちらをガン見しているシャルムダーンに、イスラフェル。たぶん自分達がどんな会話してるか、耳をそばだてているのだろう。
『どうして、こううまくいかないのかしら。愛って難しいわねぇ』
アズラエルのつぶやきに、リョウは「全くだ」と返事した。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
この世界に召喚されて、一番最初にはいった王都ムシャラ。
半日も滞在しておらず、ダラハの町に旅立った。アズラエルの背から眺めたとき、懐かしさはなかったが、やはり美しい街だと思う。
白い砂岩で作られた建物が並ぶ、整えられた大通り。所々に街路樹の緑が揺れる。
大小の広場の中央には必ず、静かに水が噴き上げる泉水がある。砂漠のただ中にあって、その豊かな水こそが、この豊かなオアシスの町の象徴の一つ。
そして、もう一つは。街の中央にあるひときわ大きな王宮。
大きな特徴ある滴のような形の膨らんだ中央の屋根にさらに小さめの屋根が四つ回りを取り囲んでいる。その屋根の緑のタイルも美しい。
中央の大きな屋根の下。列柱が並ぶ最上階の大きなテラスへと、金銀の竜は降り立った。飛竜達もそれに続く。
リョウがこの世界に来たときは、飛竜と竜騎兵達が出迎えた。
今回はその竜騎兵と共に帰還し、出迎えには白い髭のイムホテプが当然いた。が、その横にターバン飾りに大きな宝石、豪奢な衣装をまとった年かさの男達。それからきらびやかなアラビアンナイトのお姫様のようなドレスをまとった美女がいた。
雲のように高く結い上げた黒髪にも宝石が輝く。ヴェールを頭から被っているが、彼女の黒真珠のような瞳、赤い紅を塗られた唇をばっちりと見せていた。
リョウが被っているような、内側から外は見えるが、外からヴェールの内側が見えるものとは違う。
そう、リョウは朝の仕度からヴェールを被っていた。ダラハの街の人々の見送りにもヴェールをまとったまま、手を振り、シャルムダーンの手をとられて、アズラエルの背へと乗った。
そして、王宮へと帰還して、シャルムダーンが当然のように、自分に手を伸ばすのを、その手を取ってアズラエルの高い背から、抱きあげられるようにして降りる。
別に自分一人でも降りられるんだけどな~と思いつつ。
そのとき、突き刺さるような視線を感じて、そちらを見れば、互いにヴェール越しの視線が合った。リョウの顔が見えないヴェールと違い、透け透けの自分の美貌を見せびらかすためのような逆? ヴェール越し。
黒真珠の瞳の美女が、明らかに笑ってない敵意ある視線でこちらを見ていたのだ。
怖っ……と直感的に思った。
273
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました
水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。
新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。
それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。
「お前は俺の運命の番だ」
彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。
不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。
【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!
黒木 鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる